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しおりを挟む「殿下、何があったのですか?」
「……いえ、少し先見の力が働いて……」
「先見の力が……?そんなに涙を流されるほどの何があったというのですか」
クリューガー卿は心配そうな顔をしています。嘘をついているとは思えません。
きっと本心から言ってくれているのでしょう。
ですがあの光景を目の当たりにした直後です。その気持ちを嬉しいとは思えませんでした。
そして今まで彼としていた事も、茶番にしか見えなくなりました。
だって、取り繕った彼の事なんて、いくら知ったところでなんの意味もありませんから。
それに……ベラさんといた時の彼は今とまるで雰囲気が違います。
あの姿が、きっと自然体の彼なのです。
「……いえ、特別な事は何も……クリューガー卿が無事に戻られる未来を視ました。なので今日はもうこれで終わりにしましょう。明日の朝早くに出発されるのでしょう?」
「何故です?まだ殿下の不安は──」
「不安など、あってもなくても未来は変わりませんから……」
だから、受け入れます。
受け入れるから、これ以上どうか私の心をかき乱したり、傷付けたりしないでください。
不思議です。
彼と関わるようになってから、私の感情はおかしくなってしまったようです。
ずっとずっと、風のない海のように穏やかな日々だったのに。
「……きっと、その時も、今日のように優しくしてくださるのでしょう?私はそれで十分です」
その後クリューガー卿とベラさんの関係が続こうが続かまいが、どちらでも構いません。
どうせこれは望んで結ばれる婚姻ではないのですから。
わかっていた事です。だって私は普通の人間じゃない。この力がある限り、個人の幸せなど望むだけ無駄なのです。
しかしクリューガー卿は納得してくれません。
「殿下、私は心からあなたと結ばれたいのです。どうかもう少しでいい、私を知ってください」
「……あなたを知るというのは、どんな風に女性を抱くか、という事ですか?それならもう大丈夫です」
「ですがまだ──」
「私だけじゃなく、長年のお付き合いの女性を抱かれているところも視ましたから」
自分の言った言葉が胸に深く突き刺さります。不意に目頭が熱くなり、涙がせり上がってきました。
私は赤く染まっているであろう瞳を見られたくなくて、咄嗟に顔を逸しました。
クリューガー卿は私の言葉を受けて、混乱しているようです。
「え……殿下、それはいったい……?」
黙っていたかったけれど、このままでは絶対に彼は引かないだろうと感じました。
私は一刻も早くひとりになりたかった。
だからこの際仕方ありません。
「今回の事、クリューガー卿には本当に申し訳ないと思っております。私との婚姻は避けられない未来……ですが私は、クリューガー卿の異性関係に口を出すつもりはありません。これまで通り会いたい方とお会いになられて結構です。王族との結婚となると、しばらくは身動きがとりずらいでしょう。その時は……お望みであれば、私が妻としての役目を果たしますから……」
「待ってください!急にどうされたのです?」
クリューガー卿は私の肩を掴み、必死で訴えます。
感情が爆発してしまいそうでした。
嫌だ、嫌だ、どうしてひとりにしてくれないの。
『愛してる』の言葉が本当だと言うのなら、リヴェニアから帰ればすぐに私が手に入るのだから、もうそれでいいじゃない。
それとも心まで全部明け渡せとでも?
あなたの事で胸を埋め尽くせと?
そんな欲張り許せない。
だって私だけの人じゃないくせに。
「あなたには、出発前に挨拶しなければならない人がまだいるのではありませんか!?こんなところに長居してないで、早く行きなさいよ!!あなたと長い付き合いのベラさんの所に!!」
自分にこんな金切り声が出せるなんて。
私は思い切り力を込めて彼の手を振り払い、ベッドを降りようとしました。
「待って!!待ってください!!」
しかしさすが騎士団長です。
彼の手は逃げようとする私をすぐさま捕まえてしまいます。
「離して!!」
「どうか私の話を聞いてください!!」
嫌だ。嘘つき。汚い。
私の口からは彼を罵る言葉が次々と出て行きます。
けれど言えば言うほど心は痛くなるばかり。
私が本当に言いたい事は何なのか、自分でもわかりませんでした。
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