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しおりを挟む声のする方へ視線を向けると、そこにいたのは間違いなくシンシアで、すぐ後ろには気まずそうな母の姿も見える。
(どうして……!)
これほどの裏切りがあるだろうか。
両親は、シンシアでは皇太子妃は務まらないとはっきり言った。
それはすべてにおいてシンシアが未熟だからだ。
そんな妹をこの場に連れてくれば、アルウェンの立場すら危うくなる事態を引き起こしかねない。
生家から追い出した上に、せっかく手に入れた新しい居場所すら、土足で踏み荒らすような真似をするのはなぜなのか。
頭の中が、激しい怒りで真っ白になった。
しかし、シンシアが到着する寸前で、部屋の隅に控えていたドドが、その大きな身体で彼女の前を塞いだ。
「ちょっと、なんなのよあなた!」
「私は、アルウェン妃殿下の護衛を務めさせていただいております」
「あらそう。知らないなら教えてあげる。私はそのアルウェンの妹よ。さあ、早くどいてちょうだい」
不測の事態にざわめく招待客。
しかし、ドドがシンシアに道を譲ることはなかった。
「貴女が誰であるかは重要ではありません。私の役目は、招待客以外を決して妃殿下に近づけないことです」
ドドの心強い言葉で落ち着きを取り戻したアルウェンは、シンシアの後ろにいた母に向かって声を張り上げた。
「シャトレ侯爵夫人。これはいったいどういうことなのか説明してください」
皇家に嫁いだ以上、例え生みの母とはいえど、もはや他人。
現在の状況も鑑みて、あえて突き放すように家名で呼んだ。
招待客の目が、一斉にシャトレ侯爵夫人に向けられた。
「も、申し訳ございません。どうしても姉──いえ、妃殿下に会いたいと言って聞かず」
シャトレ侯爵夫人が言うには、元々ひとりで参加する予定でいたのに、出発直前になってシンシアが『お姉さまに会いたい』と駄々をこねたのだとか。
茶会への出席ができない理由をきつく言い聞かせると、せめて茶会が終わったあとひと目でも会いたいと言う。
会えるかどうかは分からないが、一応聞いてみるので、その間シンシアは待機するという話で落ちついた。
それなのにシンシアはいざとなったらわがままを言い出し、無理やりここまでついてきてしまったのだと。
(どうしようもないわね……)
シンシアだけではない、母も大概だ。
もしもアルウェンが同じように駄々をこねたなら、母は頬を張ってでも止めただろうに。
「お姉さま、私よ!久し振りに会えて嬉しいでしょう?ねえ、早くこの人をどかしてちょうだい」
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