王女は魔道師団長の愛に溺れる

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 クレイグは……素直に口にはしないし、ユーインたちと考え方は違えども、真っ先に犠牲になる民を守りたいとは思っているのだ。
 けれどその方法はやはり力ずくで……だからイゾルデもユーインもクレイグを窘めている。
 誰だって争い合う事などしたくはない。
 けれど気持ちだけでは、綺麗事だけではどうにもならないことがある。
 クレイグのこれまでの人生を思うと、自分のやりたい事だけに目を向け、いつも誰かに守られてきたリーリアには、何も言う資格がないように感じられてならなかった。 

 「……余計な事を喋りすぎました。そろそろ戻りましょうか」
 
 クレイグは火の鳥を旋回させ、王都へ戻る方角を指差した。
 
 「戻れば何か言われるでしょうが、私に無理矢理連れ出されたとでも言えば大丈夫でしょう」

 「……それではクレイグ様が叱られてしまいます」

 「構いません。いつもの事ですし……今日はどの道キルシュ団長から説教でしょうから」

 リーリアは、クレイグを呼び止めるイゾルデを思い出す。
 そしてユーインとふたり、親しげに話す姿も。

 「……イゾルデ様とユーイン様は、とても仲がよろしいのですね。私、全然存じ上げなくて……」

 なんでこんなことをクレイグに話しているのか、リーリア自身よく分からなかった。
 
 ──どうせ答えは返ってこないわ

 そう思っていたのだが、違った。

 「私には何とも。ふたりがどんな仲なのか、なんて興味ありませんのでね」

 「……そうですよね」

 「ですが、ふたりとも入団して長い。男と女が長い時間を共にしていれば、何かあったとしてもおかしくはないでしょう」

 「…………そうですよね」

 クレイグの返答に何かしらの期待を寄せていた訳では無いが、相変わらず気遣いもへったくれもない返答にこれ以上ないほど気分は落ち込む。

 「……ユーイン団長のどこがそんなに良いのです?」

 「えっ!?」

 「何を今更。この世の終わりみたいな顔をして歩いていたのもそのせいでしょう」

 「ど、どこがって……それは……」

 “どこが”なんて考えた事もない。
 初めて会った日から今日まで、ユーインの事を想わない日はなかった。毎日ひと目でもいい、その姿を目に映したかった。そしてユーインの見ている世界を知りたくて、必死で学んで追いかけた。そして追いかけた先で、また気持ちは大きくなった。
 
 「私にしておけばいいと思いませんか?若くて才能溢れるこの私に」

 「……クレイグ様は私を好きな訳じゃないでしょう?」

 それくらい恋人のいないリーリアにだって分かる。
 クレイグの瞳には何の熱も感じられない。

 「まあ……それはそうですが、私を選んでくださるのなら生涯大切にいたしますよ」

 「なぜ私なのです?私が王女だから?」

 「その通りです」

 これにはリーリアも度肝を抜かれた。
 本当に自分との結婚を狙っているのなら、それは絶対に言ってはならない一言だろうに。

 「余計なことを喋りすぎてしまいましたし、殿下も薄々気付いてらっしゃるようですから。これ以上取り繕っても無駄でしょう?」

 「は、はぁ……」

 「私たちは力が無ければ発言すら許されない。間違っていると分かっていても、上から命令されれば従わなければならない。そんな理不尽を常日頃強いられているのです」

 「現状を打開するために、王族との婚姻を望んでいるのですか?」

 「ええ。もしくは力を持つ高位貴族といったところでしょうか。……もしよろしければ姉姫様のどなたかご紹介いただけませんか?」

 クレイグは悪びれもせず言う。
 あまりにあっけらかんとした態度に、いったいこれまで感じていた彼へのストレスは何だったのかと馬鹿らしくなってしまった。

 「ふふふ、駄目ですよ。こんな人にお姉さまたちは紹介できません」

 「まぁそう言わず、考えてみてください。駄目ならやはりリーリア殿下にお願いするしかありません」

 「それはもっと駄目です」

 きっとクレイグならこの強かさで良い縁を手に入れる事だろう。
 横槍は入りそうだが。

 「王都が見えたわ……!あの、もし私のことで叱られそうになったら、クレイグ様も遠慮なく私のせいにして構いませんからね」
 
 「それは有り難いことですが、叱られるのはもっと別のことなので」

 「別のこと?」

 「性格改善についてでしょう。まぁ、ここまできたらもう無理ですよ」

 「ふっ……ふふっ……あははっ」

 いつもの口調で淡々と自身の性格の歪みを認めるクレイグに、笑いが込み上げた。

 「……クレイグ様……今日はありがとうございました。お陰で少し元気が出ました」

 「そうですか。では今度はぜひ私の講義にも参加していただきたいものです。王女殿下が出席されたとあれば、私の評判も上がりますので」

 それも悪くないかもしれない。
 リーリアは思った。
 
 
 
 
 

 
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