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しおりを挟む“そなたを愛してる”?
今カリスト殿下“そなたを愛してる”って言った?
あまりにも突然のことに、理解が追いつかない。ルクレツィアの顔からは、長年の教育と訓練によって身についたはずの淑女の微笑みが消えた。そして驚きの表情を隠しもせず、じっとカリストの瞳を覗き込んだ。
するとカリストは目を細め、“そっちの顔のほうがずっといい”と言った。
「そなただけだった。私に取り繕わず微笑み、話しかけてくれたのは。もちろんそなたがそんな風に接してくれたのは、私がシルヴィオの家族だったからだろうけれどな」
取り繕わず微笑みかけた?
そんなこといつ?だって失礼をしないようにといつも気を遣ってきた。最初の頃以外は……
──もしかして、あの頃のことを言っているの?
初めてカリストと顔を合わせた時、ルクレツィアは社交界デビューしたてのなにも知らない子供だった。
大好きな人ができて、その人も自分のことを好きになってくれて、あっという間に婚約することになった。
こんなに素敵な人のご家族だ。きっと素敵で優しい人たちに違いないと、あの頃のルクレツィアは、あろうことかエルドラ王家のご一家に対し、まるで自身の家族にするように無邪気に振る舞ってしまった。
『カリスト殿下ですね!まあ、なんて綺麗な御髪なのかしら。アンジェロ殿下も天使のように可愛らしいけれど、カリスト殿下は大天使様のように美しく神々しいわ!』
そんなことを大声で、初めて会ったばかりの王太子に言ってしまったのだ。
彼の家族もなにも言わないものだから、ルクレツィアはその後もカリストに向かってベラベラと喋りかけた。
普段はなにをしているのか、好きな本はなにか、挙句の果てには“今度一緒に庭園をお散歩しましょう”とまで。
無邪気にも程がある。そんなことをしばらく続けていた頃、さすがに世間というものを少しはわかってきて、いかに自分が失礼なことをしていたのかを知り、態度を改めた。
まさか、あんな素のままの失礼な私が気に入ってたっていうの?この笑わない喋らない、なに考えてるのかさっぱりわからない人が!?
「私ならそなたも、そなたの家族にも傷一つつけずに救ってやることができる」
「それは……」
願ってもない申し出だ。今すぐにでも縋り付いてしまいたい。
でも彼とてなにもせずに力を貸してくれるほどお人好しではないだろう。
「殿下はなにをお望みなのですか」
「そなただ。私の手を取れルクレツィア。そなたが私を選ぶなら、今宵シルヴィオから解放してやろう」
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