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1章
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しおりを挟む「まぁ!マリー様がご婚約!?」
「違うわアニー。婚約者候補よ。」
マリーの足を湯に浸けて指先から優しくほぐしていくと、ほぅっとアニーから小さな息が漏れる。冷えた足先に温かい湯が気持ちいいのだろう。
「そうですか……候補ですか。それにしてもいきなりお茶会の招待状が届いた時のマリー様ったら…ふふ……。」
「やめてアニー。恥ずかしいわ。」
そう。いきなり届いた招待状にパニックになった私は、行け行け行ってこいとニタニタ笑う姉を振り切りアニーのところへ駆け込んだのだ。
アニーは私の一番の親友だ。
幼い私はよく母にくっついてこの療養院に遊びに来ては、緑に囲まれた敷地を駆け回っていた。ここにいる人達の年齢は様々で、小さい子もいればお年寄りもいる。でもみんな優しくて、会えばいつも声をかけてくれた。だから私はここが大好きだった。
たくさんの患者の中で母がとても気にかけている子がいた。それがアニーだった。
暴走する馬車に母親と共に轢かれ、母親は亡くなり、アニーはもう歩けない身体になったと。
この療養院は、主に重症・重病を患う領民が平等に安価で治療が受けられるようにと父が建てたそうだ。
僅かに感覚の残るアニーの脚を見た兄が、一縷の望みをかけてここにアニーを預けたそうだ。そして兄はアニーの治療費を稼ぐために王国の軍に入隊したと聞いた。
最初の頃は何も喋らず無表情だったアニーも、日を追うごとに喋るようになり、優しい日々に癒されて笑うようになった。
ある日母は私の目の前で倒れ、そのまま眠るように逝ってしまった。突然母を亡くす悲しみを誰よりも知っているアニーは、いつも私の側に寄り添ってくれた。
お茶会で幽霊だとからかわれた時も、たくさんの女の子に囲まれて身体を押されて倒された時も、一生懸命話し掛けたのにみんなに無視され続けた時も、アニーがいつも側で話を聞いてくれた。
アニーの兄のアランの事も大好きだ。アニーそっくりのダークブロンドの髪と薄いグレーの瞳のアランは子供達に大人気だ。アランが来るとみんな一斉に病室から飛び出して、背の高いアランによじ登り始める。アランは次々に子供を引き剥がしてふかふかの芝生に優しく投げ飛ばす。それが楽しくて子供達はまたアランに飛び掛かる。まるで何かのお祭りみたいだ。
「そういえばマリー様、兄に会いましたか?マクシム様の隊を離れ、今は王宮で身分の高い方の護衛をしていると聞きましたが……。」
「ううん。それがね、もう三ヶ月も通っているのに全然会えないの。一体どなたの護衛についてるのかしら……。」
防犯上、さすがに誰を守っているのかは言えないのだろうが、せっかく近くにいるのなら挨拶くらいしたいのに。
「次のお茶会は来週なの。これからは週に一度って言われたわ。ごめんねアニー。来れない日が増えて。」
「大丈夫ですよマリー様。アニーの事は気にしないで下さい。アニーは王子様方にとても感謝しているんです。だってあれほど怖がっていた同じ年頃の方とマリー様が普通にお話できたんですもの。」
「うん……本当に不思議。すごく緊張したけど……ユリシス様、全然怖くなかったわ。シャルル様もとっても可愛いの。でもアニー………オットー公爵家のあんな事件があった直後に私を呼び出すなんて、何かおかしくない?」
そう。呼ばれたのが賢いオデットじゃなく私っていうのがどうにも引っ掛かる。
「マリー様は本当にご自分への評価が厳しすぎです。だってマリー様がこんなにも美しいから王子様方も強引にキスしちゃうんでしょ?」
アニーが楽しそうにバチーンとウィンクを寄越す。
「う………やめてアニー………思い出すと心臓が口から出そう………。」
アニーの笑い声を聞きながら。私はまたアニーの細く白い脚を擦った。
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