【本編完結】婚約者と別れる方法

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 「わあ、綺麗……!」

 春を告げる薄桃色の花が風に舞い、庭園の石畳を染め上げる。
 花が散り始めてから数日しか見ることのできない幻想的な光景に、サラは目を奪われた。

 「今年も君の喜ぶ顔を見ることができて嬉しいよ」

 テーブルを挟んで向かい側に座る男性は、サラの婚約者であり、このオステリア王国の王太子アルベール。
 日の光を受けてきらきらと輝く白金の髪に、最上級のサファイアをはめ込んだような紺碧の瞳。
 国中の女性を虜にする美しい容姿を持ちながら、頭脳明晰で武芸にも長ける彼は、まさに完璧な王子様。

 「わたしも……今年もアルベール様とお花見ができて幸せです」

 ふたりが婚約したのは今から六年前のこと。
アルベールが十六歳、サラは十二歳だった。
 初めて顔を合わせた日、アルベールのあまりの美しさに驚いたサラは、なんと鼻から血を流してしまい、彼と側近たちを慌てさせた。
 さすがに今では鼻血を出すことはなくなったが、それでも成長に合わせ日増しに凄みを増していくアルベールの美しさに、サラの胸はうるさく騒いで休まる暇がない。

 「あっ……!」

 一陣の風が拭き、サラの長い金の髪をさらった。
 狂ったように舞う花弁が視界を奪う。
 その瞬間、サラの頭をある映像が過った。
 寝台の上で見知らぬ女性を抱くアルベールと、胸に短刀を突き立てられ絶命する自分の姿。
 (なに……これ……)
 突如、酷い目眩と吐き気に似た気持ち悪さに襲われる。
 そして間髪入れず、今度は膨大な情報が頭の中を濁流のように流れて行った。
 それはなんと、サラの前世の記憶。

 ──大変だわ……私、早くここから逃げなくちゃ……!

 「すごい風だったね。サラ、大丈夫かい?」

 「あ、あの、アルベール様!」

 「うん?」

 こんな美形があざとく首を傾げるなんて反則だとサラは思う。
 (ああ、アルベール様、好き、大好き……!)
 王族であるにもかかわらず、決して偉ぶらず、サラのこともとても大切にしてくれている。
 好きで好きで、毎日彼のことで頭がいっぱいで、もうすぐ結婚の日取りも相談する予定で──
 最高に幸せだったこれまでの日々が、色鮮やかによみがえる。
 けれど、サラは逃げなくてはならない。
 なぜなら彼は、これから恋に狂ってサラのことを殺すから。

 「アルベール様……私、突然気分が悪くなってしまって……今日はこれで失礼します」

 性急に席を立ったサラに、アルベールが手を伸ばす。

 「それはいけない。待ってサラ、今すぐ客室を用意させるから」

 「いえ、大丈夫です。どうかお気遣いなく!」

 言い終わる前にサラは踵を返し、出口に向かって駆けだしていた。





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