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しおりを挟む【そのドレス】とはルクレツィアが今着ているドレスのことを言っているのだろうか。まさかそんなと思ったが、カリストの目線を見る限り間違いではなさそうだ。
このドレスが他のご令嬢の注文したもの?
しかも無理に譲ってもらったって……いったい誰が?
そういえばさっき……
【お前、アストーリ侯爵家のご令嬢に話があるのではないのか?色々と便宜を図ってもらったそうじゃないか】
そうだ。カリストがそう言った直後、シルヴィオは気まずそうな顔をして足早に去っていった。
ルクレツィアの頭の中に、ある一つの疑問が浮かぶ。
──一介のご令嬢が第二王子に図れる便宜っていったいなに?
まさか。いやまさかそんな。
有り得ない。有り得ないけど、カリストの瞳はいい加減認めろと言わんばかりにこちらを見つめていた。
「これはまさか……アストーリ侯爵家、アラベッラ様のドレスなのですか……?」
ルクレツィアは声を震わせ訊ねた。
アラベッラとはアストーリ侯爵家の長女で、年はルクレツィアと同じ十八歳。確かもうすぐ婚約されるのだと聞いていた。相手はランベルディ公爵家の二男。
ランベルディ公爵家といえば、ルクレツィアにとっては少なからず因縁のある家だ。
ルクレツィアの社交界デビューの日、シルヴィオがエスコートを頼まれていたにも関わらず、あっさりと袖にしたご令嬢、カーラ・ランベルディの生家だから。
「大方シルヴィオがカーラに口八丁手八丁で頼み込んだのだろう。カーラはまだシルヴィオのことを諦めきれてはいないようだからな。アラベッラも、未来の義姉から頼まれては嫌と言えなかったのだろう」
ルクレツィアは絶句した。
カーラがまだシルヴィオを想っているというのなら、このことは間違いなくルクレツィアに対する嫌がらせだ。だって万が一このドレスの真相がバレたなら、ルクレツィアはしばらく社交界に顔を出せないほどの大きな恥をかくことになるからだ。
だがカーラはどうだろう。それがシルヴィオの頼みであったとなれば、ランベルディ公爵家にはなんの罪もなく、アラベッラはドレスを取られた悲劇のヒロインといったところだ。
王族を悪く言うものなどいない。悪者はルクレツィアひとり。
「もう……本当に、どこまで私を馬鹿にすれば気が済むの……?」
シルヴィオはルクレツィアを裏切っただけではない。婚約式の日を指折り数え、幸せな未来を描きながら完成の日を待っていただろう女性のドレスを、権力を使って無理矢理取り上げた。それも、自分に想いを寄せる女性の心をうまく利用してだ。
──もう駄目だ
張り詰めた糸がぷつんと切れたように、身体から力が抜けていく。これまで我慢してきたものが、一気に溢れ出す寸前のところまできていた。
「ルクレツィア。そなたはどうしたい。今日はそれを聞きにここまできた」
「なぜ……なぜですか?なぜカリスト殿下がそんなことを?」
「そなたを愛しているからだ。もうずっと前から」
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