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しおりを挟む「シルヴィオ様、お茶のお味はいかがですか?」
任務を終えたリエトがシルヴィオの自室を訪れると、彼の専属侍女たちがまとわり付くような距離で甘ったるい声を上げていた。これも何年か前からよく見るようになった光景だ。
いつもならそれを軽くあしらいながら相手をしてやるシルヴィオだったが、今日の彼の表情はあからさまに不機嫌で、侍女の問いかけに一言も発しない。
「シルヴィオ様、ただいま戻りました」
「リエト!ああ、お前たちはもう下がれ。リエト、ルクレツィアの様子はどうだった?」
侍女たちは不満げな顔をシルヴィオとリエトそれぞれに向け、その場から離れていった。
「ルクレツィア様は……はい、可もなく不可もなくというか……」
「なんだいそのわけのわからない答えは?私の贈り物のことや、兄上たちのことについてなにも言っていなかったのか?」
「贈り物については……私も申しました通り、やはりお喜びにはなられませんでした。ちなみにガルヴァーニ侯爵夫人も同席されており、印象は最悪です」
「なぜ!?私のものになると言ったのはルクレツィアだよ?それなのになぜあの贈り物で幻滅するんだよ!?」
それは、ルクレツィアがシルヴィオから逃げるためにとりあえずついてしまった嘘だとは、わかっていてもとても言えない。
シルヴィオがなぜこんな思考に至ったかというと、そもそもがルクレツィアはまだ自分に夢中なのだという勘違いからきている。
シルヴィオは昨夜、カリストのせいで初夜?を潰されてしまったことにより、ルクレツィアが大変落ち込んでいるはずだと考えたのだ。だから“早くこれを私の前で見せておくれ”という気持ちを伝えてあげたかったそうだ。
──馬鹿だ……
どうして主はこんな風になってしまったのか。けれど何度考えてもやはりきっかけはルクレツィアとの出会いだとしか思えないのだ。
ルクレツィアと婚約するまでのシルヴィオは、劣等感に苛まれながらも決して道を外すようなことはしなかった。突出した才能を持たぬ自分を、諦めたように淋しく笑う当時のシルヴィオの笑顔はリエトもよく憶えている。
だがそんなシルヴィオに、誰もが羨む美しい婚約者ができた。あの頃、シルヴィオも確かにルクレツィアに恋をしていたはずだ。ルクレツィアの存在は、シルヴィオから淋しい笑顔を取り払った。
けれど、婚約からしばらく経った頃だった。シルヴィオは淋しい笑顔ではなく、仄暗い何かを秘めた顔をするようになった。
完璧な王子様をシルヴィオに求めたルクレツィアの無邪気な笑顔が、彼がひた隠しにしていた醜い顔を剥き出しにさせたのだろうか。
だが真実はリエトにはわからない。
「……久しぶりに剣の稽古でもいかがですか?カリスト殿下もルクレツィア様に選ばれるために皆で競い合おうと言っておられました」
「なぜ私がそんなことをする必要があるんだ!ルクレツィアは私の婚約者だ!!彼女は私のものだ!!」
「そうですか……」
それっきり、シルヴィオはリエトから顔を背けてしまった。
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