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初デートの鉄則
映画館で見る例のアレ
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「今日は観劇に行きます!」
「観劇?」
「はい! ずっと観てみたかった劇のチケットを頂けたので、一緒に行ってほしくて……いいですか?」
「も、もちろん!」
デート当日。
ミリたその希望である、王都の中央にある劇場へと向かう。
寮の入り口で待ち合わせてから向かう目的地までの道のりは、前世を思い出してから初めて通るからどこかしこに目移りしてしまったが、ミリたその隣でキョロキョロと落ち着かないのはみっともないよなと、湧き上がる好奇心を必死に抑えつけていたのだけれど。
「すっげ……」
目の前に聳える歴史を感じさせる石造りの建造物を、見上げ、まぬけに口を開けた。
広場の中央に立つ金の像は観客を歓迎するかのごとく両手を広げ、燦々と輝いている。絢爛たるそれに、ついつい目を引かれてしまうが、もっとすごいのはその後方に聳える劇場だ。
太陽に照らされて陰影を濃くした壁面の彫刻は、モーヴの実家や校内のものと比べることすら烏滸がましく感じてしまうほど精巧で、瞬きのたびに表情を変える。人々を吸い込む、等間隔に並んだアーチの入り口の頂上には、それぞれ劇場のシンボルマークらしきものと、有名な俳優だろうか、人物が飾られている。あまりにもよくできていて、今すぐにでも動き出しそうな石像に、思わず見とれてしまった。
「大きいですね……」
俺と同様に圧倒されているのだろう。上の空なミリたその呟きで我に返った。
「さすが王都一の劇場です」
「な……。俺、初めて来た……」
「僕もです」
「少し緊張してしまいますが、楽しみましょうね」そう顔を覗き込むミリたその目を見て、こくりと頷いた。
正直、誘いを受けてからミリたそのことしか頭になかったが、せっかくの異世界探検だ。目一杯楽しもうと思う。
ミリたそが貰ったというチケットについてだが、さすが貴族というべきか、多分すっごくいい席だ。
正面ではないものの、ステージ全体を俯瞰することができる2階席で、各スペースにはそれぞれ1組ずつしか入れないらしい。座らなくても分かる程座面が柔らかい二人掛けのソファとこれまた高そうなサイドテーブルが置かれたその空間の待遇の良さは、1階にただ敷き詰められている一般席と比べれば一目瞭然だ。
ミリたそに促されるがままに座ったソファは想像通り、いや想像以上に座り心地が良くてだらしなく沈み込ませた。モーヴの実家にあるソファもなかなかのものだったが、ここのソファは段違いだ。演劇を見るために長時間座ることを想定されているから力を入れているのだろう。
背もたれに身体を預けたところで、座面が沈み反射で背筋をピンと伸ばす。拳一つ分だけ開いた隣、そこへ座るミリたそに全身から汗がぶわと吹き出す。
用意された席はこのソファ1つだから、隣に座ることは致し方ないが、もしかして約2時間この距離でいるということだろうか。授業で隣に座ることとはわけが違う。あれは隣でこそあれ席は独立した1人掛けだし。
でもこれは、ちょっと動いただけで膝と膝が触れ合ってしまう距離じゃん!
「……はっ、これが 噂のカップルシート……!?」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も……!」
映画館でいちゃつくカップルを横目で見ることしかなかった俺がたぐいまれなる顔面を持った推しとカップルシートに座るなんて……。もしかすると前世の俺は知らず知らずのうちに世界を救っていたのかもしれない……。
「そうですか? ……あ、もうすぐ始まるみたいです。楽しみですね」
「う、うん、楽しみ……」
会場の照明が少しずつ落とされ、しばらくするとブザー音が鳴り響き、会場が静寂に包まれる。物語のはじまりを知らせる言葉と同時にステージを覆う幕が上がり、一人の少女の独白が始まった。
観客すべてがステージに注目する中、そっと隣を盗み見る。少し前のめりでステージに見入るミリたその照明を受けほのかに光る瞳は、真っすぐ前を見据えていて俺の方なんて微塵も気にしていない。けれど、役者の動きに合わせて身じろぎするたび浮き沈みするソファの座面に平常心を保っていられるわけもなく、ごくりと喉を鳴らす。
非日常な空間に押し上げられた緊張感と、すぐ隣に座るミリたその存在感に高まる鼓動の中、手の平に滲む汗をズボンに擦りつけた。
「観劇?」
「はい! ずっと観てみたかった劇のチケットを頂けたので、一緒に行ってほしくて……いいですか?」
「も、もちろん!」
デート当日。
ミリたその希望である、王都の中央にある劇場へと向かう。
寮の入り口で待ち合わせてから向かう目的地までの道のりは、前世を思い出してから初めて通るからどこかしこに目移りしてしまったが、ミリたその隣でキョロキョロと落ち着かないのはみっともないよなと、湧き上がる好奇心を必死に抑えつけていたのだけれど。
「すっげ……」
目の前に聳える歴史を感じさせる石造りの建造物を、見上げ、まぬけに口を開けた。
広場の中央に立つ金の像は観客を歓迎するかのごとく両手を広げ、燦々と輝いている。絢爛たるそれに、ついつい目を引かれてしまうが、もっとすごいのはその後方に聳える劇場だ。
太陽に照らされて陰影を濃くした壁面の彫刻は、モーヴの実家や校内のものと比べることすら烏滸がましく感じてしまうほど精巧で、瞬きのたびに表情を変える。人々を吸い込む、等間隔に並んだアーチの入り口の頂上には、それぞれ劇場のシンボルマークらしきものと、有名な俳優だろうか、人物が飾られている。あまりにもよくできていて、今すぐにでも動き出しそうな石像に、思わず見とれてしまった。
「大きいですね……」
俺と同様に圧倒されているのだろう。上の空なミリたその呟きで我に返った。
「さすが王都一の劇場です」
「な……。俺、初めて来た……」
「僕もです」
「少し緊張してしまいますが、楽しみましょうね」そう顔を覗き込むミリたその目を見て、こくりと頷いた。
正直、誘いを受けてからミリたそのことしか頭になかったが、せっかくの異世界探検だ。目一杯楽しもうと思う。
ミリたそが貰ったというチケットについてだが、さすが貴族というべきか、多分すっごくいい席だ。
正面ではないものの、ステージ全体を俯瞰することができる2階席で、各スペースにはそれぞれ1組ずつしか入れないらしい。座らなくても分かる程座面が柔らかい二人掛けのソファとこれまた高そうなサイドテーブルが置かれたその空間の待遇の良さは、1階にただ敷き詰められている一般席と比べれば一目瞭然だ。
ミリたそに促されるがままに座ったソファは想像通り、いや想像以上に座り心地が良くてだらしなく沈み込ませた。モーヴの実家にあるソファもなかなかのものだったが、ここのソファは段違いだ。演劇を見るために長時間座ることを想定されているから力を入れているのだろう。
背もたれに身体を預けたところで、座面が沈み反射で背筋をピンと伸ばす。拳一つ分だけ開いた隣、そこへ座るミリたそに全身から汗がぶわと吹き出す。
用意された席はこのソファ1つだから、隣に座ることは致し方ないが、もしかして約2時間この距離でいるということだろうか。授業で隣に座ることとはわけが違う。あれは隣でこそあれ席は独立した1人掛けだし。
でもこれは、ちょっと動いただけで膝と膝が触れ合ってしまう距離じゃん!
「……はっ、これが 噂のカップルシート……!?」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も……!」
映画館でいちゃつくカップルを横目で見ることしかなかった俺がたぐいまれなる顔面を持った推しとカップルシートに座るなんて……。もしかすると前世の俺は知らず知らずのうちに世界を救っていたのかもしれない……。
「そうですか? ……あ、もうすぐ始まるみたいです。楽しみですね」
「う、うん、楽しみ……」
会場の照明が少しずつ落とされ、しばらくするとブザー音が鳴り響き、会場が静寂に包まれる。物語のはじまりを知らせる言葉と同時にステージを覆う幕が上がり、一人の少女の独白が始まった。
観客すべてがステージに注目する中、そっと隣を盗み見る。少し前のめりでステージに見入るミリたその照明を受けほのかに光る瞳は、真っすぐ前を見据えていて俺の方なんて微塵も気にしていない。けれど、役者の動きに合わせて身じろぎするたび浮き沈みするソファの座面に平常心を保っていられるわけもなく、ごくりと喉を鳴らす。
非日常な空間に押し上げられた緊張感と、すぐ隣に座るミリたその存在感に高まる鼓動の中、手の平に滲む汗をズボンに擦りつけた。
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