王女は魔道師団長の愛に溺れる

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 「……研究所を設立しようと思っています」

 黙ったままだったユーインの口から唐突に紡ぎ出された言葉に、リーリアは反応するのが少し遅れた。

 「研究所……今、研究所とおっしゃいましたか?いったい何の……」

 「薬です。現在アカデミー内で行われている薬草学などを完全に講義のプログラムから切り離します。そして外部に薬師を育てつつ、新薬の研究も行える機関を設立する原案をまとめ、先日陛下に奏上しました」

 「薬学をアカデミーから切り離す……」

 白魔道師の講義では主に病や怪我を治療するための薬を学び、黒魔道師の講義では毒に関する薬を学ぶ。
 自分たちの持つ力の属性に近い作用の薬を学ぶことで、理解を深めているのだ。
 講義の内容から切り離したところで大きな問題はないのだろうが、なぜ今なのだろう。

 「……近年、魔力持ちの出生率が低下しています。そしてその質も。もしかしたらそう遠くない未来、我ら魔道師は歴史の舞台から姿を消すかもしれません」

 「まさかそんな……」

 魔力の恩恵を受け発展を遂げてきた国から魔道師がいなくなる。
 想像はつかないけれど、まったく有り得ない話ではない。
 
 「これまで魔法の力に頼っていた分野を、魔力を持たない者たちが自らの手で行えるよう発展させる必要がある。だからといって魔道師たちから学びの機会を奪うつもりはありません。希望があれば、場所は変わりますがこれまでと同じ内容を学べるようにするつもりです」

 「それは素晴らしいことですね……魔道師の方々が魔力のない一般人と共に学ぶことで、これまで両者の間に存在していた目に見えない垣根のようなものも取り払われるでしょう」

 「その通りです。そしてそれを行える人材は既に育っている……リーリア殿下、あなたを見てそう思ったのです」

 「私……ですか?」

 ユーインはその藍色の瞳でリーリアを見据え、深く頷いた。
 
 「殿下は魔力をお持ちでないのにも関わらず、我ら魔道師と共にあり、その中で常に自分にできる道を模索し、努力を続けて来られた。今や薬草学においては殿下の右に出る者などそうはいません」

 「そんな……確かに努力はしましたが、褒めすぎです……」

 「これは決してお世辞などではありません。そしてアカデミーが殿下に出した評価でもある。だからこそ、殿下にお願いしたいことがあるのです」

 「お願い……?」

 「研究所の講師に就任していただきたいのです。もちろん指導だけでなく、引き受けてくださるのなら新薬の研究も」

 「わ、私が研究所の講師……ですか!?」

 ユーインの真剣な表情を見る限り、冗談でないことはわかる。
 けれど、自分が講師になるなんて想像したこともなかった。
 そんな道はこれまで存在しなかったからだ。

 「驚かれるのも無理はないと思います。ですが、この案には黒魔道師を率いるキルシュ団長も賛同してくれました」

 「イゾルデ様が……あ、まさかこの前廊下でお二人が話していたのは……」

 「ええ、この案を纏めるために色々協力を頼んだのです。キルシュ団長……普段はお互い名前で呼び合っておりますが、イゾルデも、補佐を務めてくれているクラウスも、私たちは入団当時から苦楽を共にしてきた仲で……ふたりとも快く引き受けてくれました」

 ──そうだったんだ……このためにふたりは……それなのに私ったら……

 
 
 
 




 

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