先見姫の受難 〜王女は救国の騎士から逃げ切りたい〜

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 「この命と引き替えにあなたを守れるのなら、私には何の悔いもありません。愛しています、殿下」

 愛してる……今愛してるといいましたか……?
 何てこと……ではやはりあなたは私を手に入れるために出陣し、帰ってきたら悪魔の所業に及ぶ訳なのですね。

 「嫌……嫌です……私はそんな結末望みません……!!」

 思い切り手を突っ張り、何とかクリューガー卿の腕から逃れようと暴れました。
 今ならまだ間に合います。
 第二騎士団以下の団長を招集し、クリューガー卿と第一騎士団を止めて貰えばまだ……!!

 「殿下!!」

 しかしクリューガー卿は暴れる私の両手首を掴み、壁に押し付けました。
 背の高い彼を見上げると、今にも泣き出しそうな、切羽詰まった顔がそこにありました。

 「私だってつらいよ……これが最後だなんてあんまりだ……でもあなたを救うにはこれしか道がないんだ!!」

 「あなたは私を救いに行くのではありません!自分のために出陣し、そして私を地獄に突き落とすのよ……!」

 ──そう、大股開きを自分の目で確認させるという地獄に……そして二度目の先見では逆立ちさせられていたわ!!

 滲む視界でクリューガー卿の顔がよく見えません。
 彼に向けて発したはずの自分自身の言葉が、何故か胸に突き刺さります。
 彼はまだ何もしていないじゃありませんか。
 それなのにこんな言葉を投げつけるなんて私もどうかしてる。
 きっと私も酷い顔をしている事でしょう。
 それでも伝えなくてはなりません。
 自分自身の幸せと、お股のために!

 「お願い……道は私が必ず見つけてみせます。ですからどうか、どうか早まらないで……!」

 「殿下……っ!!」

 クリューガー卿の唇が、次の言葉を紡ごうとした私のそれを塞ぎました。
 抵抗する暇もなく、厚みのある柔らかな唇が押し付けられ、ただ触れているだけなのに、頭が熱に浮かされたようにくらくらします。
 腕を壁に縫い留められた私は、どうしたら良いのかわからなくて、顔を強張らせ、されるがままでいました。
 やがて足から力が抜け、その場に座り込んでしまったのですが、その間も、いっときたりともクリューガー卿は唇を離しませんでした。

 「愛しています、アンネリーエ殿下……この命はあなたのものだ……」

 ようやく離れた唇。
 嬉しい筈なのに、心に小さな隙間ができたような気分になるのは何故なのでしょう。
 私の腕を解放した彼は、拘束した手首を謝るように優しく擦り、吐息を感じる距離で囁きます。
 こんなに近い距離にいるのに、不思議とそんなに嫌な気持ちがしません。
 思っていたよりもずっと、無理矢理でも強引でもないからでしょうか。
 先見の力が見せたような悪魔的な雰囲気は、今の彼には感じません。

 「……あなたは死にません」

 「え?」

 不意にそんな言葉が口をついて出ていきました。
 彼はどうしてか自分が命を落とすと信じ切っているので、そこは否定してあげなければと、少し冷えた頭がそうさせたようです。
 
 「私は死なない……なら何故殿下はそんなに取り乱して……?」

 「あなたは何か勘違いしておられます。クリューガー卿、あなたは無事リヴェニアを退けるの……」

 その先の展開が色鮮やかに頭に浮かび、私はもう、黙っていることができませんでした。

 「でもそうすると私が……私のお股が……うっ、うっ……うぅっ!!」

 私の口から発せられた意味不明な【股】という一文字に、彼が顔を顰めたのは言うまでもありません。




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