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6 婚約は嫌?
しおりを挟む数日後、わたしは秘密裏にカルロをラクリモサ公爵邸に潜入させた。
わたしは彼らと共にノクティス様に面会を申し出た。
「勝手な事をして申し訳ありません。彼は長年父の元で経理関係を担当していたやり手です。ラクリモサ領を再び盛り上げるために、必ず力になると思ったのです」
熱弁を振るうわたしに向けられたのは、思いっきり懐疑的な視線。
きっと、ラクリモサ公爵家の内部にスパイを送り込まれたとでも思っているのだろう。
「カルロは既に引退して長いのですが、今回わたしの一存で復帰してもらう事にしました。もちろん父にもこの事は一切話しておりません」
意外だったのか、ノクティス様は少しだけ目を見開いた。
──きっと、わたしが父の言いなりだとでも思っていたのね
「ラクリモサ領の再興は、民だけでなく、ノクティス様の幸せにも繋がります」
「僕の幸せ……?」
「はい。ノクティス様が望まぬ婚約をする必要──ラクリモサ公爵家存続のために犠牲になる必要はなくなるのです」
ノクティス様のエメラルドの瞳はじっとわたしに向けられている。
「もちろん今すぐにとは参りませんが、わたしが必ずノクティス様を自由にして差し上げますから」
「……どうして?」
「え?」
「どうしてそこまでしてくれるの?僕との婚約がそんなに嫌だから?」
わたしとの婚約が嫌なのはノクティス様の方だろうに。
──でも、わたしは……?
そこでわたしは改めて婚約者の顔をまじまじと見た。
スチルでは現実味のない二次元の顔だったが、実際に息をして動いている姿を見ると、神か妖精かと見紛うほどの美しさだ。
ゲームの中のエリーゼが、一目で夢中になったのもよくわかる。
「わたし……ノクティス様を嫌だなんて思った事は一度もありませんわ」
「それならなぜ君は、必死になって僕と婚約解消しようとしているの?」
「だって、わたしなんてノクティス様に相応しくないもの」
ただでさえエリーゼは父親がド悪党な時点で既に詰んでいるというのに、おまけに中身は凹凸少なめ純日本人顔でヲタク気質な成人女性ときた。
だがしかし、わたしが生前ノクティスというキャラを推していた事は、彼にとって僥倖だったと言えるだろう。
「大切な方を幸せにしたいと思うのは当然だと思いませんか?」
「君の大切な人が……僕なの?」
「ええ!」
推しは生きる力の供給源。
何よりも大切な存在だ。
「だからわたし、婚約を解消したあとも、一生ノクティス様を応援する所存ですわ!」
彼は何かを堪えるようにぎゅっと唇を噛み、それ以上何も言わなかった。
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