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 クリューガー卿は憤怒の表情で、ゆっくりとこちらに近付いて来ます。
 私は側にあった上掛けを手繰り寄せ、自身の身体を隠しました。
 
 『な、何だお前は!おい、衛兵は何をしている!?』

 取り乱した様子のエリアス王子をクリューガー卿は嘲笑います。

 『そのお綺麗な笑顔にすっかり騙されたよ……まさかあんな事を企てていたとはな……』

 ──

 いったいどういう事なのでしょう。
 しかしクリューガー卿の言葉にエリアス王子は顔を引きつらせました。
 そしてすぐさま私の方を振り返り、抱き寄せたのです。

 『アンネリーエ、彼は何か誤解しているんだ!君からも彼に出て行くよう言ってくれないか?』

 しかしその瞬間、クリューガー卿は激昂しました。

 『この卑怯者が!!殿下を盾にするつもりか!!』

 『アンネリーエ、彼は君に懸想していたんだ。けれど君は私を愛してくれた……彼は私を逆恨みしてるんだ。君の心も身体も私に奪われたとね』

 『エリアス様……!!』

 そして私がクリューガー卿に向かって口を開こうとした時です。
 エリアス王子の背後に、振り上げられた剣が見えました。

 『いやぁぁぁあ!!』

 部屋に響く絶叫。
 私は血を流し倒れるエリアス王子に縋りつき、何度も何度も名前を呼んでいます。

 ──何てことを……!!

 せっかく穏やかに幸せになれる未来を見つけたのに、まさか未来の夫を殺されるなんて。

 しかしここで私は現実に引き戻されます。
 ですが今回ばかりは必死で抗いました。

 ──もう少し……もう少しだけ……何があったのか知りたいの……!!
 
 ですが無情にも、先見の力はそれを許してはくれませんでした。
 


 「殿下!!アンネリーエ殿下!!どうされました!?」

 目を開けると、頬にひんやりとした感覚が。
 どうやら私は泣いているようです。
 当たり前です。なんてったって夫(推定)を殺されたのですから。
 クリューガー卿は険しい顔で私の状態を心配しています。
 ですが、私は悲しくてたまりませんでした。
 だからでしょうか、つい彼に問いかけてしまったのです。

 「どうしたら……どうしたらあなたを止められるの……?」

 「殿下?いったい何の事ですか?」

 「どうしたらあなたをこの戦いから遠ざけることができるの……どうしたら……!!」

 言い終わる前に私は立ち上がり、その場から逃げるように走り出していました。

 「アンネリーエ殿下!?」

 後ろからクリューガー卿の声が聞こえましたが、私は決して振り返らず、自宮まで走り続けたのです。







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