王女は魔道師団長の愛に溺れる

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 皆が部屋を出て行く中、リーリアは湿布薬作りに使用した道具の片付けをするため、ひとり残った。

 ──それにしても、今日のユーイン様は何だか変だったわ

 これまでも似たようなことは何度かあった。
 それはいつも、リーリアが知らず危険を冒そうとした時だ。
 けれどあの男性の尻と湿布薬にどんな危険が?
 
 ──わからないわ……

 「殿下」

 「は、はいっ!」

 突然背後から声をかけられ、上の空だったリーリアは、危うく乳鉢を落として割るところだった。
 慌てて振り向くと、すぐ後ろにはユーインが立っていた。

 「ユーイン様……あの、どうされたのですか?」

 なにか忘れ物でもしたのだろうか。
 首を傾げるリーリアに、ユーインはまた難しそうな顔をした。

 「ユーイン様?」

 「……先ほどのことですが」

 「先ほど?」

 思い浮かぶことといえば湿布薬のことしかない。

 「あの……私、なにか失敗してしまったのでしょうか」

 洗い物の手を止め、ユーインに向き合う。
 いくら生徒とはいえ、王女には言いづらい事もあるだろう。
 
 「どうか遠慮せずにおっしゃってください」

 だが、腹を括ったリーリアに返ってきたのは意外な言葉だった。

 「……男の臀部など、触れる必要はありません」

 「は……?」 

 「殿下は女性です。湿布薬を作るようお願いしたのは私ですが……あのような場合、貼るのは他の者にやらせてください」

 リーリアにはユーインが何を言いたいのかさっぱり分からなかった。
 あれは“男性”ではなく“患者”だ。
 患者に身分や性別など関係ない。そう教えているのは他でもないユーインではないか。

 「ですがユーイン様、今日は講義でしたが、非常時にはそんなこと言ってはいられません」

 「それでもいけません。男の身体に直に触れるなど……殿下にはそのようなことはさせられない」

 「それは……私が王女だからですか?」

 もしそうだと言われたら悲しい。
 ユーインには特別に想われたいが、そんな理由では嫌だ。

 「そういうことではありません!」

 表情が曇るリーリアに、ユーインは慌てたように否定した。

 「大きな声を出してすみません……ですが、どうかこのことは聞き入れてください」

 ユーインはそう言い残し、足早に部屋を出て行った。
 再びひとりきりの部屋で、リーリアはユーインの言葉を反芻する。

 【男の身体に直に触れるなど……殿下にはそのようなことはさせられない】

 まるで、リーリアが男性に触れることを嫌がっているようではないか……いやまさか。
 変な期待などしないほうがいい。
 いつか……そう遠くない未来、自分はここを去るのだから。





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