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しおりを挟む抱き上げた身体は、洋服越しにも伝わるほど細く柔らかい。
新婚初夜、夫婦二人きりの時間に突然眠りだした新婦を抱え、サリオンは自身の寝室の前までくると、やや乱暴に扉を足で開けた。
背の高いサリオンが横になっても十分足が伸ばせるほどの大きな寝台に、花嫁となった女性を起こさぬよう、気を遣いながら横たえる。
「……おまえ、無防備にもほどがあるだろう」
ゆらゆらと揺れる燭台の炎が、安らかな寝息を立てて眠るアルウェンの顔を照らす。
額にかかる髪を指先でつまんでよけてやると、『んん……』と小さく声を漏らした。
(まいったな)
恨まれていると思っていた。
だから妃としては尊重するが、必要以上にかかわらないようにしようと思っていた。
なぜなら、寝首をかかれる危険性もあるから。
宣誓の場で『手垢のついた女に──』といったのも、彼女との間にあらかじめ線を引いておこうと考えたからで、決して本心ではない。
余計な期待がない分、その方がお互いに色々と割り切れて、楽だろうと思ったのだ。
それなのにアルウェンときたらサリオンの気も知らず、発言を訂正しろだの恨んでいないだの、予想外のことばかり言いたいだけ言って、腕の中であっさり寝てしまった。
「本当に……赤ん坊かよ」
シャトレ侯爵家の長女が優秀だというのは事前の調査で知っていたし、滅多に出ないが社交界でもその姿を見かけたことがある。
彼女の隣にはいつも元婚約者がいて、その男をはにかみながら愛おしそうに見つめる姿は印象的であった。
しかし宣誓の場で久しぶりに見たアルウェンは、あの時の彼女とはまるで違った。
不自然に痩せ細り、顔には僅かだが険があった。
いくら情勢を安定させるために必要な婚姻だったとはいえ、アルウェンの不憫な佇まいは、サリオンをなんとも言えない気持ちにさせた。
サリオンは立ち上がり、さっきまで食事を取っていた隣室へ戻ると、心配そうな顔をして控えていた侍従に、アルウェンを自身の寝室に泊めることを告げた。
「明日の朝まで誰も近づけるな」
「かしこまりました」
侍従はやや上擦った声で返事をすると、急いで夕食の片づけに取りかかる。
「ああ、それと明日の朝食も同じようにここで取るから……メニューに気を配ってくれ」
女性の好むものなんてサリオンにはわからない。
あとは料理人がなんとかしてくれるだろう。
寝室に戻ろうとすると、テーブルの上に置いてあったワイングラスが目に留まった。
アルウェンが呑んでいたグラスだ。
呑み切れなかったようで、赤い液体が僅かに残されていた。
(それにしてもよく呑んだな)
自分で気づいていたかは知らないが、酒に弱いと言う割に、美味しい美味しいと呟きながら、随分早いペースで呑んでいた。
サリオンはグラスを手に取り、口をつけた。
(甘い……)
普段好んで呑んでいるものよりも、うんと甘ったるいそのワインは、アルウェンのために用意させたもの。
「このワインも追加しておいてくれ」
そう言い残し、サリオンは再び寝室へと戻って行ったのだった。
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