徒花の彼

砂詠 飛来

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屋上の彼

二、

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 俺は潤一さんのことを諦めきれずにいた。高校に入学して、いちばん最初に俺に優しくしてくれた人。少女マンガに出てきそうなその見た目と、見た目のイメージとはすこし違った低い声と、一気に心を惹かれた。

 廊下で潤一さんとぶつかったあの日のことをいまでも覚えている。

 潤一さんの傍にいたくて、よく判らないが生活係とかいう委員会に入ったのはいいけれど、そこにはとんだお邪魔虫がいた。

 橋本結城という不良だった。

 こいつのことはあまり語りたくもないし、考えたくもない。こいつは俺をお邪魔虫にして、潤一さんとくっついて、、、、、しまった。だから、潤一さんのことを考えようとすると、いやでもこいつのことも連想してしまう。

 桜が舞う日に、花びらと一緒に散った俺の恋。

 男だとか女だとか、そんなことの前に、潤一さんを見た瞬間から「触りたい」と思ってしまったのだから、これはしょうがない。

 いっそのこと、潤一さんのことも嫌いになれたら楽なのに。

 嫌いになりたいのになれない潤一さんと、嫌いになりすぎてこれ以上は嫌いになれない橋本結城と、委員会で顔を合せる。潤一さんはなにも言わずにただニコニコしているけれど、俺がまたちょっかいを出さないか橋本結城は目を光らせている。とても居心地が悪い。

 その居心地の悪さを緩和させてくれたのが、先生だった。

 須堂実幸みゆき

 綺麗な響きと字。

 過疎っている生活係の顧問をしている須堂先生。理科の教師でもあって、いつもくたびれた白衣を着ている。

 整えているのか寝癖なのか判らない黒い髪には、幾筋か白いものが混じっている。名前を聞いたときは女の人かと思ったが、先生の見た目は中年男性そのものだ。

「いやぁ、新入生が入ってくれるなんて! 宮下と橋本だけになっちゃったら、この委員会は終わりだもんねぇ」

 どうも他人事のように話す先生に、俺の心はざわついた。

 生活係の教室を出て行く潤一さんと橋本結城を見つめながら、俺はまだ椅子に座ったままでいた。

 それまで机の引き出しという引き出しを開けては閉め、閉めては開けをくり返していた須堂先生が、じっと俺のことを見つめてきた。

「名前は?」

「え、ああ‥‥一年A組の原瀬亮太です」

「なるほど」

 二、三回うなずいた先生は、俺の背にまわり、

「それじゃ、これからよろしくね」

 それなりに強い力で俺の両肩をつかみ、教室を出て行った。
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