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しおりを挟む「アンジェロ殿下、ただいま戻りました」
ダンテがアンジェロの部屋に足を踏み入れると、徹夜で疲労困憊の彼はソファに横たわっていた。
部屋には大量の紙と絵の具が散乱している。
「ダンテ!!ルクレツィアはなんて言ってた!?」
ダンテの言葉を耳が拾った瞬間、アンジェロの上半身はバネのように跳ね上がった。恐るべき瞬発力に驚きダンテは少し後ずさる。
「お返事は聞かずに戻ったのでなんとも。しかしちゃんとご本人にお渡しいたしました」
「なんで感想を聞いてきてくれないの!?」
「それは……」
ルクレツィアが夜着で出てきたためだと言えば更にやっかいな事態になる。ダンテはなんと答えるべきか逡巡する。
「その、ルクレツィア様もお忙しいようでしたので。侯爵邸内はカリスト様からの贈り物が溢れかえっておりましたし……」
「カリスト兄上が!?ルクレツィアに贈り物!?」
「ガルヴァーニ侯爵邸に向かう途中、オリンドと行き違いましたので、おそらく間違いないかと」
「なんだよ……くそっ!僕も絵本なんかじゃなくてプレゼントにすればよかったかなぁ……」
兄王子の婚約者であるルクレツィアへ不毛な恋を続けるアンジェロのことを、ダンテはずっと見守ってきた。
ルクレツィアの幸せを第一に考え、つらくても自身の気持ちを押し殺し、遠くから見つめるいじらしい姿に切なくなったこともある。
そんなアンジェロだったが、シルヴィオの愚行が隠しきれないところにまで及び、ルクレツィアが傷つけられると知って行動を起こそうとした。
アンジェロを思うダンテは必死に止めた。兄の婚約者に懸想していたなどと、醜聞この上ない。それにルクレツィアがシルヴィオにぞっこんなのは周知の事実だった。浮気を知ったとしても、結局はシルヴィオを選ぶだろうと思っていたのだ。
しかしアンジェロは恐るべき脚力でダンテを撒き、ルクレツィアに手を伸ばした。
ルクレツィアへ求愛することに関しては未だ賛成する気持ちにはなれない。しかし項垂れるアンジェロの姿を見ていると、なんとも言えない気持ちになる。それと昨夜の奮闘にも。
夜会が終わる前に一足早く退出したアンジェロは、自室まで全力疾走し、突如絵を描き始めた。
その画力のなさも手伝って、室内は異様な光景に包まれた。目を血走らせ、一心不乱に筆を動かす姿に狂気すら感じ、侍女たちは恐怖に震えていた。
暗い空が白みだし、日が高く昇ったころ、ようやく出来上がった一冊の絵本。達成感に満ち溢れた笑顔は幼い頃のように無垢だった。
結局その笑顔に負けて、ダンテは絵本を届ける役目を買って出た。
アンジェロの努力を万が一にでも他人に壊されないようにと。
「……よしダンテ、稽古だ!次にアピールすべきは男らしさ!!訓練場に行くよ!!」
「殿下……まずは湯浴みからですな」
絵の具まみれの顔を見て、ダンテは苦笑した。
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