もう、追いかけない

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
67 / 71

67

しおりを挟む




 「い、偽る?」

 「はい。私、気づいてしまいました。殿下は本当のご自分を偽ってらっしゃると」

 偽るというかこれはそう……例えて言うなら擬態。
 そう、擬態だ。
 別に偽っていたわけではない。
 それに、ルツィエルだって素の私よりも、見た目の美しさそのままの中身の私のほうがいいのだろうに。
 無理をしているのは私じゃなく、ルツィエルの方ではないのか?
 すべてを理解して受け入れることのほうが、自分を偽るよりもよほど難しい。
 ルツィエルの望む男でい続けることは私にとって無理でも苦痛でもなんでもない。
 好意のある異性に対し、相手が望むであろう仕草でこれまた望むであろう言葉をかける。 
 誰もが当たり前のようにしていることではないのか。
 それで蕩ける君の顔を見ることができるのなら、私にとってこれ以上の喜びはない。
 けれどやんわり諭したところで、理由はわからないが、感情的になっている今のルツィエルは納得しないだろう。
 (どうしたものか……)

 「とにかく落ちついて。少し話をしようか」

 興奮が収まらない様子のルツィエルをソファに座らせ、その隣に腰を下ろす。

 「さて、ルツィエル。私が自分を偽っていると思うのはなぜ?」

 「この数日、私は誰よりも殿下の側にいました」

 「そうだね。私と過ごした日々はどうだった?」

 「え?そ、それはその、とても素敵でした」

 「嬉しい……」

 そっと頬に触れると恥ずかしそうに俯く姿がたまらなく可愛い。
 別に誤魔化そうとしているわけではないのだが、側にいるとどうしてもその柔らかな肌に触れたくて仕方がなくなる。
 そして案の定、ルツィエルは拗ねたような顔で抗議した。

 「殿下、真面目に聞いてください!」

 「真面目に聞いているよ。それで、ルツィエルは私がどう自分を偽っていると言うんだい?」

 「妖精です」

 「妖精?ああ、初めて出会った時に私を妖精だと言ってくれたね」

 「私が殿下のことを妖精のようだと言ってずっと憧れていたから、幼い私の夢を壊さないように、妖精のフリをしてくれていたのではありませんか?優雅で美しく、優しい妖精のフリを」

 その通り、大正解だ。
 ルツィエルは、私が妖精ではないのにそのように振る舞っていたことを気に病んでいるのか?

 「確かに、君の前では妖精のようでありたいと思っていたよ。君が私に向ける憧れの視線も嬉しかった。けれどそれを負担に感じたことは一度もない。それに男は皆、愛する女性の前で格好つけたい生き物だ。自分を偽るというよりは『健気』だと、そう思わないか?」

 むしろつらいのは本性をひた隠すことよりも、目の前の問題が片付くまで生殺しの状態が続くということで。

 「でも、さきほど父のことを説得してくださった時ですが……私、見てしまったのです」

 「なにを?」

 「落ち込む父の顔を見て、殿下の顔がほくそ笑むのを……」

 ルツィエルの口から飛び出した衝撃的な言葉に、不覚にもひゅっと喉が鳴ってしまった。


しおりを挟む
感想 265

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...