【本編完結】アルウェンの結婚

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 (私はできることならもう二度と、顔も見たくなかったわ)
 自分の都合の良いようにばかり物事を捉え続けるシンシアに、怒りが込み上げてどうにかなりそうだった。
 アルウェンはもう一度心を落ち着かせるため、鼻から大きく息を吸った。

 「……ドド、その無礼者を外に出してちょうだい」

 「お姉さま!?」

 「妃殿下と呼びなさい」

 「どうしてよ!私たちたった二人きりの姉妹じゃない。私、ずっと心配してたのよ?」

 「心配……ですって?」

 今のひと言でアルウェンの気を引けたと感じたのか、シンシアはここぞとばかりにまくし立てた。

 「そうよ。だってお姉さまは私の身代わりになって、恐ろしい噂のある皇太子殿下に嫁いでくれたのよ。そんな姉が皇宮でどんな暮らしをしているか、心配して当然でしょう?」

 なるほど。
 要は自分のために犠牲になったアルウェンが、皇宮でどれほど惨めな生活を送っているのか確認し、悦に入るつもりだったのだ。
 いかにもシンシアらしくて、呆れるを通り越して笑えてくる。

 「で?」

 「『で?』って?」

 「あなたの目から見て、私はどんな暮らしをしているように見える?」

 シンシアは、アルウェンが身につけていたあるものに気づき、大きく目を見開いた。

 「素晴らしいお品でしょう?これはサリオン殿下が私のために用意してくださったのよ」

 ダイヤモンドのネックレスにそっと手をあてると、御婦人方が扇の裏で『まあ……』と小さく声を上げた。
 
 「それだけではないわ。このドレスも、皇太子妃としての品位を保つために必要だといって仕立ててくださったの」

 『素晴らしいドレスですわ』と御婦人方が褒めそやす声に、シンシアは悔しそうにわなわなと唇を震わせた。
 
 「私、殿下の元に嫁げて本当に幸運だったわ」

 本心から出た言葉だったが、どうやらシンシアにはそうは聞こえなかったようだ。

 「私もとっても幸せよ!ユラン様ったら本当に私に優しいんだもの。昨日なんて、お姉さまが破いてしまったヴェールの代わりを一緒に探しに行ってくれたのよ」

 その他にもシンシアは、チラチラとこちらの様子を見ながら、ユランがいかに自分のことを大切にしてくれるかをアルウェンに語って聞かせた。
 魂胆はわかっている。
 嫉妬に歪むアルウェンの顔が見たいのだろう。
 けれど、嫌味をたっぷり含んだユランの話を聞いても、アルウェンの心は不思議なほど穏やかなまま。
 まるで一切の興味を失ってしまったかのような、完全なる他人事だった。
 そんなアルウェンの心情には、周囲もとっくに気づいていて。
 (さあ、これ以上生家の醜態を晒すわけにはいかないわ)
 最後通牒を突きつけるため、ドドに合図を送ろうとしたアルウェンの耳が、宮殿内のざわめきを拾った。
 視線を向けた先に見えたのは、驚愕の表情を浮かべる母親。

 「ずいぶん騒がしいな。最近の茶会とはこういう感じなのか?」

 「殿下!」
 






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