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しおりを挟むアルベールはサラを立たせると、その手を引いて歩き出した。
案内されたのは奥の続き部屋。
(同じだ……)
前世、隠し通路を抜けた先にあった彼の寝室。
ここへきたのはあの一度だけ。
アルベールはサラを先に中へ入るよう促すと、静かに扉を閉めた。
願ったのは自分だが、これから彼のすべてを知り、そして抱かれるのかもしれないと思うと、緊張でどうにかなってしまいそうだった。
「サラ……」
背後から声をかけられ、サラはビクッと肩を震わせた。
振り向く間もなく抱きしめられ、後ろから回された逞しい腕にそっと手を添える。
「私は醜い……この身体を見せることでサラに嫌われることが恐ろしかった。だから、君が逃げられない状況を作り出してからにしようと思っていた……卑怯者だ」
「アルベール様は卑怯者ではありません。私を失うのが怖かったのでしょう?……それほど愛してくださっているから」
「ああ、愛してる。もう我慢できなくて……それで結婚の話を早めたんだ」
前世と結婚の日取りを決めたタイミングはそれほど離れてはいない。
けれどあの時のアルベールは心変わりをしてしまった。
(いったい今世と何が違ったのだろう)
サラは特別なことなど何もしていないのに。
アルベールの腕が離れ、後ろから衣擦れの音が聞こえた。
「どうか、本当の私を見ても嫌わないで欲しい」
彼の上着が床に落ちる音がして、サラはゆっくりと後ろを振り向いた。
沈痛な面持ちでシャツのボタンを外していくアルベール。
サラの目の前で晒されたのは、隆起する筋肉が陰影を作り出す鍛え抜かれた上半身。
その滑らかな肌は、女であるサラすら魅了してしまうほど美しい。
この完璧な肉体のどこが醜いというのか。
サラは一歩前に踏み出して、不安げなアルベールの瞳を覗き込んだ。
「どうしてそんなお顔をなさるの?こんなに素敵なのに」
サラの言葉にアルベールは眉間のしわを深くした。
「違うんだ……サラ。まだ見せていない」
「え?」
苦しげに顔を歪めたアルベールは、やがて覚悟したようにズボンのウエストに手をかけ、膝まで引き下げた。
予想もしなかった展開に、サラは小さな悲鳴を上げ、両手で顔を覆った。
「サラ……これが本当の私なんだ……」
悲痛な声が頭上から降ってきて、サラは恐る恐る顔を覆う手の指の隙間から、アルベールを見た。
雄々しく美しい上半身から少し下。
彼の白金の髪と同じ色の下生えから垂れ下がるのは、それはそれは見事なアンギラ アンギラ──じゃない、黒光りするアルベールのアルベールだった。
サラは理解が追いつかず、かといってアルベールの心中に気を回す余裕もなく、真顔でソレを凝視した。
──どういうことなの
サラの見たアルベールのアルベール(裏側のみ)は、彼の美しい肌色そのままだった。
混乱するサラ。
もう、なりふり構ってなどいられなかった。
真実を確かめなければならない──その一心から出た言葉は
「アルベール様!!裏を、裏側も見せてくださいませ!!」
「う、裏側!?」
驚きで目を見開き、顎が外れそうなアルベールのことも、今のサラには目に入らない。
あの日自分が見たものは何だったのか。
そこでサラの中にある疑問が湧いた。
(もしかして……前世と今世では色素が違う……?)
サラはドレスの胸元を勢いよくくつろげた。
「サ、サラ!いったい何を!?」
前世が綺麗でも今世は綺麗だとは限らない。
サラはアルベールのアルベールの裏側を確認する前に、自分の色素で検証しようと膨らみの中央を見た。
「……同じだわ……」
サラの瞳に映ったのは前世とまったく変わりない自身の胸の色づき。
サラの混乱はついに極まった。
「アルベール様……裏……裏側をどうか……」
よよよ、と倒れそうになるサラをアルベールが咄嗟に支えた。
「サラ、私を気持ち悪いとは思わないの」
そんなことよりも裏側だ──とはさすがに言えるはずもなく。
「秘するべき場所のお色は千差万別です。そんなことで人を判断するほどサラは愚か者ではありません」
アルベールのアルベールは脂ののったアンギラ アンギラ。
事実ならそれを黙って受け入れるだけ。
アルベール最大の悩みも今のサラにとっては些末事にほかならない。
──だから、大事なのはとにかく裏側なの
「アルベール様、サラの一生のお願いです。どうか、どうかアルベール様の裏側を見せてくださいませ……!」
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