最強の触手使いに俺はなる

木全伸治

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第三王子マヒト親征

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ギルド長は、自ら弓を手に戦っていた。
ヒュンと弦が唸るたびに、射抜かれた魔物の悲鳴が上がっていた。
うむ、まだ腕は鈍っていないなと、少し満足する。が、数が多い。最初は、魔物の群れが街に近づいているという報せだった。野生の群れがたまたま街に近づいているだけだと。まず、その様子を探らせるため、数名の冒険者を送り、それがただの群れではなく、統率された集団だと知り、慌てて魔法使いに町の周りの地面を隆起させ、簡易の土塁を築かせ、すぐ、王都に援軍を求める伝令を出した。
最初から、勝てるとは思っていなかった。援軍が到着するまで街を守れば、何とかなると考えていた。それ以外の手はないと。が、魔法使いたちが魔力切れして、次々と負傷者が後方に下がり、数で押してくる敵にギルドの冒険者だけではジリ貧なのは明確だった。ギルドの冒険者だけで、敵中突破を図り、逃げることも考えた。が、それでは町の住民を見殺しにする。街には治安維持の衛兵もいたが、せいぜい、スリ、かっぱらい、泥棒などを取り締まる程度の者たちだった。この辺りの領主様も多少の兵を連れて来てくれていたが、焼け石に水状態だった。
まだ、街に魔物は一匹も入っていないが、どう見てもこちらの旗色が悪い。
ここまでかと思いつつ、それでも逃げ出すわけにもいかず。とにかく矢を放ち続けた。
魔王軍と戦うことなど想定して今までギルドを運営していたわけではない。こうなると予想できたなら、街を囲う壁を、もっと強固な城壁にしていたし、街を守るために軍の駐屯を懇願していた。こんな日が来るなんて誰も想像できなかったほど、ここは田舎であり、魔王軍に狙われる理由も、正直分からなかった。
あの触手王が、実は人間を、特に女性を魔物たちから守っていたなど、ギルド長は知らなかった。そして、吸血鬼も食料である血を守るため人間の守護者だったことも長は知らない。
その一方の触手王が倒れ、それを好機と考えた魔王軍が進軍してきたという事情を、知るはずもなかった。
魔物の死体が、ゴロゴロ転がっていたが、相手をした女格闘家も無傷ではなかった。
しかも、魔力切れで疲れ切っている女魔法使いを庇うように戦うのは楽ではなかった。魔物の牙で、あちこち傷だらけで、神殿に負傷者として下がっても良かったのだが、下るタイミングを逃し、いまここを離れたら無防備の女魔法使いが、犠牲になりそうで、ここを動けなかった。
「あの、触手の坊や、元気かしら、この前のどんちゃん騒ぎ、本当に楽しかったわよね」
女魔法使いが、とても懐かしそうぶやく。
「そうね、これがすんだら、またみんなで騒ぎましょ、あの触手の坊やと一緒に、すごいエロいことしましょっか」
女格闘家も気力を絞り出しつつ、拳を握って、女魔法使いに笑い掛ける。数百、数千ものオオネズミの群れが迫って来るのが見えた。あれに食い殺されて死ぬのは嫌だなと思いつつ、ファイテイングポーズを取った。
が、空から黒い大きな物体が飛んできて、その迫っていたオオネズミたちを次々と襲い始めた。
「え、なに? 仲間割れ」
ポカンとする彼女たちの目の前で、オオコウモリたちが、味方だったはずのゴブリン、オーク、オオネズミらを狩り始めた。オオコウモリの方が数は少ないが、空から襲うので優勢のようだった。
「なんだ、何が始まった?」
ギルド長にも訳が分からず、しかも、その同士討ちだけでなく、魔王軍全体が街から離れ始めていた。
死を覚悟した女格闘家たちも、女神に傷を癒され戦いに戻ろうと戻ろうとした冒険者たちも、肩透かしのような気分を味わっていた。
しかも、後退した魔物たちは、人狼椅子に座る吸血鬼の前で膝を折り頭を垂れていた。まるで、吸血鬼こそが自分たちの崇める魔王だと言わんばかりに数千数万の魔物が控えていた。完全に軍門に下ったつもりらしいそれらを前に吸血鬼はぽつりと俺に向かって言った。
「あとは、任せる。余は城に戻るぞ」
「へ?」
「もうすぐ日が昇る、悪いかい?」
驚く俺に、吸血鬼はきっぱりと言った。
「そなた、余に、太陽の光を浴びろというのか?」
確かに、吸血鬼が夜の明ける前に寝床に帰るのは当然だろう。
だが、任されても、どうすればいいか分からないというのが本音だった。
けれど、困惑する俺を無視して、ひとの姿から狼になった人狼に跨って吸血鬼は自分の城を目指して去って行った。
そして。魔物たちは命令されていないが、その後を、のそのそとついて行った。
「え、ちょ、ちょっと・・・」
戦場に魔物たちの死骸を残し、彼らが去って行く。しかも、茫然とする俺と一緒に残されたのは尻尾をちぎられて動けない半人半蛇の敵将だけになった。
「なんだ、お前らの勝ちだというのに、なんてなさけない顔をしておる」
敗軍の将が、俺に突っ込む。
「いや、これは、俺の勝利じゃないし、勝ったのは吸血鬼で、俺はたいしたことは・・・」
「それは、我には嫌味にしか聞こえんぞ。お主らが突っ込んできて、戦って敗れた。それが事実、そして、その勝者にお前は任された。さ、我を好きにするといい。敗軍の将として首をさらすのも、お前の自由だ」
敗軍の将としてすっかり覚悟を決めたように動けない半人半蛇の彼女が俺を見ていた。
「いや、首をさらすなんてしないよ。それに俺は冒険者だ。武人の作法なんて知らないし、捕虜として、街に連れて行く。街の偉い人が、あんたの処遇を決めるだろうさ」
俺は触手で、彼女をお姫様抱っこした。オーガと同じくらい大柄だが、俺の触手で担ぎ上げられない重さではなかった。お姫様抱っこをしながら、戦場に残された魔物の死体をすり抜けて、街に向かった。
突然魔王軍が後退し、そこに敵将を抱えた俺が現れたのだから、みな当然驚いた。
街には治安を守る衛兵の詰め所があり、そこに牢屋はあったが、魔王軍の将である彼女をとらえておくのは不安と町長や領主も冒険者を多く有するギルドの地下室にとらえておくようにギルド長に頼み、ギルド長も捕まえたのがギルドの冒険者ということで、その厄介者を引き受けることにし、俺も彼女をギルドに運んだ。ギルドでは疲れ切った冒険者たちが、床に雑魚寝していた。雑魚寝している連中の中には、女格闘家、女魔法使い、獣人親子の姿もあった。
その中で、団長と女剣士が、のんびりと朝食を食っていた。
そして、大柄な彼女をお姫様抱っこしている俺を見て、クスリと笑われた。受付のお姉さんに地下室に案内してもらい、地下に下りる。そこには、しっかりとした牢屋があった。昔は、とらえた盗賊などを一時的にギルドが拘束し、犯罪者を領主に引き渡すまで拘留するのに使われたそうだ。
今は、物置として、使われていて、彼女を入れる前に俺が触手で荷物を出して、彼女を入れる。恨み言もなく
終始、彼女はおとなしかった。
「傷は大丈夫か、手当は必要か?」
「あ、こんなの、また生えてくるから。気にするな。血ももう出ていない」
そう言って蛇のようにうねって俺に傷口を見る。生々しい肉がむき出しだったが、確かに血は止まっていた。トカゲの尻尾と同じようだ。
だが、下半身がないとはいえ、地下まで運ぶまで、正直、暴れられたらどうしようと内心ビクビクしていた。彼女の下半身をちぎったのは吸血鬼であり、俺は街まで運んだだけだ。とりあえず、彼女がジタバタしないようなので、俺は地下室から出た。
受付のお姉さんが、「朝めし、食べますか」と優しく声を駆けてくれた。吸血鬼の城で晩餐を楽しんだが、あれから
夜が明けるまで運動させていただいたので空腹だった。
俺は、団長や女剣士がいるテーブルで一緒に朝食を食べながら、各々どんな戦いをしたのか情報を交換した。もちろん、俺は敵本陣に突っ込んで吸血鬼が圧倒し魔物たちを引き連れるように去ったことを話した。
「やっぱりね、あんたが大活躍するわけないと思った」
「いやいや、俺だって敵のど真ん中で大暴れしたさ」
「ま、いいじゃないか、街は無事で、魔物たちは去って行き、みな生きてる、大勝利でいいじゃないか」
朝から酒を飲んでいる団長さんが、豪快にガハハと笑い、そう締めくくった。その笑い声で目が覚めたのか獣人娘が親を置いて、俺たちの方に来た。
「あ、朝飯だ、いいな、いいな。私もお腹空いた」
そうして、互いに生きていることを確認し合い、みなで朝食を食べた。
陽が登り明るくなると、家の中に隠れて怯えていた住民たちが出て来て、残された魔物の死体を山積みにして燃やし
始めた。放置して腐敗すると疫病の元になるので、死体処理は重要なことだった。
そうして戦場の片づけが進んだ昼過ぎ、ようやく王都から援軍が到着した。立派な装備に騎兵を従えた彼らを指揮していたのはこの国の第三王子だった。第三ということで、王位継承権のトップではないので、魔王軍討伐という功績欲しさに出陣してきたのだった。
彼を支持する貴族も、彼に箔をつけたくて兵を出して、かなりの大軍勢になっていたのだが、せっかく出陣したのに、その戦場に敵はおらず、すでに戦後の処理が始まっていて、王子らは混乱し、街の町長や領主、ギルド長を呼び出して、王子の前でどういうことなのか説明させた。
そして、敵陣に突っ込んで活躍した俺が呼び出された。
王子は、滅茶苦茶、機嫌が悪かった。
せっかく勇んで出てきたら、戦うべき相手が、もういないのだから、これでは目的である功績は得られない。
俺の腕の触手を見ると、その不機嫌さに拍車がかかったようで。
「なんだ、このような化け物が、此度の戦いの功労者だと、ふざけるな!」
王子は俺に向かって叫び、にたりと笑った。
「そうか、分かったぞ、此度の騒動、魔族どもの計略だな、その者をとらえよ」
「え、いや、この腕は・・・」
俺は弁明の機会も与えられず、その場でいきなり拘束された。しかも、捕虜となっている下半身のない彼女とともに翌朝処刑されることまで決まった。
俺たちを処刑することで、強引に自分の功績を作りたいようだ。
もちろん、ギルド長は抗議してくれたが、王子は、自分に口答えするギルド長まで処刑しそうな態度だったので、誰も文句は言えなくなった。
触手を使って暴れようかとも思ったが、そんなことをすれば、余計に俺は怪しまれ、国中から魔族として追われかねなかった。



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