先見姫の受難 〜王女は救国の騎士から逃げ切りたい〜

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 私は王族だけに使用が許される通路を使い、父上の元へ急ぎました。
 先触れもせずに訪れるのは初めての事ですが、きっと許してくれるでしょう。
 何しろこれは娘の一大事なのですから。
 ですが歩きながら、ふと思いました。

 ──父上に、何と説明すれば?

 まさか、【クリューガー卿と凄まじいまぐわい方をする未来が待っているから、侵攻という手段を取るのは少し待ってください】とでも?
 そんな言い分が通る訳ありませんし、正気を疑われます。
 ですが何か策を講じなければ、クリューガー卿の申し分ない功績と人柄から、【良い婿が見つかって良かった良かった】などと言って、父があっさり私を差し出す恐れがあります。

 私とて王族に生まれた身。そして【先見様】の力は遺伝ではありませんが、将来私が生むであろう子どもに先見の力の発現を期待する声があることも知っています。
 いつかはどなたかと肌を合わせる日も来るのでしょう。覚悟はできています。
 ですが、あの未来だけは……あの凄まじい行為と監禁だけはどうしても避けたいのです。
 それならクリューガー卿に『監禁と激しい行為はやめてくれ』とお願いして、結婚すればいいと思われるかもしれませんが、そもそも彼がどうしてあんな事になっているのか、理由がまったくわかりません。
 もう既に私への想いを胸に秘めているのか……いえ、でもそれはないでしょう。彼からそういった類のものを向けられた覚えはありませんから。
 だとしたらリヴェニアとの戦いにおいて、彼の人格を変える何かがあったのかもしれません。

 そしてもう一つ私が危惧しているのは、自分の事をよく知りもしない女性にいきなり性癖の異常さを指摘され、逆上しない男性がいるでしょうかという事です。
 それを理由に反旗を翻されたらと思うと、恐ろしくてとてもそんな事はできません。
 彼らはこの国最強の騎士たちです。
 万が一リヴェニアに寝返られでもしたら……

 ……色々と希望がなさすぎます。八方塞がりです。

 ──いっそ、嘘をついてしまおうか……

 私も人間です。不意にそんな悪い考えも浮かんでしまいます。
 しかし、神の啓示とも言える先見の内容を歪める事で、もしもこの国に災いが起きたらと思うと、とても嘘はつけません。

 ──でも、待って……!

 そこで私は閃きました。
 この件について、先見の力はクリューガー卿の未来を見せてくれました。
 彼がリヴェニア侵攻に打って出た場合の未来を。
 ということは、私が別案を考え出す度に彼の手を握れば、それが成功するか失敗するかの未来を見せてもらえるかもしれないという事ですよね。
 そしてその案の中に、あの未来を回避する方法があるかもしれない。
 ただ、その案には必ず彼が関わっている必要がありますが……。

 こうなったら背に腹は代えられません。
 とにかく父に現況を聞き、それから対策を練る事にしました。


 *


 「一旦保留ですか……それは良かったです」

 父の執務室で聞かされた現況に、私は胸を撫で下ろしました。
 どうやら私が倒れた事により、会議は中断されたようです。
 
 「さすがに先見の内容を知らずに動くことはせんよ。で、どうだった?未来でハロルドはリヴェニアに勝ったのか?」
 
 ──うぐっっ!!

 当然と言えば当然ですが、いきなり本題に入る父が恨めしく感じます。
 
 「そ、それが……勝つには勝ったのですが……」

 「そうか、勝ったのか!よし、ランドルフ!すぐに第一騎士団に招集をかけよ!」

 父は上機嫌な様子で、側に控えていた宰相閣下に告げました。

 「お、お待ち下さい父上!!」

 招集などかけさせてなるものですか!
 そんな事をしたら数ヶ月のうちに私の股開き及び監禁刑が確定してしまいます!!
 こうなったら女は度胸です。
 嘘さえつかなければいいのです!
 私は父と宰相閣下に向き直りました。

 「その……確かにクリューガー卿と第一騎士団はリヴェニアに勝利されます。ですがそうなるとその……私の生命が脅かされる事態に……」

 「なんと、お前の命を救うために戦うのに、それがお前に新たな危機を生むと言うのか!?」

 父よ、飲み込みが早くて助かります。
 あれはまさしく生命の危機。嘘はついていません。

 「して、その危機とはいったいどのようなものなのだ?」

 父よ、前言撤回です。
 世の中には踏み込んではいけない領域というものがあるのです。
 しかし問題ありません。この質問に、私は迫真の演技で答える事ができるからです。
 簡単です。あの光景を思い出せば良いのです。あのグロテスクで巨大な男性器が私を攻め立てる様を!
 
 「それはその……あまりにもおぞましくて、私の口からは申し上げられません……」

 演技などしなくても自然と身体が震えます。
 これに父は顔を顰めました。

 「そんなに酷い目にあわされるというのか?私の愛しい娘が……!」

 本気で心配してくれている表情を見ると少しばかり胸は痛みますが、酷い目にあうという事には違いありません。

 「そうなのです。ですから父上、どうか私にもう少しだけ時間をくださいませんか?」

 「お前に時間を?」

 「はい。他の策を考え、都度クリューガー卿を通し先を視れば、もっと良い未来を迎えられるかもしれません」

 私の発言に、父も宰相閣下もしばらく悩んでおりましたが、最後にはふたりとも頷いてくださいました。
 
 
 
 
 

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