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しおりを挟む「昨日は突然すみませんでした。急にあんな話をされてもアンネリーエ殿下を困らせるだけだったと、部屋に戻ってからずっと反省していました」
確かに唐突ではありましたが、内容が内容ですから、どんなタイミングでお話されても同じような気がします。
その事に関しては気にしていない旨を伝えると、エリアス王子はほっとしたように息を吐きました。
「その……なぜエリアス殿下は私を……?」
王族同士、交流を持つ機会はこれまでに何度かありましたが、そのどれもが好意を寄せられるほどの何かがあった訳ではありません。
挨拶を交わした後、ただ同じ場にいただけという事がほとんどです。
「最初は、あなたの事を恐れていました」
「恐れる?」
「先見の力というものを誤解していたのです」
彼はこの力の事を目の前の人間のすべてを見透かすような、恐ろしいものだと思っていたようです。
ですから、私と目を合わせただけで、自身の心の内をすべて覗かれてしまうのではないかと。
先見の力の大まかな情報は諸国に知れ渡ってはいますが、所詮は噂話のようなもの。何だかんだと尾ひれも付くでしょうから、そう思われていても仕方ありません。
「ですが、それが大きな勘違いだったと知ったのが五年前です。そう、あなたがローナンの危機を救ってくださったあの時です」
「そういえば……あの時も国王陛下からの書状を届けてくださったのはエリアス殿下でしたね」
「ええ。ひとりの死者も出さなかった事を告げた時のあなたの笑顔が、あの日から私の頭の中を占めるようになりました」
エリアス王子は立ち止まり、遠慮がちに私の手を取ります。
「アンネリーエ殿下。今、愛する方はおられますか?」
ハロルドの事を愛しているのかと言われれば……どうなのでしょう。
ハロルド曰く、私は恋をしているのだという事でしたから、愛とは違うのでしょう。
私は『いいえ』と答えました。
「良かった……あなたに愛する人がいるというのなら、黙って身を引こうと思っていました」
あら?
どうやら答えを間違えてしまったような感じがしてなりません。黙って身を引いていただけたら一番良かったのに。
これは俗に言う“駆け引き”とかいうものなのでしょうか。
圧倒的に経験値が足りなさすぎて、どうしたら良いのかわかりません。
エリアス王子は熱っぽい目で私を見つめながら、少し距離を詰めました。
「アンネリーエ殿下……私の顔はお嫌いですか?」
「いいえ。とても美しいお顔だと思います。羨ましいくらいに」
本当に、見れば見るほど完璧な顔立ちです。
彼の質問の意図はよくわかりませんが、顔面だけでしたらどちらかといえば、ハロルドよりも好みのお顔です。
「そんな、羨ましいだなんて……アンネリーエ、あなたこそこんなにも美しいのに」
“アンネリーエ”
そう敬称無しで呼ばれたと思った瞬間、エリアス王子は私の手の甲に熱い唇を押し当てました。
「エリアス殿下!?」
突然の事に驚く私を見て、はにかんで笑うエリアス王子。
「ふふ、赤くなって可愛い」
“可愛い”
その響きは寝台の上で彼が私に囁いた声と同じで、急に恥ずかしさに襲われた私は、何も言えなくなってしまいました。
「無礼は承知の上です。ですが私にはあまり時間がありません。アンネリーエ、ほんの少しでも私を哀れだと思ってくださるのなら、あなたと距離を近くすることをどうかお許しください」
「ですがその……」
「大丈夫です。人前では決して軽率な真似はいたしません。もちろん今のように名前でお呼びする事も。お約束します」
「……それなら、まあ」
エリアス王子の必死の様子に押され、つい承諾してしまいました。
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