マス・ゲーム

犬神日明

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マス・ゲーム

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「デスク、やりましたよ!特ダネですっ。」
勢いよく飛び込んで来たのは記者の畠中である。さっきの電話では興奮しすぎていて何が何だか分からなかった。先ずは落ち着かせ話を聞かなければならない。
「百花ちゃんのバラバラ事件、アレやっぱり母親の仕業ですよ。」
編集長の臼井が右手で声を落とすように指示し詳細を報告させる。
「近くの中学生が見てるんです。真っ黒なゴミ袋を持って母親の景子が家の裏口から出て行くのを。」
「エリアの指定ゴミ袋は確認したか?」
畠中がバックから3種類のゴミ袋を取り出して見せる。赤に黄色、水色のビニール袋でいずれも半透明である。臼井の頭に母親の景子の顔が浮かぶ。狐に似た鋭い目つきの決して美人とは言えない女だった。
「ヨシ、次号に間に合わせろ!」
臼井はほくそ笑む。
これでまた売上倍増だ。

編集部の廊下で記者の坂下が自分のスマホに向かって小声で囁き出した。
「あ、もしもし。ええ、例の百花ちゃんの事件、こっちは母親の線で記事を書きます。なんでも中学生が家の裏口から黒いビニール袋を持って出て行くところを目撃したそうです。その時に物凄い目で睨まれたんだそうです。」
周囲を見回した坂下が更に声を潜める。
「例の口座に、ええ。お願いしますよ。ちょっと色を付けてもらっても…。」
電話を切られたのだろう。スマホを耳から離し舌打ちする。記者仲間に訝し気に見られるのを嫌い廊下を出口の方に歩きながらスマホをタップする。
「あ、どうも。例の百花ちゃん事件、ええ。情報が入りました。」

週刊誌の発売日、発売された週刊誌の見出しが概ねきれいに揃った。
『百花ちゃん事件 犯人は母親か?』
記事の内容は微妙に異なってはいる。目撃者の中学生の性別が異なっていたり、睨まれたとするものや不気味に笑っていたとするもの、中には黒いビニール袋から液体が滴っていたというものまで。
その日はテレビ局も各局週刊誌を元に番組を組み立てている。
「ちょっと待って下さいよ、山本さん。すると自宅の裏口から出て来た百花ちゃんのお母さんが、中学生の女の子をひと睨みした後、ニンマリと笑って出て行ったと。」
司会者が確認するとレポーターが苦虫を嚙み潰したような顔で頷いて見せる。
「そうなんです。しかもその女子中学生は道路に付いた液体も見ているんです。今思えば血だったんじゃないかと言っているようですね。」
「ちょっと、待って下さいよ。先週の放送では家族仲は良かったってことでしたよね?母親を疑うなら動機は何ですか?」
コメンテーターの一人、落語家の華家江戸丸が口を挟む。レポーターが重々しく口を開いた。
「それは今後の捜査を待つしかないでしょうねぇ。」

新聞も同様の記事を載せ始め翌週の週刊誌の記事が進化していく。
『景子夫人に男の影』
『日常的虐待はあった⁈教師が見た、百花ちゃんの腹部に痣が。』
「デスク、特別会計についてスクープですっ!」
飛び込んで来た若い記者を臼井はひと睨みして黙らせる。
「畠中、間違いないんだな?」
「ええ、間違いありません。忘年会毒物無差別殺人事件、重要容疑者が判明しました。」
臼井と畠中が何やら小声でやり取りを始める。
「よし、来週のトップ記事は決まりだ。よくやった、畠中。また社長表彰だ。お前こそマスコミ界の寵児だ。」
三浦景子が警察に逮捕されたのは一昨日のことだ。二人のやり取りに耳をそばだてていた坂下が席を立って部屋を出て行く。

「ちょっと待って下さいよ、山本さん。すると会長さんが、その、河豚の肉を鍋に入れたのを複数の人が見ているんですね?」
レポーターの報告を遮って司会者が目を丸くしている。ゆっくりと頷くレポーターに江戸丸が疑問を投げかける。
「ちょっとまって!会長さんはもう85歳ですよね?今更権力争いする必要なんかあるんですかね?」
その宴席は日本を代表する巨大企業の幹部限定の宴席だったのだ。
「ええ、そうなんです。それは警察の今後の捜査結果を待つしかありませんね。」

銀座の会員制クラブの特別室で緊張した面持ちの畠中は己の安物のスーツを気にしていた。付いたホステスが冷笑を浮かべているような気がしてしまったからだ。目の前に座る金髪の白人が革のバックから分厚い封筒を取り出してポンとテーブルに投げた。畠中は大急ぎでそれに手を伸ばす。
「マダ、ヨワイネ。モスコシ、オイコンデ、クレナイト。」
かの国が輸出したがっているのは当該企業の主力商品だ。畠中は封筒を両手に抱いて深々と頭を下げる。
「As you command.」
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