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しおりを挟む「お嬢様、お目覚めになられましたか?」
「マグダ。今何時かしら?」
「十時を少し回ったところですわ。旦那様からは、お嬢様をゆっくり休ませるようにと仰せつかっておりました」
「そう……あら、これは……もしかして薔薇かしら?素晴らしい香りね」
「はい。今朝一番に王宮より届きました……その、カリスト王太子殿下からでございます」
「カリスト殿下から!?」
見るとテーブルの上にはガルヴァーニ侯爵家に置いてある中でも最大級の花瓶に、真紅の薔薇が数え切れないほど生けられていた。そしてその後ろには、円や楕円、四角い形をした大中小様々な箱の山が。
「マグダ……あの箱は……なに?」
「こちらもカリスト殿下からの贈り物でございますわ。ここにあるものはごく一部ですが」
「ごく一部!?」
この位置から見えているだけでも部屋の半分は箱の山で埋まっている。これでごく一部とは!?
「宝石類や靴、その他の小物などはここに運ばせていただいたのですが、部屋に入り切らなかったものは応接室の方に置いてあります。そちらはすべてドレスになります」
ルクレツィアは着替えを後回しにしてガウンを羽織り、階下にある応接室へと向かった。
部屋の中にはルクレツィアが余裕で入れるほどの大きさの箱が五つ。
マグダと他の侍女にも手伝ってもらい、箱を開けていく。
「……すごいわ……」
目の前に並んだ五着のドレスは、ルクレツィアも見たことがないほど豪奢なものだった。
デザインは流行と伝統の両方を押さえてあり、式典や舞踏会、晩餐会にお茶会と、色や形もそれぞれが用途を計算して作られているとしか思えない。
「これは既製品じゃないわね……それにサイズも私に合わせて作られてる。どうして……?」
「それについてはこれを運んでいらっしゃったカリスト殿下の近習の方から少しその……ご説明というかなんというか……」
「カリスト殿下の近習……オリンド卿ね……大丈夫よマグダ。教えてちょうだい。オリンド卿の性格と情緒に色々問題があるのは承知しているから」
オリンド卿とは、長くカリストの近習を務める男性だ。しかし彼はカリスト愛が重すぎる上に、とにかく物言いが辛辣だった。
個性溢れる三兄弟はその近習までもが個性的。類は友でなく厄介な近習を呼ぶのだ。
──あ、でもリエト卿はまともだわ
よりにもよってあんな真面目な青年がシルヴィオの近習とは。選ぶ側でなく、選ばれる立場というのもつらいものだ。
ルクレツィアの許可を得たマグダは、口元を手で覆い隠し、小声でオリンドが残した言葉を復唱した。
【カリスト殿下は常日頃嘆いておられました。そのふわふわとした頭髪と同じくらい頭の中身の軽い弟君が、しみったれた物しかルクレツィア嬢に贈らないと】
「しみったれた……そう……そうですか……言わば私はしみったれ令嬢ってことね……」
「お、お嬢様!まだ続きがございます!それと、このドレスは無駄になるかもしれないとわかっていて、カリスト殿下がルクレツィア様のために作らせていたものだと」
「どうしてそんな……まあ、でもそうか……」
カリストは公衆の面前で、ルクレツィアを愛してるとまで言ったのだ。それが本当だとすれば充分有り得る話だ。
──シルヴィオからの安っぽい贈り物を身に着けて笑うルクレツィアを見ていられなかったのかもしれない
本当はルクレツィアだってわかってた。
“これがシルヴィオ様の愛なの”だなんていい子ぶって、贈られる物を黙って身につけていたけれど、本音を言えばもう少しお洒落をして一緒に並びたいと思っていた。
それにシルヴィオが贈ってくれるドレスよりも、父が与えてくれる物の方が高価なのも知っていた。けれどおねだりなんてできないし、したくなかった。
そんな思いを抱くルクレツィアをカリストはどこかから見ていたのだろうか。
「目録と共にお品も拝見いたしましたが、宝石類もそれは素晴らしいものばかりでした……あ、それとこちらを……忘れるところでした!」
マグダは銀盆にのせられた白い封筒をルクレツィアに差し出した。
差出人の名はカリストだ。
添えられていたペーパーナイフで封蝋を開けると、封筒と同じ上質な白い紙に神経質そうな美しい文字が綴られていた。
【アラベッラのドレスの件は気にするな】
え?これだけ?
呆気にとられたルクレツィア。しかし何度見てもその一文以外記されていない。
いや、気にするなって言うならそれは私にじゃない?こんなに大量に贈り物をしてしまったけど気にしないでねって一言あってもいいんじゃない?いや気にするなって、アラベッラ様のことは物凄く気になりますよ。人間だもの。
会って謝らなきゃと思ってますよ。
「ル、ルクレツィア様!」
呆然とするルクレツィアの元に、慌てた様子の執事がやってきた。
「どうしたの?」
「ア、アンジェロ殿下の使者の方がいらっしゃいました!!殿下からルクレツィア様への贈り物を持参されたそうです!!」
「え……」
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