あなたを染める、私の毒

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15 お茶会③

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 「最初にお呼びするお客様をソアレス夫人にしたのは、イグニス様のご親族だという理由からです」

 「それは当然の選択ですわね」

 「ですが、お二人をこの屋敷にお呼びする事は今後二度とないでしょう」

 サリナは目を剥いた。

 「あなた、いったい何を言ってるの!?私は姉が生前中からイグニスについてよろしくと直々に頼まれているのよ!?事情も知らないくせに、勝手なこと言わないでちょうだい!」

 彼女たちの言う『何でも知ってる』や『事情』というのはつまりイグニスの過去を指すのだろう。
 それはもしかしたらイグニスが感情を失った事に関係あるのかもしれない。
 けれど、それが何だと言うのだ。
 ルナリアは彼らが知っている事など知りたくないし、なんなら何の役にも立たないと思っている。
 イグニスが感情を失くした理由は、周りからではなく彼から直接聞かなければ意味がない。
 ルナリアだけに話してくれる彼の真実しか信じる価値なんてないのだ。
 
 「ですが、イグニス様はその事について一切言及されていません。もちろんお茶会についても『必ずソアレス夫人を呼ぶように』とは言われておりません」

 「そんなの嘘よ!」

 「本当です。私の好きにしていいと仰いました、ベッドの上で」

 余計なひと言をわざと付け足してにっこり微笑むと、サリナは絶句し、マリーは顔を真っ赤にして怒り出した。
 淑女にあるまじき嫌味ではあったが、二人にはこれくらいの下品さがちょうどよく効いてくれるだろう。

 「あなたみたいな人がイグニスの結婚相手だなんて信じられない!イグニスが可哀想よ!」

 「なりふり構わず喚き散らす従妹がいる方が可哀想ですけどね」

 ルナリアは涼しい顔で紅茶を口に含んだ。
 マリーは鬼のような形相でまだぎゃんぎゃんと喚いている。
 本当に、世間知らずというか行儀知らずというか、ここまでくるとさすがに呆れるしかない。
 まさかとは思うが、本気で自分が未来のフォルクレール公爵夫人だと信じて疑わずに育ったのだろうか。
 王家を除けば社交界の頂点に君臨するフォルクレール公爵家。
 その権威ある家門に相応しい振る舞いがこれだとでも?
 そんな考えを抱いているのだとしたら、あまりにも幼稚すぎて、笑いたくても笑えないレベルだ。
 高慢と威厳を履き違えている。
 
 そういえば以前イグニスの親族についてポールに尋ねた時、彼は微妙な反応を返してきたが、きっとこのふたりがその態度の原因だったのだろう。

 「もうお開きにいたしましょうか。良いお付き合いができるかと思っていたのですが、残念ですわ」

 言外に『もう二度とくるな』と伝えたのだが、それが二人の怒りに再び火をつけたようだった。

 「そっちから呼びつけておいて、帰れとはどういう事なの!?」

 「会いたいと最初におっしゃったのはそちらですが」

 「イグニスに会うまで帰らないわよ!」

 「いらっしゃらないと思いますよ。ソアレス夫人を本日お呼びした事は伝えてありますが、今この場にいないのがイグニス様の答えでは?」

 悔しそうに歯噛みする二人をどう帰そうか思案していると、扉の外からメイドの慌てたような声が聞こえた。
 そしてノックとともに開かれた扉から入ってきたのはイグニスだった。

 「イグニス様──」
 「イグニス!!」
 
 悲鳴に近いマリーの叫び声が、ルナリアの声を掻き消した。



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