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しおりを挟む「サ、サラ。私は結婚するまで我慢できる」
「私はできません」
「よく考えた方がいい。婚前交渉が公になれば、君は貴族の間で誹りを受けるかもしれない」
「そんなの構いません。お願いアルベール様……どうかサラを心から安心させてください」
サラも限界アルベールも限界。
お互い抱える事情は違えども、一歩も引けない状況の中、難しい顔で見つめ合う。
先手を打って追い打ちをかけたのはサラだった。
「……そんなに私を抱くのが嫌なのですか……私にはこれっぽっちも女としての魅力を感じませんか?」
潤む瞳でたたみかけるサラに、アルベールは反論した。
「魅力がないわけない。君が欲しいよサラ。けれど私は──」
「私は?」
「私は……」
オウム返しで会話にならない。
けれどサラは、アルベールの顔色がどんどん悪くなっていることに気づき、質問を変えた。
「アルベール様、なにか私に言えない事情でもあるのですか」
事情ならありまくりのアルベール。
しかし、これ以上逃げればサラを失うことにもなりかねない。
焦りと恐怖でもんどり打つアルベールの心。
しかしそれをサラが知る由もない。
「サラは、例えどんなことがあろうとも、アルベール様から離れません」
──どんなことがあろうとも
そのひと言で、アルベールの箍が外れた。
「……本当に、何があっても私から離れない……?」
「アルベール様……?」
アルベールの纏っていた空気がガラリと変わった。
サラは不思議そうに彼の様子を窺った。
「サラは……私がどんな人間でも愛してくれるの?」
「もちろんです。サラはアルベール様の事を心から愛しています」
「……例え、どんなにこの身体が醜くても?」
そこでサラは気づいてしまった。
おそらくアルベールは、戦場で負った傷跡を気にしているのだと。
アルベールはこれまでに何度も戦場へ出て、最前線で指揮をとってきた。
心配するサラを気遣って、いつも笑顔で戻っては来るが、きっとその身体には名誉の負傷がそこここに刻まれていることだろう。
(アルベール様はそのことを気にしているんだ……!)
サラとて、負傷した兵士の傷がどれほどのものかは知っている。
深い傷ほど治った時は肉が盛り上がり、痛々しい跡を残す。
けれど、サラはそれを醜いなんて思ったりはしない。
「サラは……サラはどんなアルベール様でも愛おしいの……アルベール様は違うのですか?サラに醜い場所があったら愛してはくれませんか?」
アルベールは一瞬虚を衝かれたような顔をして、次にくしゃりと顔を歪めた。
「……私も、どんなサラでも愛せる」
「アルベール様……!」
サラはたまらず、柔らかな膨らみの中にアルベールの頭を抱え込んだ。
「サラに見せて……アルベール様のすべてを……」
「………………わかった」
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