しらぬがまもの

夕奥真田

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雪の様に冷たく、温かな命

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「準備は出来たか?」

厚い手袋や防寒着に身を包み、鮮やかな色の左の瞳は勿論、ここ暫くは包帯に覆われていた、同じ者の瞳とは思えぬ程に、白濁に染まった右の瞳さえも、しっかりとこちらへと向けるアトゥに、同様の防寒装備に身を包んだまま、靴の紐を結び直す、或いは背負った荷物の確認などをしていたオネとフー、そして、そんな三人とは、ほぼ正反対に、肌を多く露出させたツルカが、それぞれ軽く顔を見合わせた後、静かに頷く。

「問題ありません」

「こっちも準備出来てるわ」

「あったりまえよ!いつでも良いぜ!」

各々の威勢の良い返事にアトゥは無言で強く頷き返すと、今度は見送りにと、無駄に玄関に集った、中には眠たげに目を擦る者さえいる、数人へと顔を向け、出発の挨拶でもしようと口を開く。

「では、行ってく……」

「ふぁぁ……あっ……そうだぁ……」

しかし、アトゥが挨拶をし終えるその瞬間、絶えぬ欠伸に、半開きとなっていた口を、ようやっと動かしたのかの様な、呂律の回りきらない、いつも以上に締まりのない声で、横槍を入れたのは、継ぎ接ぎだらけのペルメルであり、そいつは、殆ど摺り足に近い足取りでこちらへと近寄ると、今の今まで後ろ手に隠していたとは思えぬ物を一つずつ差し出した。

「ん……。おねぇちゃんが、夜なべして編み込んだぁ、“手袋”と“靴下”……」

ペルメルが差し出した物は当然、単なる“手袋”と“靴下”などではなく、忌々しくも、懐かしい“見覚えのある”、冷酷に全てを受け入れそうな、黒の手甲と足甲であった。

「これは……」

「そうよぉ、三年前の物よぉ……ふはぁぁ~……」

「……」

「……要らないのぉ~?“例の力”は込めてないわよぉ~?」

中々受け取らぬ故、持ち続けることに疲れたのか、足甲を床へと置き、手甲を片手で抱くと、空いた手で眠そうな目を擦りながら、何も知らぬ者たちの、怪訝そうな表情などには気にも留めず、こちらを安心させるかの様に、ペルメルは告げる。

……背負ったリュックに、やや無理矢理ながらも、突き刺した杖が、微かに震えるのを感じた。

「何迷ってるのよ、リウ。貰っておけば良いじゃない?どうせあんた、私が買ってあげたやつ壊しちゃったんでしょ?」

「……」

受け取るべきか、否かを悩んでいると、準備を整え終え、いつでも外へと出れるらしい、三年前のことなど露知らぬフーが、微かな嫌味を含ませつつ、ペルメルの差し出す物を受け取るようこちらを促す。

確かに、フーに買い与えられた、元はヴァルカンの闘技場での使用を想定されていた手甲や足甲は、先日のベヒモスという大男との戦いの中で、修復も不可能な程に破壊されてしまった故、手足があるとはいえ、あれ以来、丸腰に近い状態なのだ。

しかし、現状、手甲などが喉から手が出る程に欲しいかと問われれば、その様なことは決してなく、せいぜいあれば、これから向かう“買い出し”において、心持ちが少し軽くなるであろう程度の認識でしかない。

それならば、無理に今こんな物を受け取る必要性はなく、今回、或いはいずれ何処かで入手してくれば良い……はずなのだが、ペルメルの手の内で、外の凍える空気よりも、ずっと冷たく輝く黒色のそれらは、どうにも心を捉えて離さず、そして、無用にざわつかせた。







山を下り、食料を調達してきて欲しい、全員が朝食を食べ終わり、各々がその席を立つ直前、食堂に置かれた長机の最も端に座っていたプレシエンツァが、小さく手を叩き、俺と他の四人に向けて指示を与えたのは、この屋敷に到着してから、二週間と数日が過ぎた、昨日のことだ。

何故この屋敷に籠城せねばならないのか、また、それによって何が起こるのか、そして、最終的に何を目指しているのか、それらについては、俺をきょうだいと呼ぶ、六人の“白髪”たちと暮らすことによって、否が応にも理解させられた故、プレシエンツァの指示を拒むことはなかった。

だが、正直なところ、この者たちの信じる、平和と安定や屋敷に寄り集まった家族、そして、恰も神の如く崇拝される、あの“母親”などに、さして興味はない。

むしろ、あんな者を甦らせるため、魔王に近づき、世界を謀ったせいで、ソレイユに暮らしていた者たちが無惨に死んだというのなら、相変わらず、怒りや悲しみなどいった、人間らしい感情こそ湧かぬものの、納得のいかない想いに満たされる。

それでも、先日スクレと出会った屋敷において、アルが見つけてきたらしい資料を基に、例の“母親”の記憶を“甦らせる”、というよりも、完璧主義的なところのあるターイナの前で口にするのはひどく憚られることではあるのだが、正確に言えば、より自分たちの知るであろう“母親”を“創り上げる”ため、あの女の眠る水槽の中に、幾分かの血液を垂れ流したのは、もはや何をしても、例えあの女を、連中の前で八つ裂きにしても、本当の“家族”と呼びたかった者たちは、決して甦らないのだと、頭の中で理解しているに違いない。

それならば、連中が望むであろうことに手を貸した方が、己の内に溜め込んだ、空虚な想いをぶちまけるよりも、幸福に笑う者たちは多いし、意味もある、そう思ったのだ。

……お前は、怒るだろうか?

仇と呼んでも差し支えない者たちを前にしながら、牙を剥かず、剰え、その者たちの喜ぶことに寄与している、こんな仁義やら、義理やら、人情やらの無い、薄情な俺のこと。


「そういえば、今更だけど何で買い出しに行くのが、私たちなの?ペルメルやターイナが行けば一瞬じゃない?」

薄明かりだった世界が、燃える様な太陽の光に照らされ、束の間の、目も眩む程に美しい赤色に輝き浮かぶ世界へと変わった頃、まだ体力に余裕のあるらしい、先頭を歩いていたフーが後ろを振り返りながら尋ねる。

「話聞いてなかったの?指揮官やターイナ君じゃ、その移動方法のせいで魔物たちに、あの屋敷の位置がバレるって、プレシエンツァさんが言ってたでしょ?」

「そうだっけ?なら……そうよ、トゥバンよ!トゥバンなら竜になって近くの街でも遠くの街でもひとっ飛びじゃない?」

「そ、それはその……あれ……。トゥバンさんは調子が悪いのよ……。ねっ!隊長……!」

得意げだった物言いも、質問を重ねられると、自身もフーと同じく、話半分程にしか、プレシエンツァからの指示を聞いていないことが露呈したオネは慌てて、隣を歩く、どうやら右目を態と酷使する様に、周囲の景色を眺めるアトゥに顔を向けた。

「ふっ、はははっ……!つくづく頭の回らない連中だな、お前たちは」

「……」

「な、何よ!?じゃあ、あんたはこのお使いがどうしてあたしたちに任されたのか、ちゃんと説明出来るの!?」

「ふん、ガルディエーヌやターイナの様に、ずる賢い兄たちの意図を読まずに生きていける程、俺は自分の“能力”に過信していないからな、連中の話くらいしっかり聞いて、指示通り動くさ……」

冷えてしまったらしい鼻と同じくらいに顔を赤くするフーに向け、得意げに鼻を鳴らし、腕を組むアトゥだが、その言葉は、周囲の空気以上に冷えた、何処か投げやりな、物悲しさの伝わるものであった。

その理由というのは、奴自身が語った通り、俺たちの特異な能力を無効化するという、他の者たちよりも、あからさまに利用の可能性と効果が限定される、というよりも、むしろ、俺たちを相手取らぬ以外には無用な“能力”故だろう。

確かに、三年前、ソレイユの街近くの丘陵地で、奴と戦った時、今まで俺自身まず見る事のなかった、出血を伴う怪我を負わされ、一瞬とはいえ、心臓に穴までも開けられたし、つい最近では、“母親”の水槽に血を流し入れる時も、アトゥが俺の手を傷つけた。

……しかし、“それだけだ”。

アトゥの“能力”は確かに脅威といえば脅威だが、奴自身の戦闘力自体はそれほど高いとはいえず、現に三年前の戦闘においては、ソルを人質するというオネの機転が利かねば、今更良いかどうかは別にして、奴を恐らく殺せていたはずだ。

そして、俺にやられるということは、少なくとも、ガルディエーヌにも負けることが確定しており、アトゥはそれを承知しているが故に、あんな冷たくも、何処か悲しげな物言いをしたのだろう。

だが、そんなアトゥの様子から察することは何も無かったらしいフーは、その場で足を止め、降り積もった雪を乱暴に蹴飛ばし、周囲に粉雪を舞わせながら、地団駄を踏む。

「なら、説明しなさいよ!分かりやすく!」

「ふん、全く図々しい女だ……。まぁいい、要は消去法だ」

「ちっっとも、説明になってない!」

「ちっ……。五月蝿い奴め……。良いか、足を止めずによく聞け。まず、買い出しに行くのが適任なのは、ペルメルやターイナ、そしてトゥバンと言ったな?だが、オネが言った通り、ペルメルやターイナの移動方法は魔法によるものであり、それらは、魔法長けた者には、その痕跡を辿ることが出来てしまうため、あの屋敷を隠したいなら、必然的に向かない。次にトゥバンだが、これもオネの観察通り、明らかに最近の顔色や調子が悪く、安定した飛行は望めないため、外した方が良いと考えられた」

「な、何よそれ!?あんたオネがお嫁さんだからって、オネばっかり褒めて!贔屓するんじゃないわよ!」

「早合点せず、黙って最後まで聞け。トゥバンが外されたのには、それ以外の理由もある。いいか、そもそも俺たちを追っているのは、トゥバンや此処にいるツルカ同様、空を飛べる竜共だ。そんな連中が目を光らせているであろう空を、呑気に飛べると思うか?」

「そ、そりゃあ、危ないかもしれないけど……。で、でも、それならツルカはどうなるのよ?」

「ツルカは万が一の時の保険だ。顔色の悪いトゥバンや、別のことで忙しいターイナを連れて行く訳にはいかないからな」

「な、なら、その……あの……えっと……」

必死に反論らしい反論を考えているのか、地団駄によって、すっかり踏み固められた雪に、更に振り下ろしていた足をやっと止め、顔を俯かせるフーの横を、アトゥは深く、冷たいため息を吐き出きだしながら、特に何も告げぬまま、そっとすり抜けていく。

そんな様子を少し離れた位置から見つめながら、深い雪に埋もれるばかりか、付着させ、更に重くなる足甲を持ち上げつつ、何とか遅れずに追いかけていると、すぐ前を歩いていたツルカが、この冷気に負けぬほどに温かくも、鬱陶しいその大きな身体を寄せ、耳元へと顔を近づけて来た。

「おいおい、何か声掛けてやれよ。お前、あいつの“彼氏”なんだろ?」

「……いいや、単なる雇用関係だ」

「ありゃ?そうなのか?まぁ、でも、なんか言ってやれよ。フーの奴、お前に惚れたんだからな!」

「……」

……知ったことではない。

首元へと回されたツルカの腕を引き剥がすと、立ち尽くすフーに遅れぬよう釘だけを刺し、変わらず重たい足をひたすらに動かし続け、アトゥたちの後を追った。







地平線上に浮かんでいた、少々寝坊助の太陽がすっかりと顔を出し、火の如く赤く燃えていた世界が、何処までも変わらぬ、雪に覆われた白銀の世界に落ち着き、それから数時間程が経った頃、本来、“白髪”という、目立ち、また覚えられやすい特徴を隠せぬ故、俺とアトゥは足を踏み入れるはずはなかった、人と魔物が住んでいたであろう小さな街へと到着した。

「な、何なの……これ……?」

もはや煙すら立ち上らせてはいないが、降り積もる雪にも負けぬ、元はひどく頑丈だったであろう、所々焼け焦げた様な痕のある家屋らは、無残にも破壊され、至る所に、雪に覆われているものの、とても凍死とは思えぬ傷が見受けられる魔物死骸が転がるこの街は、恰も三年前、アトゥたちによって破壊されたフェンガリやソレイユを彷彿とさせる。

「……誰がこんなことを?」

「分からない、が、少なくとも、単なる野盗共の仕業ではないだろうな……」

「……」

さすがに慣れたものなのか、一人不安げな声を上げるフーとは違い、オネとアトゥはしゃがみこみ、横たわる死骸をじっくりと観察し、ツルカはそんな二人の様子を眉間に皺を寄せながら見つめていた。

俺はそんな四人から離れ、冷たい風の通りが良くなった街を練り歩き、死骸は勿論、入れそうな建物の中にも顔を覗かせて、周囲の状況を確認していく。

すると、まるで間違い探しでもするかの様に、滅ぼされたソレイユやフェンガリの街の凄惨な光景を、常に脳裏に思い出していた頭は、すぐにこの街と、二つの街との、大きな違いに気がついた。

人間の死骸が何処にも無い……。

そこらじゅうに転がる死骸に降り積もった雪をどれだけ払い退けても、その下に埋まっているのは、苦悶に満ちた、或いは、目を見開いたままに死ぬ魔物たちばかりであり、子どもは勿論、人間の大人でさえ、まるでこの街にはそもそも、人間など住んでいなかったかの様に、部品はおろか、一つの死骸も落ちてはいないのだ。

この街を襲った者たちが何者なのか、未だその姿も、その目的も判然としないが、瓦礫の山となった家屋は別にして、少なくとも、外よりかは、雨風を凌げそうな家屋の中には、手のつけられた様子の無い食料や金貨がそのまま残っていることと、こうも魔物の死骸が無造作に転がっているところを見るに、アトゥが推測していた通り、単なる野盗の仕業とは思えない。

……それとも、これも“連中”の入れ知恵、或いは、“演劇”の一環なのか。

「おやぁ?こんな“辺鄙”な場所に“人間様”とは、珍しいこともあるもんだぁ」

不意に背後から聞こえてきた、何とも呑気そうな声と、降り積もった雪を踏み潰す音に振り返ると、そこには、割れた皿などで身体を覆い、背中には狸の置物の様な物を背負うを、おかしな、恐らくは魔物だろうが、その土気色のやかんに似た何かに乗せた眼鏡をかけ直しながら、こちらへと近づいて来ていた。

自然、死骸の雪を掻き分けるため、膝をついていた身体はすっと立ち上がり、隠しきれぬ殺気を冷気に乗せ、周囲に漂わせながら、ゆっくりと近づいてくる魔物の方を向く。

「そう怖い顔をしないでくださいな。な~に、ちょいとこの街の“事情”を聞きたいだけですから……」

「……?」

杖代わりとして使われる、恐らくは、あのおかしな魔物の得物であろう、先端に花瓶が突き刺さる棒の動きに注視していると、それが降ろされるすぐ横に、“もう一つ”、こちらを向く足跡が、今尚増えていることに気がついた。

……そうか、そういうことか。

しかし、頭が目の前にいる魔物以外の何かの存在に勘付いた時には、冷たい風や雪から頭を守り、そして、白髪を隠す、分厚く温かな帽子が、鋭い何かによって吹き飛ばされていた。

「なるほど……。やっぱり、そうでやしたかぁ……。なら……」

「……っ!」

今までのゆったりした動きからは想像もつかぬ程の素早さで、この雪上を蛇行しながら、こちらに近づくと、皿の魔物は容赦なく、その棒を叩きつけて来る。

その攻撃を、雪に足を取られつつも、何とか回避すると、すかさず目だけで“もう一つ”の足跡の行方を探した。

だが、攻撃を仕掛けて来た魔物の、蛇の様にうねった足跡が邪魔で、すぐには見つからない。

結果として、反撃の手を出すよりも早く、その何者かに先手を打たれ、それを防ぐので精一杯になってしまう。

恐らくではあるが、二匹であろう、この者たちは、正直、このまま戦い続けるのが賢明とは思えぬ程の、相当の手練れであり、且つ互いの動きをよく理解した者同士だ。

ガルディエーヌから叩き込まれた、多数の敵と戦う時の鉄則である、全ての敵を視界内に捉え続け、最初に潰すべき者の力量を測ることも、狙いを定めた敵の一匹を、別のもう一匹に挟み込ませる位置取りをすることで、同士討ちを狙う、或いは、攻撃を躊躇わせるということも、敵の姿が見えない故に出来ていない。

このままでは恐らく、無駄に命を削るだけだろう。

かといって、アトゥたちの元に逃げたとして、勝てるかと聞かれれば、少なくとも病み上がりのアトゥ以上に戦力にならない者たちの方が多く、望み薄だ。

……だとすると、やはり、“前に出るしかない”。

姿が見えぬ者に当たらぬとも、大振りな蹴りを放ちながら、皿の魔物に少しずつ近かづく。

当然、脚の長さよりも、持つ棒の方が長く、一方的にこちらを攻撃出来ると踏んだらしい、皿の魔物は、蹴りの隙間を縫う形で、棒を脳天目掛けて振り下ろしてきた。

それを何とか首を曲げ、甘んじて左肩で受け止める。

「おや、意外と大したこと……」

しかし、その棒を手繰り寄せる様にして、魔物を引き寄せると、腹部を守る皿を、横薙ぎとは違う、“確実に仕留める”ための、脚による突きで一気に貫く。

毛先が凍りそうな程に冷えた世界に、ぱりん、という甲高い、美しい食器の悲鳴が一瞬だけこだました。

「瀬戸……!」

自ら脚を引き抜くよりも先に、身体は何か強い衝撃に襲われ、離れた位置へと突き飛ばされしまったが、見ると、恐ろしげな形相に角を生やした、周囲の雪にも負けぬ程、白く美しい装束に身を包んだ魔物が一人、今にも倒れ伏そうという皿の魔物を抱き止めている。

「瀬戸……!瀬戸……!」

何度も何度も、皿の魔物の身体を揺するが、遠目に見て、反応らしい反応は返せていないあたり、どうやら仕留めることが出来たらしい。

それを確認すると、先ほどの、棒による一撃を食らい、びりびりと痺れる感覚のある、反応の鈍くなってしまった左半身の回復に努めた。

……悪いが、なけなしのお前の“命”を貸してくれ。

「……許さない!」

だが、どくどくと早鐘を打ちつける心臓を落ち着けようとしていると、角を生やした恐ろしい形相の魔物はこちらへと振り返り、大地すら恐怖させる、これまで生きた中で聞いた事のない、低い悲鳴の様な咆哮を上げ、自らの手を折らんばかりの力強さで、何度も両手を叩き合わせる。

すると、震えていた地の揺れはどんどんと大きくなり、先ほど我々が下ってきた道を揉み消す様に、大量の雪が、轟音を立てながらこちらに迫って来ていた。

「ちっ……!」

すぐさま、治りかけの身を翻し、アトゥたちの元へと戻る。

「リウ!」

状況は分からぬとも、雪崩には気がついたらしい、アトゥたちは既に、魔物へと変身したツルカに乗り、こちらへと手を差し伸べてくれていた。

しかし、何とか手を伸ばし、それを掴もうとするも、そんな俺の身体を、雪たちは否応なく呑み込んだ。












指を食べてしまいそうな程に冷たい雪を、ゆっくりと退けていくと、“あの子”が教えてくれた通り、その子は確かに埋まっていた。

雪にも負けぬ、真っ白で綺麗な髪色をした、優しげな青年。

……あぁ、あの子が教えてくれた通りの子だ。

「“久し振り”に会いに来てくれたかと思えば、こんな素敵な子を連れて来てくれるなんて……。貴女は優しい子ね、ありがとう、イヴ……」
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