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異世界ライフは甘くない
簀巻き浮遊感
しおりを挟むいるんだよな、たまに。こういう取り繕った態度が一切通じないやつ。
俺の舐め腐った本心を見透かしているのか、相手の態度で怒りの度合いを下げないだけなのか定かではないが、どちらにせよこういうタイプがこの状況でとるのは説教一択なので。
いつもなら逃げるが勝ちと走り出すわけだが、オーソドックスな変態の服装の今、廊下に飛び出したところで入学したての校内に変態の名を轟かせてしまうだけなのでそれも叶わず、せめてもの抵抗で頬を潰す手を引きはがしてみたのだが中々これが手強い。
「自らそんなアホみたいな恰好を選んだんですか、アンタは」
「はにゃしぇ!」
「選択肢ならほかでもあったでしょう!」
「しょんにゃこひょいっひゃっへ!」
そんなことと言ったってなかったんだよ!
潰された頬の中でもごもごと訴えるが何も伝わってないらしく「ちゃんと話すこともできないんですか」と更につぶしに掛ってくる。理不尽。
「まぁまぁ、そんなに怒らないであげてよ」
立ち上がったジェイドが、エリオットの肩を後ろへ引く。
「関係のない方は引っ込んでいただけますか」
「モーヴ君が可哀そうになっちゃってさ」
「ひぇいど……」
何て優しいんだ。思わず名前を呼べばエリオットの手に力が入る。
ひどい。
日に日にエリオットの僕に対する態度が雑になっている気がする。以前は優しくて頼もしい信頼のおける従者だったのに。
「それに、俺がしかるべきところで証言したっていいんだよ。モーヴ君の従者が生徒に危害を与えたって」
「そうなったら困るのは君の方じゃない?」と続けるのだ。さすがの横暴エリオットも思うところがあったのか、微塵も納得はしてなさそうな面持ちで手を放してくれた。二度目の襲撃は避けられるよう、距離を取っていると、ジェイドが「おいで」と手を伸ばす。
「ジェイド……ぅぐ」
その腕の中へ飛び込もうと腰を上げた瞬間、首根っこを掴まれてすぐさまベッドに引き戻される。起き上がる隙も与えられぬまま、タオルケットを押し付けられた。
「ちょ、何すんだよっ」
「何故そんな恰好でうろちょろできるんですか!? 大人しくしていてください!」
もっともな言い分に何も言い返せないがそこで引いたら男が廃るものだ。とは言え、いくら閉鎖的な空間であってもこの服で歩き回ることが異常なことをたった今自覚したので、押し付けられたタオルケットをありがたく体に巻き付ける。
広げたタオルの上に寝そべり、ぐるぐると回転して露出を抑えたわけだが、エリオットの珍獣を見る目には気づかなかったことにしよう。
巻き終えたところでエリオットを見上げる。なんだかそのまま担ぎ上げられそうな気がしたためベッドの端まで転がり逃げた。
くるくると逃げる俺のせいか、エリオットのこめかみに青筋が浮かんでいるがまぁ良しとする。それよりも気になることがあった。
「で、何でここにいるんだよ」
ブランシュールは国内有数の進学校と言うヤツで、自ずとその生徒のほとんどは貴族らしい。そのこともあって、寮には一生徒一人まで従者が許可されているのだが、それはあくまで寮内だけだ。いくら従者とは言え、校内に入ることは禁止されている。
だから、身分の高い生徒は従者もこの学園に入学していて付きっきりで傅いているらしい。
ちなみに、攻略対象の1人であるガイル・ハーヴィンはこの学園の生徒であると同時に、悪役令息カーティス・ダルクレインの護衛でもある。
いくら法も常識もない学校とは言え、それくらいのルールくらいはちゃんと守られていると思っていたのだが。ベッドの上を逃げ惑う俺に笑っているジェイドも俺に同意するように「あぁ、それは俺も気になるなぁ」と呟く。
「どうやって入ったの? 君、従者だよね」
ベッドに腰かけ、そう尋ねるジェイドの声がとげとげしいのは気のせいではないと思う。
エリオットを見遣る視線だって随分と鋭いのが俺でさえ分かるのだから、エリオットも気づいているに違いないのに、一切気にしていないのは何故なのか。その神経の図太さを見習っていきたい。
というか、俺が言えたことでもないが先生に向かってその態度はどうかと思うぞ。俺が言える立場じゃないけど。
「普通に入りましたよ。許可証は頂いてますし」
「普通、ねぇ……」
もしかして、無許可で入っていたりするのだろうか。その場合、どんなことになることやら。俺は見たくないぞ。頼りになるエリオットがケツの処女を奪われる瞬間は。
「え、エリオット、今なら間に合うから一緒に謝ろ? な?」
「一体何の話ですか」
「いやだって、……お前だって嫌だろ、その、ほら……な?」
「またよく分からないことを……。さぁ、早く帰りますよ」
あ、コイツ逃げる気だな。
真面目なようで実はこっち側だろ。逃げるが勝ちを座右の銘としてフリーターをこなしていた俺と同じ匂いがする。これは先輩からのありがたい助言だが、一度ついた逃げ癖はいい年になっても治らないものだぞ。
というか。
「いや、一人で帰っていいよ」
「は?」
いくら全裸か白衣といつ最悪の二択に簀巻きが追加されたとしても、外へ出ることを憚る恰好に違いはない。
俺はまだ、普通の学生として扱われたい。
「馬鹿なこと言ってないで帰りますよ」
「や、やだ。せめて制服が乾くまで待って――」
タオルにくるまれて動けない体をエリオットの小脇に抱えられた瞬間、視界が白く染まる。空へ放り出されたような感覚に全身が包まれ目を固く瞑ること数秒。悲鳴を上げることすらできなかった俺が次に目を開いたとき広がっていたのは、やけに現代臭漂う保健室ではなく、異国情緒溢れる部屋だった。
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