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しおりを挟む「い、偽る?」
「はい。私、気づいてしまいました。殿下は本当のご自分を偽ってらっしゃると」
偽るというかこれはそう……例えて言うなら擬態。
そう、擬態だ。
別に偽っていたわけではない。
それに、ルツィエルだって素の私よりも、見た目の美しさそのままの中身の私のほうがいいのだろうに。
無理をしているのは私じゃなく、ルツィエルの方ではないのか?
すべてを理解して受け入れることのほうが、自分を偽るよりもよほど難しい。
ルツィエルの望む男でい続けることは私にとって無理でも苦痛でもなんでもない。
好意のある異性に対し、相手が望むであろう仕草でこれまた望むであろう言葉をかける。
誰もが当たり前のようにしていることではないのか。
それで蕩ける君の顔を見ることができるのなら、私にとってこれ以上の喜びはない。
けれどやんわり諭したところで、理由はわからないが、感情的になっている今のルツィエルは納得しないだろう。
(どうしたものか……)
「とにかく落ちついて。少し話をしようか」
興奮が収まらない様子のルツィエルをソファに座らせ、その隣に腰を下ろす。
「さて、ルツィエル。私が自分を偽っていると思うのはなぜ?」
「この数日、私は誰よりも殿下の側にいました」
「そうだね。私と過ごした日々はどうだった?」
「え?そ、それはその、とても素敵でした」
「嬉しい……」
そっと頬に触れると恥ずかしそうに俯く姿がたまらなく可愛い。
別に誤魔化そうとしているわけではないのだが、側にいるとどうしてもその柔らかな肌に触れたくて仕方がなくなる。
そして案の定、ルツィエルは拗ねたような顔で抗議した。
「殿下、真面目に聞いてください!」
「真面目に聞いているよ。それで、ルツィエルは私がどう自分を偽っていると言うんだい?」
「妖精です」
「妖精?ああ、初めて出会った時に私を妖精だと言ってくれたね」
「私が殿下のことを妖精のようだと言ってずっと憧れていたから、幼い私の夢を壊さないように、妖精のフリをしてくれていたのではありませんか?優雅で美しく、優しい妖精のフリを」
その通り、大正解だ。
ルツィエルは、私が妖精ではないのにそのように振る舞っていたことを気に病んでいるのか?
「確かに、君の前では妖精のようでありたいと思っていたよ。君が私に向ける憧れの視線も嬉しかった。けれどそれを負担に感じたことは一度もない。それに男は皆、愛する女性の前で格好つけたい生き物だ。自分を偽るというよりは『健気』だと、そう思わないか?」
むしろつらいのは本性をひた隠すことよりも、目の前の問題が片付くまで生殺しの状態が続くということで。
「でも、さきほど父のことを説得してくださった時ですが……私、見てしまったのです」
「なにを?」
「落ち込む父の顔を見て、殿下の顔がほくそ笑むのを……」
ルツィエルの口から飛び出した衝撃的な言葉に、不覚にもひゅっと喉が鳴ってしまった。
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