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しおりを挟むその日の夕刻。
夕食の支度ができたと知らせを受けたアルウェンが通されたのは、昨夜と同じくサリオンの部屋だった。
「殿下はいつもお部屋で食事をとられるのですか?」
「安全だからな」
サリオンによると、毒を盛られる危険性を排除するため、自宮に調理場を設け、料理人も自身が経歴を確認し、信頼できる者しか出入りさせていないそうだ。
(実際に毒を盛られたことでもあるのかしら)
彼は皇族だ。ただでさえその身は常に危険にさらされている。
公にされていないだけで、これまで幾度か暗殺未遂を経験しているのかもしれない。
(……これからは私も気をつけないと)
サウラ妃陣営だけでなく、皇太子妃を出したシャトレ侯爵家をよく思わない者も存在するはず。
手っ取り早くシャトレ侯爵家から権力を奪うには、アルウェンを弑するのが一番効果的だから。
「今日も呑むか?」
サリオンの手には、昨夜呑んだものと同じワインボトルが握られていた。
「え、あの、今日はさすがに……」
「どうした。昨日は美味しい美味しいと随分呑んでいたくせに」
そのせいで初夜という人生最大と言っても過言ではない催しごとに、新郎のベッドを占領し鼾をかいて寝るという大失態をおかしたのだ。
進んで同じ轍を踏むほど自分は愚か者ではない──と信じたい。
「遠慮するな。酔ったおまえはお喋りで面白かった」
サリオンは、アルウェンの返事を待たずにワインをグラスに注いだ。
しかも昨夜より一杯の量が多めだ。
仕方なく口をつけるがやっぱり美味しい。
「昼間は悪かったな」
「殿下のせいではありません。それに、楽しいこともありましたし」
アルウェンは、侍女たちとの楽しいお茶会をサリオンに話して聞かせた。
「侍女や使用人の中に合わないものはいるか?」
「今のところはまだ。皆心根が良く、働き者ばかりです」
これに関しては本当に満足していた。
あくまで現時点では──だが。
どんなに統制のとれた集団でも、必ずと言っていいほどひとりくらいは問題のある人間が紛れ込んでいたりするものだ。
こればかりは時間をかけなければ見極めは難しい。
「女官の統率は派閥作りの第一歩でもある。だからおまえが気に入らない者がいれば、辞めさせて構わない」
「権限をくださるのですね」
「おまえは俺の妻なのだから、それくらい当たり前だろう」
妻──サリオンの口から聞くと、特別な重さを持って胸に響く。
「ここでの生活に慣れた頃、俺の側近たちも紹介しよう」
「それは嬉しいです」
「それと、明日は護衛の選定をするから午後は開けておけ」
「護衛……今控えている者たちは違うのですか?」
「あれは間に合わせとして選んだだけだ。護衛とは四六時中一緒に過ごすことになる。おまえとの相性も重要だ」
候補者の技量に関しては口を出すが、最終的な決定はアルウェンに任せるということなのだろう。
「では明日の午後お待ちしております……って、殿下!」
空いたグラスに間髪入れずワインが注がれた。
「遠慮するなと言っただろう」
「も、もう鼾を聞かれたくないのです!」
アルウェンの必死の訴えに、サリオンは一瞬瞠目し、声を上げて笑った。
「は、ははっ!あれは冗談だよ」
「は?冗談!?」
「ああ。鼾と言うよりは、でかい寝息といったところだな」
「どっちも嫌です!」
ツボに入ったのか、サリオンは腹を抱えて笑った。
しかも目尻には涙が浮かんでいる。
この男、乙女の恥じらいを笑いおって。許せぬ。
「鼾を聞かれるのが嫌だと言うことは、今夜も俺のベッドで寝てくれるのか」
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