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しおりを挟む熱い唇が、首筋から鎖骨にかけて何度も口付けを落とし、私は顔に熱が集まるのを感じました。
そして唇は頬を辿り、耳元に移動します。
『殿下……』と、低く切なげな声が耳朶を揺らし、滑らかな舌が耳孔を這い、私はここから逃れたいのかそうでないのか自分でもよくわからないまま、黙って彼のする事を受け入れました。
最初はくすぐったいとしか感じなかったのに、そのうち腰にゾクゾクと痺れるような感覚が走りました。
ですが、身を捩って痺れを逃がそうとするたびに、クリューガー卿は私の腰を抱き寄せます。
まるで『逃さない』とでも言われているようです。
ひとしきり耳に口付けると、熱い唇は離れていきました。
ようやく解放されたのかと思ったら、今度は鼻先が触れ合いました。
口付けをするのだと思いぎゅっと目を瞑ると、唇をなぞるように舐められました。
「……殿下、口を開いてくださいますか?」
「口を……開く……?」
大きくあーんと開けば良いのでしょうか。
でもまさかそんな。
クリューガー卿は戸惑う私に微笑みながら口付けます。
すると薄く開いた隙間から、彼の熱い舌がゆっくりと入ってきたのです。
──嘘……舌が、舌が入ってる……
けれどもっと信じられないのは、彼の舌を不快に思わない自分です。
彼は固まる私の舌を探り当て、優しく絡めてきます。
しばらくすると上顎をゆっくりと舐められ、耳に口付けられた時のように、再び身体にゾクゾクとした痺れが走ります。
しかしそれを待っていたかのように、クリューガー卿の大きな手が私の腰に触れました。
そして、腰から臀部すれすれのところまでを繰り返しゆっくりと撫でて行くのです。
「んっ……ふ……!!」
彼の手が動くたび、唇と唇の隙間から吐息とともに声が漏れます。
聞いたことのない自分の声が、恥ずかしくてたまりません。
でも、そうこうしているうちに口の中にはふたりの唾液が溢れ、絡まる舌の音が脳に直接響き、私は何も考えられなくなっていました。
唇を離し、新しい空気で肺を満たす頃には、私の身体はすっかり力が入らない状態でした。
「殿下、嫌ではありませんでしたか?」
「……はい」
恥ずかしいけれど、嫌ではありません。
ですがひとつひとつ、何か違う動作をするたびに確認され、私が首を横に振ると破顔するクリューガー卿。
私は不思議でたまらなくて、質問をしました。
「……皆さま、このようになさるのですか?」
閨事とは、逐一相手の気持ちを確認しながら、こんなにも丁寧にゆっくりと時間をかけるものなのでしょうか。
とても長い時間が経ったように思いますが、まだ口付けしかしていないのです。
私が視た光景は、既に交わっている場面だったので、それで余計に恐怖を感じたのだと思います。
ですがもし、こんなやり取りを視ていたとしたらどうだったでしょう?
エリアス王子との交わりのように、穏やかで優しい愛のやり取りを、彼との先見でも視ていたとしたら……?
──きっと、もっと素直に受け入れていたかもしれませんね……
何故先見の力はあんなところから視せたのでしょう。少しだけ意地悪をされたような気分になってしまいます。
「周りがどうしているのかはわかりません。ですが私がこのように愛するのは、誓って殿下だけです……」
自分だけと言われたら、嬉しくない人はいないのでしょう。
ですが、私は何故かその言葉が引っかかります。
このように愛するのは私だけ……という事は、他の愛し方もあるということなのでしょうか。
思えばクリューガー卿の所作は何もかもが流麗で、とてもこの状況が初めてだとは思えません。
何も『自分が初めてだから、相手も初めてでなければ嫌だ』などと言うつもりはありません。
選択の自由はありますが、王族のみならず、貴族の間でも閨事の教育を実際に経験しながら行う風習があることも当然知っています。
ですが、何故でしょう。
クリューガー卿が他の女性とこんな事をしているのだと思ったら、突如心に大きな穴が空いたようです。
クリューガー卿は私の異変に気付いたのか、窺うような表情をしています。
「殿下?」
ですが私は何も答えられなくて、黙って彼の顔を見返す事しかできませんでした。
唇が少し触れ合い、彼の手が私の胸へ及んだ瞬間でした。
ビリビリと、まるで雷が落ちたような激しい刺激と共に、目の前が暗闇に包まれました。
──何!?
そして急激に視界は開かれます。
暗闇が引き裂かれ、眩い光が差すこの光景は、間違いなく先見の前触れ。
しかしこんな始まり方は未だかつて経験したことがありません。
いったい何が起こるのでしょう。
そして光の先で私は視てしまったのです。
クリューガー卿と激しく絡まる美しい女性の姿を。
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