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しおりを挟む想いが通じ合えたその日、自宮に帰ったリーリアを待っていたのは、これまでずっと彼女の恋を応援していたパティとアーロンからの祝福だった。
ふわふわと、まるで夢の中にいるかのような心地は眠りにつくまでも、そして目を覚ました後も続いていた。
***
「行ってらっしゃいませ!」
「うん。ありがとう、パティ。行ってきます」
心なしかいつもより念入りに朝の支度をしてくれたパティ。
そしてアーロンの視線も生暖かい。
何だか気恥ずかしくて、アカデミーに着くまでの間、リーリアは伏し目がちに歩いた。
アカデミーの入口でアーロンと別れ、廊下を歩くリーリアの目に、見慣れない人々の姿が映った。
──あれは……
リーリアもよく知っている。社交界でよく見かける面々だ。
──でも、貴族の皆様がなぜここに?
「利権争いが始まったようですね」
「ぅわっっ!!ク、クレイグ様……もぅ、驚かせないでください」
背後から突然声をかけられて、リーリアの身体はビクンと跳ねた。
振り向くと、クレイグは何やら思案顔で先を歩く貴族たちを見ている。
「あの、クレイグ様?利権争いって……」
「ユーイン殿が陛下に研究所の原案を奏上した話は殿下も聞きましたね?」
「はい」
「王宮では現在研究所の是非が検討されているところでしょうが、それを耳にした貴族たちは早速、研究所が後に生み出す利益に目を付けたのでしょう」
クレイグ曰く、研究所で開発された薬はいずれ広く一般に行き渡るようになる。
貴族たちは研究所へ支援を申し出る代わりにその販売権が欲しいのだろうと。
「研究所の運営には莫大な費用がかかります。綺麗事を言っていては成り立たない。……国の未来を見据えた事業ですから、創設費用までは国が国庫から負担してくれるでしょうが、その後は……まあ、こちらとしても太いパトロンがいるに越したことはありませんね」
「難しいですね……苦しむ人を救うための事業なのに、それが誰かの私欲に……お金儲けに繋がってしまうなんて……」
「難しいのはそれだけではありませんよ。ほら」
クレイグは、ある人物を指差した。
サラサラと風に揺れる美しい金の髪を後ろで束ねた背の高い青年。
「あれは確か……クラウスナー侯爵子息……あの方がどうかなさったのですか?」
クレイグは青年を見据えたまま、ひとり言を呟くように、ぽつりと言った。
「……そのうち、嫌でも知る事になりますよ……」
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