徒花の彼

砂詠 飛来

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裏庭の彼

五、

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 あれは、高校生活で初めての校外学習のときだった。

 近県に、有名な美術館があるとかで、クラスみんなで見学に行った。こんなこと、高校生になってまでやるだなんて思っていなかった。芸術なんて興味ないし、大勢でぞろぞろと歩きまわるのが苦手だ。

 それでも、その日はとても楽しみだった。一緒にまわる班に、結城が居たからだ。結城は美術館へ行くことをわりと楽しみにしていて、そんな彼を傍で見られるなら、僕も参加しなければと思ったのだ。

「そんなに遠くないんだな。ここならひとりでも行ける」

 ちいさな声で結城は笑った。

「行くときは僕も誘ってよ」

「え? 潤一も絵とか好きなの?」

「まだ好きじゃないから、これから好きになろうかなって。絵のこといろいろ教えてよ、結城が」

 入学して半月が経って、僕たちは名前で呼び合うようになっていた。結城は純粋に友情だと思っているみたいだったけど、僕はちがった。一日でも早く結城のことが知りたかったし、僕のことも知ってほしかった。

 むかしから男の子ばかり好きになっていたけど、それなりに性の知識を得てしまった高校生だから、いろんなことを結城で妄想した。こんな気持ちの悪いこと、すこしでも悟られまいと、僕は常に必死だった。
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