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しおりを挟む会場の扉が開き、主役の入場を告げるファンファーレが響き渡る。
すべてが丸く収まり夜のアハハウフフを想像しながらご満悦の王子様と、現在死出の旅路を高速で進むルクレツィア。二人は寄り添いながらホールの中央を歩き、前方で待つ国王夫妻の前まで来ると、揃って優雅な礼を見せた。
国王夫妻の隣にはアンジェロが立っていた。そして長兄カリストの姿はどこにも見えない。やはり今日も欠席するつもりなのだろう。
アンジェロは今夜の装いに、最近貴族の間で流行りのパステル調のグリーンの上着を選んでいた。ウエストコートには多色の絹糸で華やかな刺繍が施され、縫い付けられたシークインや宝石がシャンデリアの光を受けきらきらときらめいている。
──さすがだわ……やり手ね……
やはり恐るべし末っ子。流行をこれでもかと取り入れてはいるが、それを上品に着こなして見せるだけではない。自身の持つ高貴な美しさで、流行の中にほんのり漂う軽薄さをねじ伏せている。
ここはやはりアンジェロに助けを求めるべきだろう。カリストの姿が見えない以上、王子は彼しかいない。幸いにもルクレツィアに好意を持ってくれているようだから、きっと悪いようにはしないはず……よね?
国王から祝辞を賜ると、会場に音楽が流れ出す。今夜の宴はまず主役であるシルヴィオとルクレツィアがダンスを披露する予定だった。
会場中の視線がシルヴィオとルクレツィアに向けられる。
「さあ、行こうかルクレツィア」
「はい……」
満面の笑みで差し出された手のひらに、そっと自分のそれをのせる。
そして二人が会場の中央まで行き、向かい合ったその時だった。
「お、おい、音楽を一度止めろ!!皆さま、王太子カリスト殿下のご入場です!!」
音楽が鳴り止み、代わりに慌ただしくファンファーレが鳴る。
皆、思いもよらない王太子の登場にざわめきが止まらない。
──カリスト殿下が?本当に?
驚いたのはルクレツィアも同じ。目の前にいるシルヴィオに視線をやると、注目をさらわれたのが気に触ったのか、面白くなさそうに口元を歪めていた。
カリストは、腰まである金の織り糸のように真っ直ぐな髪を後ろで一つに束ね、先程シルヴィオとルクレツィアが入場した扉から、ゆっくりと国王夫妻の元へ向かって歩いていく。
その姿を見るのは久しぶりだったが、堂々と威厳のある様はなにひとつ変わらない。
「そなたが顔を出すとは珍しいなカリスト!」
国王夫妻は三兄弟を分け隔てなく愛し育てたが、カリストの才覚に対してだけは特別に評価をしていた。彼の堅物なところに手を焼いている夫妻は、このような華やかな場に彼が顔を出したことが嬉しい様子だった。
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