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しおりを挟むリエトが控室の扉をノックすると、中から扉を開けたのはビビアナではなく、また別の専属侍女だった。当然ルクレツィアも顔見知りだ。
──そういえばこの子もなかなか整った顔をしてるわね
今さらながらに気づいたが、シルヴィオの専属侍女たちは皆一様に見目がいい。シルヴィオはビビアナの容姿を“恥ずかしい”などと言っていたが、彼女だって絶世の美女とはいかないまでも、年相応のとても可愛らしい顔をしていた。
怪しい。
もしかしてこの子もビビアナのようにシルヴィオと関係を持っているのだろうか。
あの日以来ルクレツィアはすっかりシルヴィオに対し懐疑的になってしまった。
控え室の中に足を踏み入れると、シルヴィオの愛用する香水がふんわりと鼻を掠める。昔は彼の残り香にさえ胸がときめいたものだ。しかし今となっては胃がむかむかする不快な匂いにしか感じない。
「ルクレツィア!!ああ、よかった!今夜は来てくれないんじゃないかと心配していたんだよ!」
部屋の中央に置かれている豪奢なソファに座っていたシルヴィオは、ルクレツィアが入室するなり立ち上がり、そばに来て手を取った。
ぬるりとした冷たい手の感触。ルクレツィアの背筋にゾワリと怖気が走る。
「私が贈った物を身につけてくれたんだね……!それと、この前は本当にごめん……ルクレツィアが私を心から愛してくれているのか自信がなくて……だからあんな嘘をついて君の気持ちを確かめようとしたんだ」
青い海のような瞳に、これでもかというほど涙を貯めてルクレツィアを見つめるシルヴィオ。許しを得られるまでは永遠にこのままでいるつもりなのだろうか。なにか返さなければならないが、ルクレツィアの口輪筋はそれを全力で拒否した。
「ヘー……ソウナンデスネー」
自分で言ってても恐ろしいほど声に抑揚がない。どこに逃亡したんだ私の愛嬌。
「ルクレツィア、もしかしてまだ怒っているのかい?そうか……それも当然だよね……でも私は嬉しかった」
嬉しい?なにそれ。あの地獄絵図のなにが嬉しかったっていうの。
「君があんなに取り乱すところを初めて見たから……そんなに私のことを想っていてくれたなんて……言葉にできないほどの喜びだった」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。ビビアナのことは嘘なんかじゃない。そのことに私が気づいているのもこの人は知ってるはず。それなのに、よくもこんな平気な顔でペラペラと嘘を重ねられるものだ。
「ビビアナとは本当になにもないんだ。私は清い身体だよ……今夜、調べてみるかい……?」
手の甲に口づけられ、怖気どころか全身が痙攣しそうだった。しかしシルヴィオが手に口づけようと下を向いた瞬間、ルクレツィアは見てしまった。
扉を開け、迎え入れてくれた侍女の口元が僅かに上がっているのを。
──間違いない。このワカメ頭、あの侍女ともいたしちゃってるわ……!!!
「シシシシ汁ゔぃお様!!じゃないわシルヴィオ様!!」
「なんだいルクレツィア?なんでも言って?今日の私は君の奴隷だ。どんなことでも聞くよ」
「あああ、あのですね!祝宴が始まりましたら少しおそばを離れてもよろしいでしょうか!?」
「ルクレツィア、もしかして緊張してるの?ふふ、本当に可愛いんだから。でもどうして離れてしまうの?一緒では駄目なの?今日の私をひとり占めできるのは君だけなのに。会場にいる皆に見せつけていいんだよ?私が君のものだって」
お願いだからねっとり見ないで。ていうかあなたをひとり占めって、いったい誰がなんの得なの?本当にどうしてこんな人を好きだったのかしら!見る目がないとか節穴だとか、もうそういう次元じゃないわ!!
ええい仕方ない!女は度胸よ!!
ルクレツィアは物憂げな表情で、シルヴィオの頬を両手で包んだ。
そして吐息が触れるほどの距離に顔を近づけたあと、スリ、と親指の腹でその頬を擦る。
「シルヴィオ様のものになる前に、お友だちに挨拶をしておきたいのです。だって……今夜シルヴィオ様と閨を共にしたら、きっとしばらくはルクレツィアを離してくださらないでしょう?私も……シルヴィオ様から離れたくありませんもの……だから……ダメ?」
最後は余裕たっぷり。言葉には余韻を持たせ、妖艶に微笑んで見せた。
今夜彼の兄弟に助けを求める。だが失敗したら人生が終わるのだ。どうせだったらとことん自分を追い込んでやる。ルクレツィアは覚悟を決めた。
「だから……しばらくの間、疎遠になることを許して貰えるようお願いしたいのです……ね、シルヴィオ様……」
そっと耳元で囁くと、シルヴィオはすぐに頷いた。
「わかったよルクレツィア……君の思う通りにして……!!」
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