8 / 56
8
しおりを挟む今でこそこんな風に普通に話せる仲ではあるが、アンジェロとの出会いは衝撃的なものだった。
あれはルクレツィアが十四の時だった。
シルヴィオの婚約者になることが決まった少しあとのこと。あの日は二人で両陛下への挨拶へ向かう途中だった。
少し離れた回廊の先、繊細な彫刻が美しい円柱の陰に隠れ、じっとこちらをみている少年がいたのだ。
ふわふわの金の髪に、アクアマリンのような美しい瞳。まるで天使かと見紛うほどに美しい少年だった……のだが、様子がとてつもなくおかしかった。
柱を握る手は白く染まるほど力が入っていて、目は血走っていた。そして凄まじい形相でルクレツィアを睨み付けているのだ。
それはルクレツィアの姿が見えなくなるまでずっと。突然我が身に起こった恐怖。ルクレツィアは震えながら少年についてシルヴィオに聞いた。どうやらシルヴィオは彼の存在に気づいていなかったらしい。特徴を説明するとシルヴィオは“ああ”と合点がいったような顔をした。そしてあの恐ろしい少年の正体は、末の弟第三王子アンジェロだという。ルクレツィアは激しく怯えた。
なにせ親バカの父のせいで、これまで身内以外と接することがなかったのだ。それなのに外の世界に出た途端、こんな敵意のようなものをぶつけられたのだ。だがそんなルクレツィアにシルヴィオは、思春期特有の態度だから気にするなと笑いながら言った。しかしルクレツィアはアンジェロとの出会いによって、長らく思春期というものについて悩むことになったのだ。
「どうしたのルクレツィア?」
心配そうな声が頭の上から降ってくる。まさか四年前のあなたの異常行動について考えていましたとは言えない。
「い、いいえ。あの、アンジェロ殿下?」
「なに?」
「どうしてお一人であの場所に?今日はダンテ卿は御一緒ではないのですか?」
ダンテとは、アンジェロのそばにいつもいる彼の近習だ。
アンジェロが幼少の頃から陰になり日向になり尽くしてきた彼の姿が、今日はどこにも見えない。
だが不思議に思うルクレツィアに、アンジェロはさらっととんでもないことを口にした。
「ダンテは撒いてきた」
「ま、撒いてきた?」
なにゆえ尊い身であり自身の安全をなにより優先すべきエルドラの第三王子様が、城内で自身の近習を撒かねばならぬのか。
「僕は今日、シルヴィオ兄上が君を王宮に呼んだと知って……おそらくあの侍女の件だろうと思った。その……どうしてもこんな狭い場所では、たとえ目を瞑っていたとしても色々見えてしまうものなんだ。こんなことになるまでなにもできなかったことを許してほしい」
「いえ……私はシルヴィオ様の婚約者です……アンジェロ殿下が公に私たちのことに口を挟めばいらぬ誤解を生んでしまいますから……」
さっきは感情的になって、彼にも理不尽な感情を抱いてしまったが、それくらいのことはルクレツィアだってわかっている。
「それでも君が傷つけられると思ったらやっぱりいてもたってもいられなかった。だから君を助けにいくつもりだったんだ。でもあいつときたら主の一大事に凄まじいタックルかましてきやがって……!」
──はて、今彼はなんていったのかしら。タックルかましてって言った?かまして?
「兄の婚約者に手を出せば大変なことになるとかなんとか頭の固いこと言いやがって……あ、いやそのね。ダンテはもう爺さんだから、走れば撒けると思って城中駆けてからここまできたんだ。僕、足には自信があるからさ」
おかしい。
ルクレツィアの知っている最近のアンジェロは、王族としての自覚も出てきて随分大人になったはずなのだが。
眉根を寄せて考えている間に、いつの間にかルクレツィアを抱いたアンジェロは見たことのない場所を歩いていた。
アンジェロは、大きな両開きの扉の前で足を止めた。
「さあ、ここが僕の部屋だよ」
91
あなたにおすすめの小説
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
※他サイト様にも載せています。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる