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16 お茶会④
しおりを挟む「わたしを心配して来てくれたのね!」
マリーは椅子を転がすように倒してイグニスに駆け寄ると、彼の腕に両腕を絡ませた。
「聞いてイグニス!あの人酷いのよ!もう二度と来るなって。わたしはただ、イグニスを心配しただけなのに」
「イグニス、マリーの言う通りよ。わたしの姉の忘れ形見であるあなたを、わたしたちがどれほど大切に思い心配しているか伝えただけなの。それなのにルナリア様は元王女に対して無礼だとお怒りになって……!」
イグニスはルナリアの方を向き、口を開いた。
「彼女たちの言っている事に間違いはありませんか?」
──さて、どうしようか
だいぶ自分たちの都合の良いように切り貼りしているが、発言自体は合っている。
言い訳をするより、あえて認める事で彼の反応を確かめて見るのも良いかもしれない。
(もしかしたら、彼らの本当の関係性がわかるかも)
「はい。おっしゃる通り、そう申し上げました」
「そうですか……」
イグニスは顎に手をあて思案顔だ。
「ね、聞いたでしょ!?こんな人と無理矢理結婚させられて……イグニスが可哀想」
「彼女との結婚は無理矢理ではない」
「は?」
「陛下はわたしに選択権を委ねた。それを自分の意志で受けたのだから、無理矢理という言葉は適当ではない」
「でっ、でも、相手がこんな人だとは知らなかったわけでしょう?」
「“こんな人”とはどんな人間を指すのだ」
「この人よ!傲慢で、権力を笠に着る人間!」
「彼女は常日頃立場に見合った言動しかしていない。だから【権力を笠に着る】という言葉は適当ではない」
「ちょっとイグニス、あなたったらわたしとこの人どっちの味方なの!?」
「彼女はわたしの伴侶だ。なので何よりも彼女を優先するのが当然だ」
絶句する母娘。
イグニスはマリーの腕を振り払い、ルナリアの側までやってきた。
「わたしの親族が何か失礼をしたようですね」
「いえ、それほどでもありません」
嘘だ。イグニスがルナリアの肩を持つ気でいてくれるようなので、あまり目くじらを立てるのもどうかと思ったのだ。
「ですが……この屋敷から出て行けと言われたのは少しショックでしたわ」
「誰がそんな事を」
「サリナ様とマリー嬢です。わたしの身体ではイグニス様の子どもが産めないだろうから、マリー嬢が代わりに産むと……」
芝居じみた仕草で悲しむフリをして見せると、イグニスの表情が一変した。
「マリーがわたしの子を産む?それはいったいどういう事だ」
冷たい視線を向けられた母娘の肩が竦む。
「イ、イグニスのためを思って言ったのよ!だってルナリア様の身体じゃ子どもを産むなんて無理でしょう?」
「……そうなのですか?」
イグニスはルナリアを見た。
「いいえ。結婚前に王宮侍医からの診察を受けておりますが、そういった事は一切言われておりません」
マリーは悔しそうに唇を噛み、ルナリアを睨めつけた。
「イグニス様、マリー嬢とはどういうご関係なのですか?」
「ただの従妹です」
「ですがサリナ様もマリー嬢も、ただの従妹とは思ってらっしゃらないようですわ」
イグニスの事だけではない。
二人はまるで、この公爵家は自分たちのものであるかのような振る舞いだ。
なぜこのような無礼がまかり通るのか。
「わたしたちはずっと、イグニスの苦しみに寄り添ってきたのよ!」
突然マリーが声を上げた。
きつく握られた拳は震えている。
「イグニス様の苦しみ?」
「そうよ!イグニがこんな風になったのはすべておじ様のせいなの!だからわたしたちは──」
「マリー」
イグニスの口から、今まで一度も聞いたことのない低い声が発せられた。
その奥に潜む怒気に、ルナリアもハッとして彼を見る。
「その口を閉じろ。そしてもう二度とここへは来るな」
イグニスはルナリアの手を取ると、出口へ向かって大股で歩き始めた。
「そんな、どうして……待って、待ってよイグニス!」
後ろから聞こえてくる悲痛な叫び声に、イグニスが振り返る事はなかった。
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