あなたを染める、私の毒

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
16 / 20

16 お茶会④

しおりを挟む




 「わたしを心配して来てくれたのね!」

 マリーは椅子を転がすように倒してイグニスに駆け寄ると、彼の腕に両腕を絡ませた。

 「聞いてイグニス!あの人酷いのよ!もう二度と来るなって。わたしはただ、イグニスを心配しただけなのに」

 「イグニス、マリーの言う通りよ。わたしの姉の忘れ形見であるあなたを、わたしたちがどれほど大切に思い心配しているか伝えただけなの。それなのにルナリア様は元王女に対して無礼だとお怒りになって……!」

 イグニスはルナリアの方を向き、口を開いた。

 「彼女たちの言っている事に間違いはありませんか?」

 ──さて、どうしようか
 だいぶ自分たちの都合の良いように切り貼りしているが、発言自体は合っている。
 言い訳をするより、あえて認める事で彼の反応を確かめて見るのも良いかもしれない。
 (もしかしたら、彼らの本当の関係性がわかるかも)

 「はい。おっしゃる通り、そう申し上げました」

 「そうですか……」

 イグニスは顎に手をあて思案顔だ。

 「ね、聞いたでしょ!?こんな人と無理矢理結婚させられて……イグニスが可哀想」

 「彼女との結婚は無理矢理ではない」

 「は?」

 「陛下はわたしに選択権を委ねた。それを自分の意志で受けたのだから、無理矢理という言葉は適当ではない」

 「でっ、でも、相手がこんな人だとは知らなかったわけでしょう?」

 「“こんな人”とはどんな人間を指すのだ」

 「この人よ!傲慢で、権力を笠に着る人間!」

 「彼女は常日頃立場に見合った言動しかしていない。だから【権力を笠に着る】という言葉は適当ではない」

 「ちょっとイグニス、あなたったらわたしとこの人どっちの味方なの!?」

 「彼女はわたしの伴侶だ。なので何よりも彼女を優先するのが当然だ」

 絶句する母娘。
 イグニスはマリーの腕を振り払い、ルナリアの側までやってきた。

 「わたしの親族が何か失礼をしたようですね」

 「いえ、それほどでもありません」

 嘘だ。イグニスがルナリアの肩を持つ気でいてくれるようなので、あまり目くじらを立てるのもどうかと思ったのだ。

 「ですが……この屋敷から出て行けと言われたのは少しショックでしたわ」

 「誰がそんな事を」

 「サリナ様とマリー嬢です。わたしの身体ではイグニス様の子どもが産めないだろうから、マリー嬢が代わりに産むと……」

 芝居じみた仕草で悲しむフリをして見せると、イグニスの表情が一変した。

 「マリーがわたしの子を産む?それはいったいどういう事だ」

 冷たい視線を向けられた母娘の肩が竦む。
 
 「イ、イグニスのためを思って言ったのよ!だってルナリア様の身体じゃ子どもを産むなんて無理でしょう?」

 「……そうなのですか?」

 イグニスはルナリアを見た。

 「いいえ。結婚前に王宮侍医からの診察を受けておりますが、そういった事は一切言われておりません」

 マリーは悔しそうに唇を噛み、ルナリアを睨めつけた。

 「イグニス様、マリー嬢とはどういうご関係なのですか?」

 「ただの従妹です」

 「ですがサリナ様もマリー嬢も、ただの従妹とは思ってらっしゃらないようですわ」

 イグニスの事だけではない。
 二人はまるで、この公爵家は自分たちのものであるかのような振る舞いだ。
 なぜこのような無礼がまかり通るのか。
 
 「わたしたちはずっと、イグニスの苦しみに寄り添ってきたのよ!」

 突然マリーが声を上げた。
 きつく握られた拳は震えている。

 「イグニス様の苦しみ?」

 「そうよ!イグニがこんな風になったのはすべておじ様のせいなの!だからわたしたちは──」

 「マリー」

 イグニスの口から、今まで一度も聞いたことのない低い声が発せられた。
 その奥に潜む怒気に、ルナリアもハッとして彼を見る。

 「その口を閉じろ。そしてもう二度とここへは来るな」

 イグニスはルナリアの手を取ると、出口へ向かって大股で歩き始めた。

 「そんな、どうして……待って、待ってよイグニス!」

 後ろから聞こえてくる悲痛な叫び声に、イグニスが振り返る事はなかった。




 
 



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

確かに愛はあったはずなのに

篠月珪霞
恋愛
確かに愛はあったはずなのに。 それが本当にあったのかすら、もう思い出せない──。

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

処理中です...