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異世界ライフは甘くない
旅立ちの日
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「モーヴ、本当に大丈夫なのか?」
時は飛んで2週間後。
伯爵家の一人息子こと俺、モーヴ・レインの旅立ちの日である。
前世の旅立ちと言えば、仕事から帰ってきた父親に財布とスマホだけを持たされ、怒声とともに家を追い出されたわけだが、今度はそんな恥ずかしいものではない。
そう、何を隠そう入学式である。10代におけるビッグイベントの1つだ。
本日より国内きっての名門校、ブランシュール・アカデミーの学生となるのだ。名門校に受かるなんて俺ってば天才。やるときはやるんだよな。
まぁ、受験当日は俺の自我はまだ顔を出していなかったけど。
というわけで、この盛大なお見送りは俺の入学と入寮に感慨深い気持ちでいっぱいの家族たちの集いと言うわけだ。
なので、俺を囲む視線は、好奇心旺盛なご近所さんたちという名の野次馬のものではなく、可愛い可愛い一人息子および坊ちゃんの独り立ちを悲しむ視線だ。
その視線に、いささか不安の色が滲んでいるのは、箱入りの俺が寮でやっていけるのかという不安が主な理由であって、断じて前世の自我を取り戻した俺の不可解な言動が原因ではない。たぶん。
まだまだ成長の余地ありな小さい俺の手を握り、不安そうに顔を覗き込む父親とその隣で同じ表情をしている母親に溌剌とした笑顔を見せる。
「はい! 大丈夫です!」
「本当に大丈夫だろうか……」
「えぇ、不安だわ……」
元気いっぱい、辺りに響き渡る清涼で返事をしたというのに、一層不安そうに見られるのは何故だろう。
おいおい子供だぞ。高校生だぞ。思春期真っ只中で無視されるより良くないか? うるせぇクソ親父! 何て罵声を浴びせるより良くないか?
今世の俺はそんなことはしない。何て言ったって、両親はそこそこ地位のある貴族なので。媚は売れるだけ売っておきたい。俺のためにどうぞ資産を増やしてくれ。
「エリオット、モーヴの事を頼んだぞ」
「はい、お任せください。命に代えてでもモーヴ様を卒業に導きます」
エリオットの言葉で見るからに安心する皆に言いたいことは山ほどあるが、まぁいい。
両親と使用人に甘やかされて過ごす、この豪邸での生活も悪くはないが、日に日に俺を見る目が珍獣を見るものになっていたので居心地が悪くなってきたところだ。
そろそろ、次のステップに進んだっていいだろう。次のステップ。そう、夢の学園生活である。
学生当時は勉強なんてクソ食らえとか思っていたけれど、社会に出てから痛感する学生の素晴らしさたるや。だって、仕事しなくても怒られないし。休日に1日中寝てたって家を追い出されないし。
そんな天国のような学生生活を再び味わえるだけではない。実は、この世界には魔法も存在しているのだ。
魔法! ファンタジー! 異世界転生の醍醐味!
何が素晴らしいって、この世界には魔王だとか魔物だとかそういう物騒なものが存在していないところだ。
異世界転生の蜜を凝縮したようなこの最高の世界で、憧れの魔法を習得してベッドから動かなくてもいい人生を勝ち取ってやる!
誰もがうらやむライフプランを脳内に描き、にまにまと笑みを浮かべていれば、隣から深い溜息が聞こえた。
共に馬車に乗り込んだエリオットである。
「なんだよ」
「階段から落ちて以来、モーヴ様の様子がおかしいので心配しているんです」
「お、おかしいって。普通だろ。ふつー」
「以前のモーヴ様はそんな言葉遣いされていませんでした」
エリオットのもっともな指摘は耳が痛いが、如何せん前世の癖が色濃く出てしまうのだ。
これまでモーヴとして生きてきた弊害だろうか。斎藤大輔の割合が日を追うごとに増えていっている気がする。
「学校ではちゃんとやるよ。俺だって、お貴族様に目付けられたくないし? 上手く取り入って見せるから安心しろって!」
ばしばしと肩を叩けば、心底呆れた様子で手を払われた。ひどい。
「何も余計なことはせず、大人しくしてください」
「へーへー分かったよ」
大人しく、な。楽勝楽勝。こう見えても中身は23歳の立派な大人よ。8歳も下のガキどもに後れをとるわけないだろ。
そんな自信を滲ませた俺の傲岸不遜な表情に、エリオットが再び深い溜息を溢したことも知らず、俺は、まだ見ぬ新しい学び舎に思いを馳せるのだった。
時は飛んで2週間後。
伯爵家の一人息子こと俺、モーヴ・レインの旅立ちの日である。
前世の旅立ちと言えば、仕事から帰ってきた父親に財布とスマホだけを持たされ、怒声とともに家を追い出されたわけだが、今度はそんな恥ずかしいものではない。
そう、何を隠そう入学式である。10代におけるビッグイベントの1つだ。
本日より国内きっての名門校、ブランシュール・アカデミーの学生となるのだ。名門校に受かるなんて俺ってば天才。やるときはやるんだよな。
まぁ、受験当日は俺の自我はまだ顔を出していなかったけど。
というわけで、この盛大なお見送りは俺の入学と入寮に感慨深い気持ちでいっぱいの家族たちの集いと言うわけだ。
なので、俺を囲む視線は、好奇心旺盛なご近所さんたちという名の野次馬のものではなく、可愛い可愛い一人息子および坊ちゃんの独り立ちを悲しむ視線だ。
その視線に、いささか不安の色が滲んでいるのは、箱入りの俺が寮でやっていけるのかという不安が主な理由であって、断じて前世の自我を取り戻した俺の不可解な言動が原因ではない。たぶん。
まだまだ成長の余地ありな小さい俺の手を握り、不安そうに顔を覗き込む父親とその隣で同じ表情をしている母親に溌剌とした笑顔を見せる。
「はい! 大丈夫です!」
「本当に大丈夫だろうか……」
「えぇ、不安だわ……」
元気いっぱい、辺りに響き渡る清涼で返事をしたというのに、一層不安そうに見られるのは何故だろう。
おいおい子供だぞ。高校生だぞ。思春期真っ只中で無視されるより良くないか? うるせぇクソ親父! 何て罵声を浴びせるより良くないか?
今世の俺はそんなことはしない。何て言ったって、両親はそこそこ地位のある貴族なので。媚は売れるだけ売っておきたい。俺のためにどうぞ資産を増やしてくれ。
「エリオット、モーヴの事を頼んだぞ」
「はい、お任せください。命に代えてでもモーヴ様を卒業に導きます」
エリオットの言葉で見るからに安心する皆に言いたいことは山ほどあるが、まぁいい。
両親と使用人に甘やかされて過ごす、この豪邸での生活も悪くはないが、日に日に俺を見る目が珍獣を見るものになっていたので居心地が悪くなってきたところだ。
そろそろ、次のステップに進んだっていいだろう。次のステップ。そう、夢の学園生活である。
学生当時は勉強なんてクソ食らえとか思っていたけれど、社会に出てから痛感する学生の素晴らしさたるや。だって、仕事しなくても怒られないし。休日に1日中寝てたって家を追い出されないし。
そんな天国のような学生生活を再び味わえるだけではない。実は、この世界には魔法も存在しているのだ。
魔法! ファンタジー! 異世界転生の醍醐味!
何が素晴らしいって、この世界には魔王だとか魔物だとかそういう物騒なものが存在していないところだ。
異世界転生の蜜を凝縮したようなこの最高の世界で、憧れの魔法を習得してベッドから動かなくてもいい人生を勝ち取ってやる!
誰もがうらやむライフプランを脳内に描き、にまにまと笑みを浮かべていれば、隣から深い溜息が聞こえた。
共に馬車に乗り込んだエリオットである。
「なんだよ」
「階段から落ちて以来、モーヴ様の様子がおかしいので心配しているんです」
「お、おかしいって。普通だろ。ふつー」
「以前のモーヴ様はそんな言葉遣いされていませんでした」
エリオットのもっともな指摘は耳が痛いが、如何せん前世の癖が色濃く出てしまうのだ。
これまでモーヴとして生きてきた弊害だろうか。斎藤大輔の割合が日を追うごとに増えていっている気がする。
「学校ではちゃんとやるよ。俺だって、お貴族様に目付けられたくないし? 上手く取り入って見せるから安心しろって!」
ばしばしと肩を叩けば、心底呆れた様子で手を払われた。ひどい。
「何も余計なことはせず、大人しくしてください」
「へーへー分かったよ」
大人しく、な。楽勝楽勝。こう見えても中身は23歳の立派な大人よ。8歳も下のガキどもに後れをとるわけないだろ。
そんな自信を滲ませた俺の傲岸不遜な表情に、エリオットが再び深い溜息を溢したことも知らず、俺は、まだ見ぬ新しい学び舎に思いを馳せるのだった。
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