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「イゾルデ様、ロンド地区は今どうなっているのですか?」
「まだ仲間たちが応戦中です。殿下を安全な場所に移したら、私も再び加わります」
「それでしたら、私なら大丈夫ですので、早く王都にお戻りになってください」
「えっ?」
断られるとは思っていなかったのだろう。
しかしリーリアは構わず続けた。
「安全な場所とはどこですか?そんな場所があるのなら、まずは父上たちをお連れするべきでしょう」
命に重いも軽いもないが、現状最優先されるべきは国王の命だ。父王が倒れればこの国も傾く。
「……それは、どうかあいつの気持ちに免じて、聞き分けてくれませんか……ユーインは昔から、素直に自分の想いを伝えることのできない不器用な奴なんです……」
「いいえ、ユーイン様はそんな方ではありません。例えどんなに私を愛していても、大事な物事から目を背けるような事は決してしない。私はここで、ユーイン様が迎えに来てくれるのを待ちます!」
毅然としたリーリアの態度に、室内にいた者たちの目も醒めたようだ。
さっきとは一転、皆一様に訝しげな顔をしてイゾルデの反応を窺っている。
しかし、扉の向こう側から返事はない。
「みんな、戻りましょう」
リーリアが再び奥の部屋へ戻ろうとした時だった。
突如、目の前の扉が奇っ怪な音を立ててひしゃげた。
「きゃぁぁあっ!!」
空間が歪んだのかと錯覚する。
侍女たちが腰を抜かし、次々と床に座り込む中、アーロンは即座に抜刀し、リーリアの前へ出た。
「アーロン、お願いだから決して無理をしては駄目よ」
アーロンとて王女の護衛に選ばれるほどの実力の持ち主だが、相手は黒魔導師。しかも長年師団長を務めてきた実力の持ち主だ。
「私を差し出して済むことなら、すぐにそうして」
しかしアーロンは決して首を縦に振らなかった。
次の瞬間、ひしゃげた扉は粉々に砕け散り、向こう側にいたイゾルデが姿を現した。
「……なかなか言う事を聞いていただけないので、少々手荒な真似をしてしまいました。さあ殿下、一緒に来ていただけますね?」
イゾルデの口元は弧を描いているものの、ねっとりとした嫌なものを感じてならない。
「イゾルデ殿、下がられよ。仲間同士で争うことは本意ではない」
アーロンはイゾルデに向かって剣を構えた。
しかし切っ先を向けられてもイゾルデの表情は変わらない。
イゾルデがにやりと不敵な笑みを漏らし、手をかざした。
「アーロン!!」
イゾルデの合図で無数の氷の矢が放たれた。
剣で薙ぎ払って応戦するも、次々と繰り出される氷の矢は確実にアーロンから体力を奪っていく。
対してイゾルデには、まるで疲れた様子は見られない。
このままでは結果は火を見るより明らかだ。
しかしイゾルデは攻撃の手を休めない。
そして遂にイゾルデの矢がアーロンの身体を貫いた。
「アーロン!!」
利き腕である右の肩を貫かれ、その衝撃でアーロンは膝をつく。
そしてイゾルデは終わりだとでも言うように、再び手をかざした。
「もう止めて!!私が望みなら連れて行って構わないわ!!」
リーリアはアーロンを庇うようにして前へ出た。
「い、いけません殿下!俺なら大丈夫です!!」
「駄目よ!命を粗末に扱うことは許さないわアーロン!」
ふたりのやり取りを見ていたイゾルデは、愉快そうにくつくつと笑った。
「私としてはどちらでも構いませんよ。リーリア殿下、あなたが来てくださるのならね」
「……行きます。だから皆には手を出さないで」
リーリアは、必死で止める侍女たちを諭すように言い聞かせ、イゾルデの元へゆっくりと歩み寄る。
──ユーイン様……!!
リーリアが唇を噛み締めたその時だった。
「何だ!?」
凄まじい衝撃音が頭上で聞こえたと思ったら、天井を突き破って真っ黒な塊が落ちてきたのだ。
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