先見姫の受難 〜王女は救国の騎士から逃げ切りたい〜

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
16 / 35

16

しおりを挟む





 「えぇっ!?」

 私が実験体?今、確かにそう言いましたよね?

 「で、ですがそれでは見ることができません!!」

 いえ、そもそも見たくはないのですが、実験体という恐ろしい役目から逃れようと、私の生存本能が全力で働き始めたようです。
 しかしクリューガー卿は、慌てふためく私の手のひらに口付けながら、艶のある表情で語りかけます。

 「殿下、“百聞は一見にしかず”ですよ。見るよりも実際に体験していただいたらよくわかると思います」

 「な、何がですか……?」

 「私が、どれだけ殿下を愛し、大切に想っているのかをです。殿下、私との口づけはお嫌でしたか?」

 クリューガー卿は私との間を詰めました。
 屈むように顔を近付けて囁くので、低い声が耳朶に響き、身体にむず痒いような感覚が走ります。
 口付けがどうこうというより、あまりに突然で衝撃的すぎて、何も考えられませんでした。
 ですが──

 「嫌だとか……嫌悪感は感じませんでした」

 クリューガー卿のお口は、その逞しい身体からは想像できないくらい滑らかで柔らかくて、それに変な臭いもしませんでした。

 「良かった……不快な思いをされたりはしていないのですね」

 クリューガー卿はホッとしたように小さく息を吐きました。
 
 「殿下……」

 宵闇色の瞳が、至近距離で私を見つめます。

 ──これは、いけない

 頭の中ではわかっていながらも、その美しい瞳から目を逸らすことができませんでした。
 彼の唇が遠慮がちに触れては離れ、それを何度か繰り返すとクリューガー卿は私の瞳を覗き込みます。
 まるで、この先へ進むことへの許しを待っているかのようです。
 焦がれるような顔が可愛いく見えるのは何故でしょう。
 あれほど怖くて逃げたくてたまらなかったのに。
 
 「お約束します。殿下を穢すような真似は決していたしません。ですからどうか、先見の力で視た私ではなく、あなたの目の前にいる生身の私を見て、知ってはいただけませんか」

 彼は祈るような目で私の手を握り、返事を待っています。

 ──どうしたらいいの……?

 ここでクリューガー卿を遠ざけたところで、明朝彼がリヴェニアに発つというのなら、あの未来はいずれ必ずやってきます。
 それならば、怖い思いをするのはできるだけ先延ばしにしたいのが人間というもの。
 ですが、本当にそれでいいのでしょうか。
 少なくとも彼は、私の心を……そして身体を大切にしたいと思ってくれているようです。

 これまですべてを先見の力で決めてきた私には、大切な物事を自分の意思で決断する機会があまりなかったように思います。
 ですがこれは他の誰でもない、私にしか決められない事。
 私が決めなければならない事です。

 「……私が嫌だと言ったら、止めてくださいますか……?」

 私の言葉にクリューガー卿の顔がほころびました。

 「もちろんです……!!」

 


しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...