もう、追いかけない

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
18 / 71

18 三か月前の真実⑦ エミル

しおりを挟む




 男はまだ何か言いたそうだったが、これ以上聞いてやる義理はない。
 皇太子の頭上から巨大な岩を落としておいて、助けてもらえること自体が奇跡だというのに。

 「短い縁だったな」
 
 剣を振り上げると同時に男は叫んだ。
 
 「わ、わかりました!信じる!信じます!」

 「そうか、懸命な判断だ。行くぞ」

 「へ?ど、どこにですか」

 「まずは扉の外にいる奴を呼んでこい。部屋に入れる前に、死にたくなければすべて黙って飲み込むよう言い聞かせておけ」

 待つこと数分。
 あまりの遅さに蹴破ってやろうかと思ったら、ようやく扉が開いた。
 さっきの男に連れられて、恐る恐る入って来たのは、これまた見事に半信半疑の表情をした男。

 「お前たち、名前は?」

 私の問いに、さっき首を絞めた男はヤン、後から来た男はオトと名乗った。
 私はオトに視線を合わせた。

 「話はヤンから聞いたな?私はここを出なければならない。そしてお前たちは、自分と家族の命を守りたい。利害は一致している。だから案内を頼む」

 「案内?」

 「私を従者たちのところまで導き、脱出の手助けをしろ」

 私の言葉にオトは目を剥いた。

 「そ、そんな!そんなことがもし伯爵さまにバレたら、俺たちどんな目にあわされるか!」

 「安心しろ。お前たちの人生はもう既に、破滅に向かって行くところまで行っている」

 つまりはなにをしようが結局は殺されるということだ。
 相手がヤノシュ伯爵だけならチャンスはあるかもしれないが、裏で糸を引いている人物がいるとしたら、そいつはこの者たちはもちろんヤノシュ伯爵も生かしてはおかないはず。
 もしかしたらヤノシュ伯爵は、その事を薄々感じていたのかもしれない。
 ずる賢い人間は臆病者が多い。
 そして己の危機に人一倍敏感だ。
 万が一の時は私を皇宮に連れて行き、自分に指示した者を告発しようとでも考えたか。
 それなら私の命を救ったのも納得がいく。

 「物事とは単純に考えるのが一番だ。オト、私とヤノシュ伯爵、どちらが力がある?」

 言わずもがなだ。
 オトの目に、ほんの少し光が宿った。

 「よし、行くぞ」


 ヤンとオトに導かれ、長く過ごした地下を出る。
 屋内だから新鮮とまではいかないが、それでも地下の澱んだ空気とはまるで違う。

 「従者の方は一階の奥にいます」

 用心しながら進む。
 しかし、邸内は拍子抜けするほどに手薄だった。
 (舐められたものだな)
 一人ではなにもできないと侮られていたのだろう。
 若干腹立たしい気持ちはあるが、今となってはそれもありがたい。
 

 


 
しおりを挟む
感想 265

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...