もう、追いかけない

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23 三か月前の真実⑫ エミル



 「今、“我らが主、エミル殿下”って言いましたよね……」

 オトは間の抜けた顔をこちらに向けた。
 確かに私の耳にも同じように聞こえた。
 しかも聞き覚えのある声だ。

 「オト、お前ちょっと外に出てみろ」

 「え!?お仲間なんですか?」

 「まだわからない」

 私が監禁されている間に帝都で起こっていた事がわからない以上、これまでの仲間が今もそうである保証はどこにもない。
 
 「罠かもしれないじゃないですか!嫌ですよ!」

 「まったく、仕方ないな……」

 私は立ち上がり、扉の方へ向かった。
 そして僅かに扉を開け、外の男たちに聞こえるよう叫んだ。

 「名を名乗れ!」

 私の声がその場に響いた瞬間、黒装束の集団からどよめきが起こった。
 そのうちにすすり泣くような声が聞こえ始めたと思ったら、先ほどこちらに向かって叫んだ男が、集団に向かって号令をかけた。
 すると集団は一斉に剣を下に置き、膝をついて頭を垂れた。

 「殿下、よくぞご無事で……!このラデク、仲間と共に殿下をお迎えに参りました!」

 ラデク──その名を聞き、無意識に大きく息を吐く。
 その声を聞いた時、なんとなく予想はしていたが、思ったよりも気が張っていたのだろう。
  
 「お前たち、どうやら助かったようだぞ」

 「殿下……本当にあれはラデク殿ですか」

 「ああ、持つべきものはいい部下だ。もちろんミロフ、お前たちもだが」

 ミロフたちを連れ、頭を垂れたままずっと私を待ち続ける黒装束の男たちの前に姿を現すと、全員の目から水鉄砲のように涙が噴き出した。

 「はは、久しぶりだな」

 近くに寄ってみれば、みな知っている顔ばかりだ。

 「殿下!遅くなり、申し訳ございませんでした!」
 
 額が地面につくほど頭を下げる先頭の男の名はラデク。
 この集団の長だ。
 帝国には直属の騎士団がいくつか存在するが、ラデクが率いるこの一団は、私が近衛騎士団から引き抜いた精鋭で、いわば私のためだけに動く私兵だ。
 その仕事は戦いだけに限らず、諜報、潜入などあらゆる任務をこなすため、緊急時には独断で動くことを許可している。

 「いつものお前からすると確かに今回は遅かったな……まあ、私も怪我で身動きが取れなかったわけだが……お前たちが遅れた理由はもしかして、帝都にいるという私の偽物のせいか?」

 「なんと、ご存じでいらっしゃったのですか!?」

 「いや、今のところ至極不愉快な話しか聞いていない。なにがあったのかお前の口から詳しく聞かせてくれ」

 
 *


 「あの……大したものがご用意できず、すみません」

 なんで俺の家で……という不満が表情に駄々洩れるヤンの出した茶を飲みながら、私たちはラデクとテーブルを囲んだ。
 他の者は外で待機させたが、どうやらミロフたちとの再会を喜び合っているようだ。
 和やかに談笑する声が聞こえてくる。
 しかしそんな仲間たちとは真逆に、ラデクは硬い面持ちで口を開いた。

 「二か月半ほど前のことになります。殿下が事故に遭ったという知らせを聞き、我らも急ぎこのヤノシュ伯爵領へと馬を走らせました」

 「なに?お前たち来たのか、ここへ?」

 「はい。そして確かに見たのです」

 「いったい何を?」

 「ヤノシュ伯爵令嬢に看病される殿下のお姿です」







 
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