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20 手詰まり
しおりを挟む鉄の処女、苦悩の梨、針の椅子に縛り台。
そしてランタンの炎に照らされた壁に見えるのは締め具ゾーン。
指締め具、足締め具に舌締め具。
その隣には下劣な仮面のオンパレード。
世の中のありとあらゆる地獄が集められたようなこの部屋は、どうやら父の所有する建物の一室らしい。
何でそんな事がわかるのかって?
だってわたしを捕獲した男たちが言ってたもの。
『おおおお嬢さん、すみません!!』って。
誰にも見つからぬようベットーニの屋敷を脱出したわたしは、あらかじめ決めておいたルートを順調に進んでいた──はずだった。
しかし突然現れた黒ずくめの男たちに巨大な麻袋に詰め込まれ、抱え上げられたと思ったらあっという間にこの場所へ連れ込まれた。
──大失敗だわ……
あの父の事だ。
アシュリー王女とノクティス様の噂を聞いた時点で、わたしが取るであろう行動を予測し、配下に見張らせていたに違いない。
それなら屋敷を出ようとした時点で捕まえればいいのに、なんでよりにもよって『これで王都を抜けられる……!』と一安心した時に捕まえるのか。
──まさか、こんな時でもあの厭味ったらしい性格が発揮されているとかじゃないでしょうね
いくら父でも……とは思ったが、あり得る話だ。
『成功した!』『やったぞしめしめ!』とほくそ笑んでいる時を狙って捕まえて、通常よりも与えるダメージを大きくしようとか、いかにもあの人がやりそうな事だ。
この先どうなるのだろう。
父がわたしを逃さなかったという事は、使い道があるからで。
その使い道とはやはり、ノクティス様との結婚なのだろうか。
「もう、どうしようもないのかな……」
カードはすべて使い切ってしまい、手詰まりだ。
わたしのことはもういい。
でも、ノクティス様だけは──
不意に熱いものが眦に向かってこみ上げ、こぼれ落ちた涙がスカートに染みを作る。
この五年間、ただひたすらに彼を幸せにする事だけを考えて生きてきた。
前世への未練や、待ち構える苦難への恐れや苦悩、社交界では嫌な思いもたくさんしたけれど──
ノクティス様と過ごす日々は穏やかで、なんだかんだわたしはずっと幸せだった。
いつの間にか、ここがゲームの世界だなんて思えなくなっていた。
「馬鹿だわ、わたし……」
こんな時になって初めて自分の気持ちを自覚するなんて。
「わたし、ノクティス様を幸せにしたいんじゃない……ノクティス様と幸せになりたかったのよ……!」
だから、アシュリー王女に微笑む姿を見るのがつらかった。
けれどわたしの存在が彼を不幸にする事も嫌というほど理解していた。
だから決心したのに──それなのに
「どうして逃がしてくれないのよ!お父さまの馬鹿野郎──────っっつ!!」
冷たい床にぐずぐずと突っ伏して泣いていると、錠前に鍵をさす音がした。
もしかして食事の時間だろうか。
顔を上げれば視線の先には拷問器具。
そこでわたしは閃いた。
──やってしまおうか
わたしは素早く立ち上がり、隅に立て掛けてあった肉叩きの如きハンマーに手をかけた。
──好きな人が違う女性と幸せになるのも、好きな人から殺されるのもどっちも御免だわ
それならここで勝負に出て、奇跡が起こる可能性に賭けるしかない。
手下の皆さんには申し訳ないが、できるだけ急所は避ける所存だ。
ガチャリ、錠前の外れる音がして、わたしはハンマーを振り上げた。
「エリーゼ──」
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