【本編完結】婚約者と別れる方法

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 「お嬢さま、本当に大丈夫ですか?」

 侍女のエルが、心配そうにサラの顔を覗き込んだ。

 「ちょっと眩暈がしただけだから、横になればすぐよくなるわ」

 王宮から脱兎のごとく逃げ帰ったサラは、着替えを済ませ、自室のベッドに横になった。

 「ねえエル。お父様たち、なにか言ってた?」

 「とても心配されていました。いつものお嬢様でしたら王太子殿下とお会いになる日は、どんなに体調が悪くても面会時間ぎりぎりまでいらっしゃるので」

 「まあ、そうよね」

 アルベールと会えるのは月に一度だけ。
 それも多忙な彼がやっとの思いで作ってくれた時間だ。
 次に会えるまでのひと月をやり過ごすためには、これでもかと彼の成分を摂取する必要がある。

 「あとでアルベール様にお詫びの手紙を書くわ」

 「それはいいお考えですわ。きっと心配なさっていらっしゃるでしょうから」

 確かに今の彼ならまだ私の心配をしてくれているのだろう。
 (でもそれもあと少しのこと)
 エルが部屋を出て行ったあと、サラは紙とペンを取り出した。
 そして忘れないうちに、頭の中に流れてきた前世の記憶を時系列に記していった。

 「えっと……まずこれからアルベール様と私の結婚の日取りが決まるのよね……」

 それはこれから三ヶ月後のこと。
 夢見てきた初恋の人との結婚がようやく現実のものとなり、歓喜するサラ。
 しかし、ここから思いもよらない展開が起きることを、いったい誰が予想できただろう。
 サラは大きく息を吸い、忌まわしい記憶を呼び起こした。

 

 良く晴れた日だった。
 凄まじい轟音とともにいきなり空が裂け、そこから眩い光を放つ大きな球体がゆっくりと落ちてきたのだ。
 球体は王都の中心に着陸し、少しずつ光を失っていった。
 光が消えて現れたのは、この大陸では見たこともない黒髪に黒い瞳の少女。
 この大陸では見たこともない、奇妙な服装を身に纏った少女は怯えながら、名を「マリ」と名乗った。
 そしてここではない世界の住人だったが、いきなり光に包まれて、気づいたらここにいたという。
 その後マリはすぐさま王宮に保護された。
 しばらくしてマリが元いた世界についての聞き取り調査が始まり、彼女が持つ知識がはるか未来に存在する文明のものだと判明し、皆が彼女の存在を奇跡のように崇めだした。
 彼女の持つ貴重な知識を他国に取られてはならないと、国王はマリを自身の息子と娶せようと画策する。
 選ばれたのはアルベールの弟の第二王子。
 理由は単純。
 王太子アルベールには、既に婚約者であるサラがいたからだ。
 けれどマリは第二王子との結婚の打診に決して首を縦に振らなかった。
 なぜならマリは、アルベールに恋をしていたから。
 それを聞いた国王はマリの意思を優先し、サラにマリと婚約を取り替えるよう命じた。
 国王からすれば国内の有力家門との縁組よりも、マリの持つ知識を得る方がはるかに価値があったのだ。
 しかし、自身の家門から王妃を出すつもりでいたサラの生家オースウィン侯爵家は、国王の決定に強く反発した。
 もちろんサラとて、いきなり第二王子へ嫁げと言われても、到底納得できるはずもない。
 しかし、肝心のアルベールは沈黙を決め込んでいた。
 アルベールはどう考えているのだろう。
 彼の気持ちを知りたくて、サラは面会を求めて何度も王宮へ足を運んだ。
 しかしアルベールが会ってくれることはなかった。
 サラはしかたなく、秘密の通路を使ってアルベールに会いに行くことにしたのだ。
 なぜサラがその通路の存在を知っていたか──それはアルベールの婚約者になって少しした頃。
 『絶対に誰にも漏らしてはいけないよ』
 真面目な表情でアルベールが教えてくれたのは、王族のみが知ることの許される、王宮の最深部に張り巡らされた通路。
 そのうちのひとつは、アルベールの部屋の隠し扉へと繋がっていた。
 王族は、反乱や暗殺の危険と常に隣り合わせだ。
 だからアルベールは、万が一の時は例えサラひとりになってもここから逃げるようにと言われていた。
 けれどサラは不思議だった。
 まだ結婚もしていないサラに、そんな秘密を教えてしまっていいのだろうか。
 ここを通ってサラが悪さをしにくるとは思わないのか尋ねると、アルベールは一瞬きょとんとしたあと、口を開けて笑い出した。
 『サラが私に悪いことをするの?それならいつでも大歓迎だよ』と。
 そして、薄暗くカビ臭い秘密の通路を抜けた先で、サラは衝撃的な光景を目にすることになる。







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