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正しさと嘘 平和と真実
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▽
「いっけぇー!リウ!やっちゃえー!」
愛らしい少年の掛け声と共に、どぉん、どぉん、と鼓膜だけでなく、身体さえも震わす様な、聞いたこともない鈍い音が山中に轟く。
…相変わらず、末恐ろしい男だ。
ベヒモスと名乗った、明らかに人とは思えぬ大男の拳や蹴りによる攻撃を、リウはいなすだけではなく、敢えて同時に攻撃を放ち、それを相殺している。
傍目からはまるで何気無いことの様にも見えるが、ベヒモスは素手であるにも関わらず、たったの数撃でリウの手甲や足甲を破壊した、少なくとも、自分の様なただの人間が食らえば、単なる肉塊に成り果てることは想像に難くない程の威力がある。
そんな攻撃を恐れもせず、果敢に挑んでいけるのは、やはり、あのリウの異常な性質故だろう。
ソレイユでの戦い、そして、先ほどガラス片を抜いた時にも目にした、あの異質な力。
確かに、彼を“勇者”と呼びたくなる気持ちも分からなくはない。
だが、微かな御伽噺でしか知らない“勇者”の力が、ああも人智を超えたものであると、神や勇者に縋ることさえ諦めたあたしにとっては、ひどく恐ろしく感じられて、仕方がなかった。
そして、そんな彼をきょうだいと呼ぶ、隊長を含む彼らのことも。
…しかし、彼らから離れたところで、何も無い自分に何が出来るのだろうか。
ずっと握り続けているにも関わらず、なかなか熱の伝わらない隊長の冷たい手と、目に穴が開いてしまっていた時には、恐ろしく、目を背けてしまっていた顔を見やる。
ある程度顔色は良くなったが、相変わらず、静かな呼吸を繰り返して眠る隊長に、安堵とも、ため息ともつかぬ、小さな吐息が漏れる。
隊長や指揮官に裏切られていた、というよりも、他の者たちと同じように、捨て駒として扱われていたことを知った時には、ひどく辛かった。
別に、レイダット・アダマーにいた他の者たちが皆が死んでも構わないなどと言うつもりもないが、特段彼らに対する、情などは無かっただけに、二人からの信頼と信用だけが、心の拠り所だったのだ。
例えば、レイダット・アダマーにいた頃、階級や財産による差別や、不当なまでの隷属を強要されない、素晴らしい国を創り上げたいと願っていたのも、本当は自分の願望ではなく、彼らが何の気なしに発していた言葉から、都合の良い言葉を切り貼りして想像した、得点稼ぎのための願いであったのかもしれない。
現に、コハブで隊長と暮らした、三年間を思い起こすと、それだけで心が満たされ、他を望むだけの余力がなくなってしまうのだから。
しかし、それ故に、“あの女”に何かをされ、全ての記憶を強引に思い起こされた時には、隊長や指揮官への、怒りや悲しみ、嬉しさや恐怖など、あらゆる感情が心をぐちゃぐちゃに掻き回し、結果として、隊長に、不意打ちを受けるだけの動揺を与えてしまった。
竜に変身できる、トゥバンという召使いの子が、気分を悪くした後、領主であるプレシエンツァを殺そうしていたあの姿は、あたしと正に瓜二つだった。
隠し事をしていた彼らが悪いと言えば、そうかもしれない。
でも、それを知らずとも、幸せに暮らせるのだとしたら、それでも良いんじゃないのかな…?
“あの女”は何故そうまでして、彼らから、あたしを救いたいなどと言っていたのだろう…?
それに、あの顔、何処かで…。
「…なるほど、ということ、私を襲ったのは、君やスレイプニルではない、ということか?」
リウと大男の戦いを見守っている、私とフー、スクレに、ソルという名の少年を除いた者たちが、穴のあいた側へと移り、フェンリルと呼ばれる、両手足と首元に、鎖の引き千切られた銀色の枷を掛けられた、白を下地に、金色の模様が目立つ、美しい毛並みの大狼と何かを話し合っている。
そういえば、フェンリルといえば、魔王たちに仕える幹部の魔物の名前であったはず、我々は魔王と敵対したのではなかったのか…?
「少なくとも…兄様たちが襲われた件に、フェンリルは関わっていない…。私たちを連れてコハブまで走っていたから…」
「おい、勝手に喋るなよ、針が変なことに刺さるだろ…。とすると?兄貴やアトゥを襲ったっていう女は何者なんだ?」
肉が抉れたプレシエンツァの頬を強引に縫い合わせていたアルが、手の動きを止めずに、ぼんやりと告げる。
例の傷薬を使ったとはいえ、残っていた少量では、完全に頬の肉を回復させることは出来なかったらしく、その光景はひどく痛々しいものだが、プレシエンツァは特に気にせず口を動かし続ける。
「そこが分からないところだ…。私の予知を“無効化”出来るのはアトゥだけだと思っていたのだが…」
「んふふ~。まぁ、何にせよ~、ガルちゃんの話を聞くと、今のコハブは相当しんどいことになってるみたいよ~、プレシエンツァ?」
フェンリルとベヒモスだけが姿を現した時には、ひどく強張った顔をしていた指揮官の表情が、またいつも通りの不気味さを取り戻し、いやらしげな笑みを浮かべる。
…全く、どれがこの人の、本当の顔なのだろう。
「あぁ…そのようだ。しかし、逃げる時には、トゥバンの火炎で部屋ごと燃やしたはず、何故書類が見つけられる…?」
「さぁねぇ~。でも、書類が見つかろうと見つかるまいと、私たちは魔王に捨てられたことは確かね~。んふふ、お姉ちゃんの予想だいせいか~い!」
「全くもって見当違いだったんだよなぁ…。でなきゃ、妹が魔物の義弟に連れられて戻ってくるもんかよ…」
「ん~もぉ…!そうやって、す~ぐ、お姉ちゃんをいじめるだからぁ、結果は同じでしょ?」
「…残念ながらなぁ。で、本格的に、これからどうするんだ?」
顎に手を宛てがい、じっと一点を見つめていたプレシエンツァの目が、不意にこちらを向く。
「…もはや、隠し事などしている余裕はないな。ここにいる者たち全てに残りの真実を話し、フェンリル、君たち魔物を牽制させてもらう」
「…」
挑発的な敵対心を煽る、宣戦布告の様なものではなく、あくまで宣言でもするかの様に落ち着いた口調でプレシエンツァが知らせると、横になっていたフェンリルが気怠げに顔を上げる。
先ほどアルも言っていたが、その真実というものが、今の世界を支配する魔王の信用を破壊する程のものならば、幹部の一人であるというフェンリルが黙っているはずがないのではないか。
そんな一抹の不安を胸の内に抱えていたが、フェンリルは音のない欠伸をするばかりで、覇気の様なものさえ感じさせない。
本当はその真実というものが大したことがないのか、或いは、ガルディエーヌという、三年前のあの時、私を戦場より攫った、彼らの妹らしい女を連れて来ただけに、フェンリルもこちらの味方と考えて良いのだろうか。
「トゥバン、リウを呼んでくれ。あの魔物の戯れも済んだはずだ」
既にかなりの人数がいる上に、普通の人間よりも図体の大きい魔物がいるせいで、部屋の中はかなりの密度となってしまっている。
その上、ベヒモスと呼ばれる大男の、威圧的でこそないが、妙に肩身が狭められる様な圧迫感に、自然、体が緊張してしまい、蒸し暑ささえ感じる。
「…お前たちの力、確と見極めさせてもらった」
瓢箪に口を付け、簡単に喉の渇きを癒すも、さして潤いの感じぬ嗄れた声で、ベヒモスはぽつりと告げる。
どうやら、あれほどの戦いを見せつけながらも、あれはプレシエンツァの言う通り、戯れに近いものだったらしい。
“勇者”と戦わせろ、ガルディエーヌと、ソルの姿を隠し、先にフェンリルと共に姿を現した彼が、山を震え上がらせる程の大声を張り上げた時は、プレシエンツァたちは一様に、訝しげな表情を浮かべたものだ。
どれほどの者たちが、彼らの正体を知っているのかは分からないが、少なくとも、彼らが密接に関わっていたらしい魔王や、それに近しい魔物たちは知っていたことなのだろう。
だが、ベヒモスの言葉を聞いた彼らの様子を見るに、彼らは、姿形こそ人に似ているが、明らかに魔物の図体をした者が自分たちの正体を知っているとは思っていなかったようだ。
何故魔物たちが彼らを狙うのか、彼ら“勇者”の討伐命令が下されたのは、昨夜とのことらしいが、その理由をまだ詳しく教えてもらってはいない。
個人的に分かっているのは、三年前のレイダット・アダマーの蹶起や現シエル王について、彼らが関わっているということだけ。
しかし、もし魔王が、彼らの言う真実を口外させぬため、口封じを考えているとしたら、ガルディエーヌを連れて来たフェンリルや、力を見極めるだけに留めたベヒモスの行動には、いまいち理解が及ばない。
一体何のために彼らはここへやって来たのだろうか…?
多くの疑問がある中、最も近く、明かしやすそうな疑問に集中しながら、ベヒモスの次の言葉を待つ。
「…少なくとも、その小僧に関しては、確実に“勇者”ではない」
「えっ…?でも、リウは…」
脊髄反射にも近い形で、ベヒモスの言葉に、フーが異論を唱えようとするも、すぐに口を噤んだ。
確かに、アルなどの話、そして、自身が感じた恐怖感からいえば、リウは本物の“勇者”のはず。
にも関わらず、“勇者”でないとは、ベヒモスは何を持ってそう判断したのだろうか。
「そして、見たところ、お前たちも“勇者”ではない」
「…何故そう言い切れる?」
「お前たちは過去に見た“勇者”とは違う、それだけだ…」
「ならば…」
「が、お前たちが“勇者”でなくとも、その力は危険だと、その小僧がよ~く教えてくれた」
持っていた瓢箪を床へと叩きつけ、ベヒモスは静かに、部屋の一点を指差す。
全員がそちらに目をやると、そこには、嬉々として後ろの尻尾をぱたぱたと振るソルを適当に遇らいつつ、ぼろぼろになった防具を一つ外すリウの姿があった。
ベヒモスを除く、ほぼ全員が小さくため息を吐く。
どうやら、本気を見せつける必要性はなかったらしい…。
「…我々は今の世界の均衡を崩すつもりはない。しかし、そちらがその気ならば、こちらにもそれなりの考えがある」
ベヒモスの言葉に、プレシエンツァは気圧されることなく、鋭く言い返していく。
「そちらも知っての通り、コハブでは我々の正体が露呈しつつある。だが、それは同時に、我々と関係を築いていた魔王の真の姿も、そう遠くない未来に暴露されることを意味しているはず」
「ほぉ…。魔王の真の姿とな…」
ベヒモスの視線がちらりとフェンリルの方を向く。
しかし、先ほどからよほど眠いのか、フェンリルはガルディエーヌにその大きな体を寄せつつ丸くなるばかりで、全く話そうとはしない。
「あぁ、そちらが再び三年以上前、人と魔が袂を分かった世界に戻りたいというのなら、我々は好きなだけ、大衆受けしやすい“真実”を世界中にばら撒こう」
「…」
「無論、それは我々も望むところではない。こちらはただ切に、貴方が保守的で、魔王を支持する、賢い魔物の一人であることを願うばかりだ。如何かな?」
一転して攻勢に立ち回ったプレシエンツァがにやりと笑う。
結局、彼らと魔王たちが繋がって何かをしていたということはつまり、関係性は一連托生ということなのだろう。
彼らが堕ちる時、魔王たちも堕ちる。
だがよくよく考えてみると、魔王が守るものは、世界における自身や魔物たちの信用と権利であるのに対し、彼らが守るのは小さな街での権力程度。
一般人ならば、それだけでも強力な担保となろうが、大衆的な欲望を感じさせぬ彼らにとっては、大した質とはならない。
だとすると、そもそも魔王から彼らに戦いを挑むこと自体、あまり賢いものではないと思える。
何故、今更ながらに彼らを殺そうというのだろうか?
「…ふん、なるほど。フェンリル、お前がその妻を連れて逃げ出そうとしたのも頷ける。こうも賢しい者がいればな」
微かに苛立ちを感じさせる表情と口調において、一応の褒め言葉とも、嫌味とも取れる言葉を吐き捨てると、ベヒモスはゆっくりと腰を上げる。
戦闘態勢を整えていると感じたのか、すかさずスクレとトゥバンも爪などを構えようとするが、プレシエンツァはそれを片腕を挙げて制止した。
「お前たちの想いは理解した。…帰るぞ、フェンリル。此奴らの相手は黒龍どもにでも任せておけ」
「…」
ベヒモスの言葉に従い、フェンリルは静かに立ち上がる。
そして、名残惜しそうにガルディエーヌの頬に鼻先を寄せた。
ガルディエーヌはそんなフェンリルの顔に無言で片腕を回す。
義弟やら、妻やら、そんな単語はちらほらと聞こえていたが、どうやら本当に彼女たちは家族であり、固い絆で結ばれている様だ。
だが、そんな二人の間に、可愛らしい声が割って入る。
「フェンリル、帰っちゃうの?」
今の今まで、リウに抱っこやらおんぶやらをせがむも、その全てを受け流されていたソルだった。
ぽつりと尋ねた、他愛の無い彼の言葉に、フェンリルとガルディエーヌは少し驚いた顔を互いに向け合う。
しかし、すぐに悲しげな表情を浮かべたガルディエーヌが頷く。
「そぅ…。フェンリルは、戻らなくちゃいけない…」
「ど~して?」
「…」
「一緒にいようよ?」
邪気も悪意もない、強いて言うならば、小さく、自然な欲の籠る瞳でソルは二人を見上げた。
フェンリルが魔王の幹部であることは前に聞いた。
偏見かもしれぬが、幹部ということは魔王に絶対的に忠実であり、その命令に反することなど決してしないはず。
むしろ、主人の手を噛む狼藉者など近くに置いておく意味も、価値もない。
しかし、そんな彼が、追討命令が出される中、ガルディエーヌやソルを連れて、プレシエンツァたちの元へやって来たということは、もはや魔王の元へ戻る意思がなく、我々と共に来る、或いは、一時的に二人を安全な場所へ逃がし、何食わぬ顔で魔王の元へ戻る、そのどちらかということになる。
そして、今の様子から、おそらく彼は後者だろう。
彼は静かに、ソルと、その対応に困るガルディエーヌに頬擦りする。
それが彼なりの別れの挨拶だったのだろう。
毛の心地よさに、無邪気にソルが笑うのを確認すると、フェンリルはベヒモスと共に素早く穴から、屋敷の外へと飛び出して行ってしまった。
「あっ…」
ソルの口から漏れた、ひどく寂しげな声が静寂に包まれた部屋にこだました。
「…簡単に話をまとめて移動しよう。“話の分からない”厄介な魔物たちが来る前に」
鼻水を啜っていたソルが不貞寝するかの如く、リウの腕の中で寝息を始めるのを待って、プレシエンツァは静かに告げた。
「もう気付いていると思うが、我々は魔王たちと繋がり、この世に大きな影響を及ぼしてきた。自画自賛するつもりもないが、今の魔物たちの世界があるのは、我々が魔王と共に、シエルはもちろん、各国の愚かな大衆の民心をうまく先導してきたからだ。だが、その過程においては、トゥバンやオネ君など、何の関係もない人々の運命も大きく変えてきた」
「…」
「今更謝罪することに、何の意味があるのか、正直私には分からない。だが、後悔と懺悔の念があるからこそ、今は魔王の放った刺客から、逃げ、行方をくらましたいと思っている」
プレシエンツァの言葉に、不思議と怒りは湧いてこなかった。
もしかしたら、自分が奴隷となったのも、捨てられ、殺されそうになったのも、彼の責任だったかもしれないのに。
或いは、それら全ての責任を、その罪の有無に関わらず、押し付け、責め立てることが出来たのに。
…そんなことをしても、何の意味もない。
そんな風に、心の何処かで、踏ん切りがついたのかもしれない。
それにしても、後悔や懺悔の念と、刺客たちから逃げることとどう関わりがあるというのだろうか…?
「んふふ。一発ド派手に戦争を起こしちゃっても良いのよ?」
「冗談はその美貌だけにしてくれよ?ペルメル?私を を襲ったあの女が魔王に関係ないのなら、無理に彼女を刺激する必要はない」
「でもぉ、現にフェンリルやあのベヒモスたちは私たちのことを襲って来たじゃない?それに、追討命令だって、彼女公認らしいし~」
「…もし、彼女が本気で我々を潰そうというのなら、少なくとも側近全てを従えて、彼女自身が動くはずだ。最強とまで言われたフェンリルも、もはや手負いなのだからな」
「ん~、それもそうかしらねぇ…」
頬の継ぎ接ぎ部分を掻きながら、指揮官はプレシエンツァの言葉に頷く。
最強、あのフェンリルが…。
恐ろしさという恐ろしさはあまり感じはしなかったが、やはり魔王たちの幹部ということだろうか。
しかし、そんなフェンリルでさえも、一匹では彼らに敵わず、ましてや、家族になってしまえるあたり、リウと同じ程に、彼らもまた末恐ろしい。
「んふふ。なら、ターイナちゃんの所にでも隠れる?」
「あぁ、あそこならばそう簡単には見つからないはずだ。だが、魔力の軌跡を追われては危険だ。故に、ここからは徒歩で行く」
「うふぇ…。ま~た、歩きか…。俺の足は既にひのきのぼうなんだが?」
「縛りプレイにはうってつけね~。ついでに、おなべのふたも装備する?」
「そういう話をしてるんじゃないんだがなぁ…」
真剣な表情で話すプレシエンツァの横で、アルと指揮官が茶々を入れあっている。
力や頭脳はともかくとして、性格的には、あのベヒモスが言っていた通り、彼らを“勇者”とは到底呼べない。
御伽噺の勇者が実際どんなであったか、ベヒモスの様には分からないが、少なくとも、こんな仲の良い者たちがするでおろう、じゃれあいの様なことをする、人間味溢れる勇者ではなかったはずだ。
そんな、人間らしい二人を眺めていると、近くに立っていたガルディエーヌが静かに手を挙げた。
「ん?どうかしたか?ガルディエーヌ」
「その、アルに、伝えなくてはいけない事が…」
微かに俯き、語尾など消え入りそうな程小さな声でガルディエーヌが、アルを呼ぶ。
躊躇っているようで、伝えるべきか否かをひどく迷っている様子だ。
「ん?おめでたの検査か?それなら、ターイナの屋敷で…」
「「おめでた…!?」」
指揮官はもちろん、何故か横に座っていたフーまでもが素っ頓狂な声を上げる。
「いやぁ…!せ、清純なガルちゃんの、ガルちゃんの純潔がぁ…!」
「お、おめでた、ってことは!あ、あれだけの大きさのアレがあの中に…」
アルのお腹周りに抱きつき、悲しみに暮れる指揮官と、一物の大きさでも想像したらしい、顔を赤らめるフーに、何とも言えぬ視線が全員から向けられる。
…あの巨体のものが、どうやってガルディエーヌの中に入ったのかは、確かに少し気になりもするが、そこまで反応してするべきことでもないはずだ。
だが、そんな何とも間抜けな反応を示す二人を他所に、ガルディエーヌは静かに顔を横に振った。
「ううん…そうじゃない…。ソルが来てからは少し頻度が落ち着いたから…」
「「ひ、頻ぱ…」」
「少し黙れ。…なら、どうした?」
再び叫びそうになる二人を睨みつけると、アルは静かに問い直す。
「さっき、アルの診療所を寄ってきたら、“あの子”が来ていた…。“目の薬”を無くした、とかで…」
目に見えて、いつもは軽く、柔和なアルの表情が石の様に硬くなっていく。
「まさか、一ヶ月近いだけの薬を渡しておいたはずだぞ…。無くすにしたって、全部なんて…」
「…ラミアちゃんのことぉ~?」
アルのお腹に巻きついていた指揮官がのんびりと尋ねるも、今のアルの耳には何も届いていないらしく、返事もしない。
三年間、記憶を無くしながらとはいえ、コハブに暮らしていたために、アルの診療所のことは知っている。
だが、そのラミアという者のことは知らない。
おそらくはアルの患者の一人なのだろうが、何故、それほど驚いているのか、不思議だった。
「…兄貴、悪いが、先に行っててくれ。俺は一度コハブに戻らせてもらう」
「何を言っている…!?止めておいた方が良い。お前にも余計な噂が立っていては厄介だぞ」
「あぁ…分かってる。だが、このまま丸腰で帰る訳にもいかない。誰かさんが俺の武器みんな壊しちまったからな…」
「うっ…。す、すまん…」
リウの腕の中で眠るソルを寝顔を、その異質な姿形とは裏腹に、どこか蕩けきった顔で見つめていたスクレが、ひどくばつ悪そうに頭を下げる。
「それに、アトゥのための薬を用意しなくちゃならない。ターイナのところにもあるだろうが、これからの長い籠城生活を考えると、材料や道具なんかを持って来ておきたいからな」
「なら、お姉ちゃんが一緒について行き来ましょうか~?ん~?」
「いや、姉貴はこいつらのお守りをしてやってくれ。ただでさえ、普通の女子どもがいるのに、アトゥまで連れてかなきゃならないんだ。いざとなりゃ、あんたしか、皆を守れない」
指揮官のおふざけな言葉遣いに流されず、アルは真剣な面持ちできっぱりと告げる。
なんやかんや言いつつも、やはり、アルは指揮官のことを信頼しているのだろう。
そんな弟の真面目な言葉に、指揮官は少しだけぽかんとした表情を浮かべた後、静かに立ち上がり、その額に口づけを落とした。
「無事に帰って来れますように…」
「…すまん、死んだわ俺」
「なぁ~んでぇ~!姉の愛ある接吻を死の宣告みたいに言わないの~!」
「いや、それもあるが…。姉にキスされる弟ってのがなぁ…」
「あぁ~!またそういうこと言って~!い、良いも~ん!後で、ガルちゃんやスクレちゃん、皆にべろちゅうしてもらうもん!ね!?」
指揮官が、ばっとこちらを振り返り、全員の顔を見渡す。
自然、リウを除いた全員が顔を背けた。
「うぅぅ…!リ~ウ~ちゃ~ん!皆がお姉ちゃんいじめ…ぐぇっ!?」
アルから離れ、今度はリウに救いを求める指揮官だったが、またお腹周りに抱きつこうとした瞬間、強烈な平手打ちが指揮官の頬を襲った。
▽
「じゃあ、行ってくる。アトゥのことはターイナに言えば簡単な処置くらいはしてくれるだろうから、ちゃんと言ってくれ?…って言っても、まぁ、俺もすぐに戻るだろうがな」
「常に気をつけるんだぞ?道中も、そして、コハブの街に着いても」
「ガキじゃないんだ、あんまり心配するなよ。余計に老けるぜ?」
念入りなプレシエンツァの忠告に、アルは小さく笑うと、一人足早に山を下っていく。
ペルメルはもちろん、プレシエンツァやトゥバンなどが同行することを持ち掛けたが、アルはその全てを断った。
理由はやはり、私やフー、そして、動けない隊長などを守るために残って欲しいとの事だったが、ガルディエーヌから例の話を聞いた時の様子から、どうもそれだけではないような気がしてならない。
もっとも、だからといって、アルの心配を無視し、無理強いしてまでついていける程の余裕はないらしく、渋々ながらも、全員がアルを見送る側へと回ったのだ。
「では、各自、持ち物の最終確認をしてくれ。問題なければすぐに出発する」
まだ傷が完全には癒えていないのか、少し苦しげに胸に手を宛てがったプレシエンツァが先頭で指示を出す。
と言っても、着の身着のまま連れて来られたあたしには、荷物と呼べる荷物はない。
腕の中で眠る、ソルを荷物と呼ばないのなら。
本当は隊長を背負うつもりでいたのだが、これからいくつもの山を越えなくてはならない道中故、下手に体力を消耗し、あたしの進行が遅れ、それに全員が合わせることになっては全く意味が無いとのことで、隊長はリウが背負い、そして、代わりにあたしがソルを抱きかかえることになったのだ。
…あまり、良い気持ちはしない。
別に隊長をリウに任せるのが嫌だったという訳では無い。
ソルを抱えるのが、少し嫌だった。
初めこそ、勘違いかと思っていたが、見れば見るほどに、三年前、ソレイユの街を襲った時に、牛頭の魔物に抱えられて、あの裏切り者と共に逃げようとしていた子に間違いなかった。
隊長が砦に持ち帰っただけに、その後の行方は知らなかったが、まさか生きているとは思わなかった。
…いや、彼らは元々、魔物たち側に属していたのだ。
生きているのは、それほど驚くべきことではないのかもしれない。
とにかく、母親を殺し、剰え、一度は殺そうとしたソルを、今は大事に抱きかかえているということに、自分自身のなけなしの良心が痛んだ。
まだソルがこちらのことを覚えており、仇討とばかりに手向かってくるのならば、悪者に徹することも出来るのだが、彼は無邪気にも、こうして腕の中で眠っている。
…こんな子を見習うべきなのだろうか。
恨み辛みを覚えているかは分からぬが、いずれにせよ、過去に囚われず、今と未来のために生きることこそ、本当の平和を得るための近道なのかもしれない。
でも、それは、すごく難しいことだ…。
「いっけぇー!リウ!やっちゃえー!」
愛らしい少年の掛け声と共に、どぉん、どぉん、と鼓膜だけでなく、身体さえも震わす様な、聞いたこともない鈍い音が山中に轟く。
…相変わらず、末恐ろしい男だ。
ベヒモスと名乗った、明らかに人とは思えぬ大男の拳や蹴りによる攻撃を、リウはいなすだけではなく、敢えて同時に攻撃を放ち、それを相殺している。
傍目からはまるで何気無いことの様にも見えるが、ベヒモスは素手であるにも関わらず、たったの数撃でリウの手甲や足甲を破壊した、少なくとも、自分の様なただの人間が食らえば、単なる肉塊に成り果てることは想像に難くない程の威力がある。
そんな攻撃を恐れもせず、果敢に挑んでいけるのは、やはり、あのリウの異常な性質故だろう。
ソレイユでの戦い、そして、先ほどガラス片を抜いた時にも目にした、あの異質な力。
確かに、彼を“勇者”と呼びたくなる気持ちも分からなくはない。
だが、微かな御伽噺でしか知らない“勇者”の力が、ああも人智を超えたものであると、神や勇者に縋ることさえ諦めたあたしにとっては、ひどく恐ろしく感じられて、仕方がなかった。
そして、そんな彼をきょうだいと呼ぶ、隊長を含む彼らのことも。
…しかし、彼らから離れたところで、何も無い自分に何が出来るのだろうか。
ずっと握り続けているにも関わらず、なかなか熱の伝わらない隊長の冷たい手と、目に穴が開いてしまっていた時には、恐ろしく、目を背けてしまっていた顔を見やる。
ある程度顔色は良くなったが、相変わらず、静かな呼吸を繰り返して眠る隊長に、安堵とも、ため息ともつかぬ、小さな吐息が漏れる。
隊長や指揮官に裏切られていた、というよりも、他の者たちと同じように、捨て駒として扱われていたことを知った時には、ひどく辛かった。
別に、レイダット・アダマーにいた他の者たちが皆が死んでも構わないなどと言うつもりもないが、特段彼らに対する、情などは無かっただけに、二人からの信頼と信用だけが、心の拠り所だったのだ。
例えば、レイダット・アダマーにいた頃、階級や財産による差別や、不当なまでの隷属を強要されない、素晴らしい国を創り上げたいと願っていたのも、本当は自分の願望ではなく、彼らが何の気なしに発していた言葉から、都合の良い言葉を切り貼りして想像した、得点稼ぎのための願いであったのかもしれない。
現に、コハブで隊長と暮らした、三年間を思い起こすと、それだけで心が満たされ、他を望むだけの余力がなくなってしまうのだから。
しかし、それ故に、“あの女”に何かをされ、全ての記憶を強引に思い起こされた時には、隊長や指揮官への、怒りや悲しみ、嬉しさや恐怖など、あらゆる感情が心をぐちゃぐちゃに掻き回し、結果として、隊長に、不意打ちを受けるだけの動揺を与えてしまった。
竜に変身できる、トゥバンという召使いの子が、気分を悪くした後、領主であるプレシエンツァを殺そうしていたあの姿は、あたしと正に瓜二つだった。
隠し事をしていた彼らが悪いと言えば、そうかもしれない。
でも、それを知らずとも、幸せに暮らせるのだとしたら、それでも良いんじゃないのかな…?
“あの女”は何故そうまでして、彼らから、あたしを救いたいなどと言っていたのだろう…?
それに、あの顔、何処かで…。
「…なるほど、ということ、私を襲ったのは、君やスレイプニルではない、ということか?」
リウと大男の戦いを見守っている、私とフー、スクレに、ソルという名の少年を除いた者たちが、穴のあいた側へと移り、フェンリルと呼ばれる、両手足と首元に、鎖の引き千切られた銀色の枷を掛けられた、白を下地に、金色の模様が目立つ、美しい毛並みの大狼と何かを話し合っている。
そういえば、フェンリルといえば、魔王たちに仕える幹部の魔物の名前であったはず、我々は魔王と敵対したのではなかったのか…?
「少なくとも…兄様たちが襲われた件に、フェンリルは関わっていない…。私たちを連れてコハブまで走っていたから…」
「おい、勝手に喋るなよ、針が変なことに刺さるだろ…。とすると?兄貴やアトゥを襲ったっていう女は何者なんだ?」
肉が抉れたプレシエンツァの頬を強引に縫い合わせていたアルが、手の動きを止めずに、ぼんやりと告げる。
例の傷薬を使ったとはいえ、残っていた少量では、完全に頬の肉を回復させることは出来なかったらしく、その光景はひどく痛々しいものだが、プレシエンツァは特に気にせず口を動かし続ける。
「そこが分からないところだ…。私の予知を“無効化”出来るのはアトゥだけだと思っていたのだが…」
「んふふ~。まぁ、何にせよ~、ガルちゃんの話を聞くと、今のコハブは相当しんどいことになってるみたいよ~、プレシエンツァ?」
フェンリルとベヒモスだけが姿を現した時には、ひどく強張った顔をしていた指揮官の表情が、またいつも通りの不気味さを取り戻し、いやらしげな笑みを浮かべる。
…全く、どれがこの人の、本当の顔なのだろう。
「あぁ…そのようだ。しかし、逃げる時には、トゥバンの火炎で部屋ごと燃やしたはず、何故書類が見つけられる…?」
「さぁねぇ~。でも、書類が見つかろうと見つかるまいと、私たちは魔王に捨てられたことは確かね~。んふふ、お姉ちゃんの予想だいせいか~い!」
「全くもって見当違いだったんだよなぁ…。でなきゃ、妹が魔物の義弟に連れられて戻ってくるもんかよ…」
「ん~もぉ…!そうやって、す~ぐ、お姉ちゃんをいじめるだからぁ、結果は同じでしょ?」
「…残念ながらなぁ。で、本格的に、これからどうするんだ?」
顎に手を宛てがい、じっと一点を見つめていたプレシエンツァの目が、不意にこちらを向く。
「…もはや、隠し事などしている余裕はないな。ここにいる者たち全てに残りの真実を話し、フェンリル、君たち魔物を牽制させてもらう」
「…」
挑発的な敵対心を煽る、宣戦布告の様なものではなく、あくまで宣言でもするかの様に落ち着いた口調でプレシエンツァが知らせると、横になっていたフェンリルが気怠げに顔を上げる。
先ほどアルも言っていたが、その真実というものが、今の世界を支配する魔王の信用を破壊する程のものならば、幹部の一人であるというフェンリルが黙っているはずがないのではないか。
そんな一抹の不安を胸の内に抱えていたが、フェンリルは音のない欠伸をするばかりで、覇気の様なものさえ感じさせない。
本当はその真実というものが大したことがないのか、或いは、ガルディエーヌという、三年前のあの時、私を戦場より攫った、彼らの妹らしい女を連れて来ただけに、フェンリルもこちらの味方と考えて良いのだろうか。
「トゥバン、リウを呼んでくれ。あの魔物の戯れも済んだはずだ」
既にかなりの人数がいる上に、普通の人間よりも図体の大きい魔物がいるせいで、部屋の中はかなりの密度となってしまっている。
その上、ベヒモスと呼ばれる大男の、威圧的でこそないが、妙に肩身が狭められる様な圧迫感に、自然、体が緊張してしまい、蒸し暑ささえ感じる。
「…お前たちの力、確と見極めさせてもらった」
瓢箪に口を付け、簡単に喉の渇きを癒すも、さして潤いの感じぬ嗄れた声で、ベヒモスはぽつりと告げる。
どうやら、あれほどの戦いを見せつけながらも、あれはプレシエンツァの言う通り、戯れに近いものだったらしい。
“勇者”と戦わせろ、ガルディエーヌと、ソルの姿を隠し、先にフェンリルと共に姿を現した彼が、山を震え上がらせる程の大声を張り上げた時は、プレシエンツァたちは一様に、訝しげな表情を浮かべたものだ。
どれほどの者たちが、彼らの正体を知っているのかは分からないが、少なくとも、彼らが密接に関わっていたらしい魔王や、それに近しい魔物たちは知っていたことなのだろう。
だが、ベヒモスの言葉を聞いた彼らの様子を見るに、彼らは、姿形こそ人に似ているが、明らかに魔物の図体をした者が自分たちの正体を知っているとは思っていなかったようだ。
何故魔物たちが彼らを狙うのか、彼ら“勇者”の討伐命令が下されたのは、昨夜とのことらしいが、その理由をまだ詳しく教えてもらってはいない。
個人的に分かっているのは、三年前のレイダット・アダマーの蹶起や現シエル王について、彼らが関わっているということだけ。
しかし、もし魔王が、彼らの言う真実を口外させぬため、口封じを考えているとしたら、ガルディエーヌを連れて来たフェンリルや、力を見極めるだけに留めたベヒモスの行動には、いまいち理解が及ばない。
一体何のために彼らはここへやって来たのだろうか…?
多くの疑問がある中、最も近く、明かしやすそうな疑問に集中しながら、ベヒモスの次の言葉を待つ。
「…少なくとも、その小僧に関しては、確実に“勇者”ではない」
「えっ…?でも、リウは…」
脊髄反射にも近い形で、ベヒモスの言葉に、フーが異論を唱えようとするも、すぐに口を噤んだ。
確かに、アルなどの話、そして、自身が感じた恐怖感からいえば、リウは本物の“勇者”のはず。
にも関わらず、“勇者”でないとは、ベヒモスは何を持ってそう判断したのだろうか。
「そして、見たところ、お前たちも“勇者”ではない」
「…何故そう言い切れる?」
「お前たちは過去に見た“勇者”とは違う、それだけだ…」
「ならば…」
「が、お前たちが“勇者”でなくとも、その力は危険だと、その小僧がよ~く教えてくれた」
持っていた瓢箪を床へと叩きつけ、ベヒモスは静かに、部屋の一点を指差す。
全員がそちらに目をやると、そこには、嬉々として後ろの尻尾をぱたぱたと振るソルを適当に遇らいつつ、ぼろぼろになった防具を一つ外すリウの姿があった。
ベヒモスを除く、ほぼ全員が小さくため息を吐く。
どうやら、本気を見せつける必要性はなかったらしい…。
「…我々は今の世界の均衡を崩すつもりはない。しかし、そちらがその気ならば、こちらにもそれなりの考えがある」
ベヒモスの言葉に、プレシエンツァは気圧されることなく、鋭く言い返していく。
「そちらも知っての通り、コハブでは我々の正体が露呈しつつある。だが、それは同時に、我々と関係を築いていた魔王の真の姿も、そう遠くない未来に暴露されることを意味しているはず」
「ほぉ…。魔王の真の姿とな…」
ベヒモスの視線がちらりとフェンリルの方を向く。
しかし、先ほどからよほど眠いのか、フェンリルはガルディエーヌにその大きな体を寄せつつ丸くなるばかりで、全く話そうとはしない。
「あぁ、そちらが再び三年以上前、人と魔が袂を分かった世界に戻りたいというのなら、我々は好きなだけ、大衆受けしやすい“真実”を世界中にばら撒こう」
「…」
「無論、それは我々も望むところではない。こちらはただ切に、貴方が保守的で、魔王を支持する、賢い魔物の一人であることを願うばかりだ。如何かな?」
一転して攻勢に立ち回ったプレシエンツァがにやりと笑う。
結局、彼らと魔王たちが繋がって何かをしていたということはつまり、関係性は一連托生ということなのだろう。
彼らが堕ちる時、魔王たちも堕ちる。
だがよくよく考えてみると、魔王が守るものは、世界における自身や魔物たちの信用と権利であるのに対し、彼らが守るのは小さな街での権力程度。
一般人ならば、それだけでも強力な担保となろうが、大衆的な欲望を感じさせぬ彼らにとっては、大した質とはならない。
だとすると、そもそも魔王から彼らに戦いを挑むこと自体、あまり賢いものではないと思える。
何故、今更ながらに彼らを殺そうというのだろうか?
「…ふん、なるほど。フェンリル、お前がその妻を連れて逃げ出そうとしたのも頷ける。こうも賢しい者がいればな」
微かに苛立ちを感じさせる表情と口調において、一応の褒め言葉とも、嫌味とも取れる言葉を吐き捨てると、ベヒモスはゆっくりと腰を上げる。
戦闘態勢を整えていると感じたのか、すかさずスクレとトゥバンも爪などを構えようとするが、プレシエンツァはそれを片腕を挙げて制止した。
「お前たちの想いは理解した。…帰るぞ、フェンリル。此奴らの相手は黒龍どもにでも任せておけ」
「…」
ベヒモスの言葉に従い、フェンリルは静かに立ち上がる。
そして、名残惜しそうにガルディエーヌの頬に鼻先を寄せた。
ガルディエーヌはそんなフェンリルの顔に無言で片腕を回す。
義弟やら、妻やら、そんな単語はちらほらと聞こえていたが、どうやら本当に彼女たちは家族であり、固い絆で結ばれている様だ。
だが、そんな二人の間に、可愛らしい声が割って入る。
「フェンリル、帰っちゃうの?」
今の今まで、リウに抱っこやらおんぶやらをせがむも、その全てを受け流されていたソルだった。
ぽつりと尋ねた、他愛の無い彼の言葉に、フェンリルとガルディエーヌは少し驚いた顔を互いに向け合う。
しかし、すぐに悲しげな表情を浮かべたガルディエーヌが頷く。
「そぅ…。フェンリルは、戻らなくちゃいけない…」
「ど~して?」
「…」
「一緒にいようよ?」
邪気も悪意もない、強いて言うならば、小さく、自然な欲の籠る瞳でソルは二人を見上げた。
フェンリルが魔王の幹部であることは前に聞いた。
偏見かもしれぬが、幹部ということは魔王に絶対的に忠実であり、その命令に反することなど決してしないはず。
むしろ、主人の手を噛む狼藉者など近くに置いておく意味も、価値もない。
しかし、そんな彼が、追討命令が出される中、ガルディエーヌやソルを連れて、プレシエンツァたちの元へやって来たということは、もはや魔王の元へ戻る意思がなく、我々と共に来る、或いは、一時的に二人を安全な場所へ逃がし、何食わぬ顔で魔王の元へ戻る、そのどちらかということになる。
そして、今の様子から、おそらく彼は後者だろう。
彼は静かに、ソルと、その対応に困るガルディエーヌに頬擦りする。
それが彼なりの別れの挨拶だったのだろう。
毛の心地よさに、無邪気にソルが笑うのを確認すると、フェンリルはベヒモスと共に素早く穴から、屋敷の外へと飛び出して行ってしまった。
「あっ…」
ソルの口から漏れた、ひどく寂しげな声が静寂に包まれた部屋にこだました。
「…簡単に話をまとめて移動しよう。“話の分からない”厄介な魔物たちが来る前に」
鼻水を啜っていたソルが不貞寝するかの如く、リウの腕の中で寝息を始めるのを待って、プレシエンツァは静かに告げた。
「もう気付いていると思うが、我々は魔王たちと繋がり、この世に大きな影響を及ぼしてきた。自画自賛するつもりもないが、今の魔物たちの世界があるのは、我々が魔王と共に、シエルはもちろん、各国の愚かな大衆の民心をうまく先導してきたからだ。だが、その過程においては、トゥバンやオネ君など、何の関係もない人々の運命も大きく変えてきた」
「…」
「今更謝罪することに、何の意味があるのか、正直私には分からない。だが、後悔と懺悔の念があるからこそ、今は魔王の放った刺客から、逃げ、行方をくらましたいと思っている」
プレシエンツァの言葉に、不思議と怒りは湧いてこなかった。
もしかしたら、自分が奴隷となったのも、捨てられ、殺されそうになったのも、彼の責任だったかもしれないのに。
或いは、それら全ての責任を、その罪の有無に関わらず、押し付け、責め立てることが出来たのに。
…そんなことをしても、何の意味もない。
そんな風に、心の何処かで、踏ん切りがついたのかもしれない。
それにしても、後悔や懺悔の念と、刺客たちから逃げることとどう関わりがあるというのだろうか…?
「んふふ。一発ド派手に戦争を起こしちゃっても良いのよ?」
「冗談はその美貌だけにしてくれよ?ペルメル?私を を襲ったあの女が魔王に関係ないのなら、無理に彼女を刺激する必要はない」
「でもぉ、現にフェンリルやあのベヒモスたちは私たちのことを襲って来たじゃない?それに、追討命令だって、彼女公認らしいし~」
「…もし、彼女が本気で我々を潰そうというのなら、少なくとも側近全てを従えて、彼女自身が動くはずだ。最強とまで言われたフェンリルも、もはや手負いなのだからな」
「ん~、それもそうかしらねぇ…」
頬の継ぎ接ぎ部分を掻きながら、指揮官はプレシエンツァの言葉に頷く。
最強、あのフェンリルが…。
恐ろしさという恐ろしさはあまり感じはしなかったが、やはり魔王たちの幹部ということだろうか。
しかし、そんなフェンリルでさえも、一匹では彼らに敵わず、ましてや、家族になってしまえるあたり、リウと同じ程に、彼らもまた末恐ろしい。
「んふふ。なら、ターイナちゃんの所にでも隠れる?」
「あぁ、あそこならばそう簡単には見つからないはずだ。だが、魔力の軌跡を追われては危険だ。故に、ここからは徒歩で行く」
「うふぇ…。ま~た、歩きか…。俺の足は既にひのきのぼうなんだが?」
「縛りプレイにはうってつけね~。ついでに、おなべのふたも装備する?」
「そういう話をしてるんじゃないんだがなぁ…」
真剣な表情で話すプレシエンツァの横で、アルと指揮官が茶々を入れあっている。
力や頭脳はともかくとして、性格的には、あのベヒモスが言っていた通り、彼らを“勇者”とは到底呼べない。
御伽噺の勇者が実際どんなであったか、ベヒモスの様には分からないが、少なくとも、こんな仲の良い者たちがするでおろう、じゃれあいの様なことをする、人間味溢れる勇者ではなかったはずだ。
そんな、人間らしい二人を眺めていると、近くに立っていたガルディエーヌが静かに手を挙げた。
「ん?どうかしたか?ガルディエーヌ」
「その、アルに、伝えなくてはいけない事が…」
微かに俯き、語尾など消え入りそうな程小さな声でガルディエーヌが、アルを呼ぶ。
躊躇っているようで、伝えるべきか否かをひどく迷っている様子だ。
「ん?おめでたの検査か?それなら、ターイナの屋敷で…」
「「おめでた…!?」」
指揮官はもちろん、何故か横に座っていたフーまでもが素っ頓狂な声を上げる。
「いやぁ…!せ、清純なガルちゃんの、ガルちゃんの純潔がぁ…!」
「お、おめでた、ってことは!あ、あれだけの大きさのアレがあの中に…」
アルのお腹周りに抱きつき、悲しみに暮れる指揮官と、一物の大きさでも想像したらしい、顔を赤らめるフーに、何とも言えぬ視線が全員から向けられる。
…あの巨体のものが、どうやってガルディエーヌの中に入ったのかは、確かに少し気になりもするが、そこまで反応してするべきことでもないはずだ。
だが、そんな何とも間抜けな反応を示す二人を他所に、ガルディエーヌは静かに顔を横に振った。
「ううん…そうじゃない…。ソルが来てからは少し頻度が落ち着いたから…」
「「ひ、頻ぱ…」」
「少し黙れ。…なら、どうした?」
再び叫びそうになる二人を睨みつけると、アルは静かに問い直す。
「さっき、アルの診療所を寄ってきたら、“あの子”が来ていた…。“目の薬”を無くした、とかで…」
目に見えて、いつもは軽く、柔和なアルの表情が石の様に硬くなっていく。
「まさか、一ヶ月近いだけの薬を渡しておいたはずだぞ…。無くすにしたって、全部なんて…」
「…ラミアちゃんのことぉ~?」
アルのお腹に巻きついていた指揮官がのんびりと尋ねるも、今のアルの耳には何も届いていないらしく、返事もしない。
三年間、記憶を無くしながらとはいえ、コハブに暮らしていたために、アルの診療所のことは知っている。
だが、そのラミアという者のことは知らない。
おそらくはアルの患者の一人なのだろうが、何故、それほど驚いているのか、不思議だった。
「…兄貴、悪いが、先に行っててくれ。俺は一度コハブに戻らせてもらう」
「何を言っている…!?止めておいた方が良い。お前にも余計な噂が立っていては厄介だぞ」
「あぁ…分かってる。だが、このまま丸腰で帰る訳にもいかない。誰かさんが俺の武器みんな壊しちまったからな…」
「うっ…。す、すまん…」
リウの腕の中で眠るソルを寝顔を、その異質な姿形とは裏腹に、どこか蕩けきった顔で見つめていたスクレが、ひどくばつ悪そうに頭を下げる。
「それに、アトゥのための薬を用意しなくちゃならない。ターイナのところにもあるだろうが、これからの長い籠城生活を考えると、材料や道具なんかを持って来ておきたいからな」
「なら、お姉ちゃんが一緒について行き来ましょうか~?ん~?」
「いや、姉貴はこいつらのお守りをしてやってくれ。ただでさえ、普通の女子どもがいるのに、アトゥまで連れてかなきゃならないんだ。いざとなりゃ、あんたしか、皆を守れない」
指揮官のおふざけな言葉遣いに流されず、アルは真剣な面持ちできっぱりと告げる。
なんやかんや言いつつも、やはり、アルは指揮官のことを信頼しているのだろう。
そんな弟の真面目な言葉に、指揮官は少しだけぽかんとした表情を浮かべた後、静かに立ち上がり、その額に口づけを落とした。
「無事に帰って来れますように…」
「…すまん、死んだわ俺」
「なぁ~んでぇ~!姉の愛ある接吻を死の宣告みたいに言わないの~!」
「いや、それもあるが…。姉にキスされる弟ってのがなぁ…」
「あぁ~!またそういうこと言って~!い、良いも~ん!後で、ガルちゃんやスクレちゃん、皆にべろちゅうしてもらうもん!ね!?」
指揮官が、ばっとこちらを振り返り、全員の顔を見渡す。
自然、リウを除いた全員が顔を背けた。
「うぅぅ…!リ~ウ~ちゃ~ん!皆がお姉ちゃんいじめ…ぐぇっ!?」
アルから離れ、今度はリウに救いを求める指揮官だったが、またお腹周りに抱きつこうとした瞬間、強烈な平手打ちが指揮官の頬を襲った。
▽
「じゃあ、行ってくる。アトゥのことはターイナに言えば簡単な処置くらいはしてくれるだろうから、ちゃんと言ってくれ?…って言っても、まぁ、俺もすぐに戻るだろうがな」
「常に気をつけるんだぞ?道中も、そして、コハブの街に着いても」
「ガキじゃないんだ、あんまり心配するなよ。余計に老けるぜ?」
念入りなプレシエンツァの忠告に、アルは小さく笑うと、一人足早に山を下っていく。
ペルメルはもちろん、プレシエンツァやトゥバンなどが同行することを持ち掛けたが、アルはその全てを断った。
理由はやはり、私やフー、そして、動けない隊長などを守るために残って欲しいとの事だったが、ガルディエーヌから例の話を聞いた時の様子から、どうもそれだけではないような気がしてならない。
もっとも、だからといって、アルの心配を無視し、無理強いしてまでついていける程の余裕はないらしく、渋々ながらも、全員がアルを見送る側へと回ったのだ。
「では、各自、持ち物の最終確認をしてくれ。問題なければすぐに出発する」
まだ傷が完全には癒えていないのか、少し苦しげに胸に手を宛てがったプレシエンツァが先頭で指示を出す。
と言っても、着の身着のまま連れて来られたあたしには、荷物と呼べる荷物はない。
腕の中で眠る、ソルを荷物と呼ばないのなら。
本当は隊長を背負うつもりでいたのだが、これからいくつもの山を越えなくてはならない道中故、下手に体力を消耗し、あたしの進行が遅れ、それに全員が合わせることになっては全く意味が無いとのことで、隊長はリウが背負い、そして、代わりにあたしがソルを抱きかかえることになったのだ。
…あまり、良い気持ちはしない。
別に隊長をリウに任せるのが嫌だったという訳では無い。
ソルを抱えるのが、少し嫌だった。
初めこそ、勘違いかと思っていたが、見れば見るほどに、三年前、ソレイユの街を襲った時に、牛頭の魔物に抱えられて、あの裏切り者と共に逃げようとしていた子に間違いなかった。
隊長が砦に持ち帰っただけに、その後の行方は知らなかったが、まさか生きているとは思わなかった。
…いや、彼らは元々、魔物たち側に属していたのだ。
生きているのは、それほど驚くべきことではないのかもしれない。
とにかく、母親を殺し、剰え、一度は殺そうとしたソルを、今は大事に抱きかかえているということに、自分自身のなけなしの良心が痛んだ。
まだソルがこちらのことを覚えており、仇討とばかりに手向かってくるのならば、悪者に徹することも出来るのだが、彼は無邪気にも、こうして腕の中で眠っている。
…こんな子を見習うべきなのだろうか。
恨み辛みを覚えているかは分からぬが、いずれにせよ、過去に囚われず、今と未来のために生きることこそ、本当の平和を得るための近道なのかもしれない。
でも、それは、すごく難しいことだ…。
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