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しおりを挟む「本当に送らなくていいのか?」
「はい……オリンド卿が送ってくださいますから」
結局なんの答えも出せなかったルクレツィアを責めもせず、笑顔で正門まで送ると申し出たカリスト。
だが、これ以上一緒にいると自分の気持ちがわからなくなってしまいそうなことに不安を覚え、それを断った。
カリストはルクレツィアが回廊を曲がり、姿が見えなくなるまで宮殿の入り口から見守っていた。
正門まで案内するために前を歩くオリンド。後ろからその超絶個性的な髪型を見つめていると、なんだか彼と話をしたい気分になり、遠慮がちに話しかけてみた。
「オリンド卿……今日は色々とありがとうございました。それに、先日は屋敷の方にも来ていただいたとか……ご挨拶もできずすみません」
「……構いません。私はカリスト殿下のご命令を遂行できればそれで満足ですから」
「オリンド卿はカリスト殿下が大好きなのですね」
「だっ、大好き!?」
いきなり振り向き両手を交差して胸に当てるオリンド。頬は紅潮し、心なしか目は潤んでいるような……決して変な意味で言ったわけではないのだが、なにやら変な扉を開けてしまったようなそんな気がする。
「い、いえその……殿下方の近習の皆様はとても主想いだなと……だからオリンド卿がシルヴィオ殿下の婚約者である私をよく思われていないのもわかってます。ですがこのように気の進まない役目を引き受けてくださって、ありがとうございます」
ルクレツィアがほんの少し頭を下げると、オリンドはいつものようになんとも言えない顔でルクレツィアを見た。
「私があなたのことを気に入るか気に入らないかは関係ありません。心のままに生きることが許されない殿下が、初めて自分から手を伸ばしたのがあなただった。私は私人としての殿下が幸せであるならなんの文句も……ぐぅっ!!…なんの文句もございませんっっ……!」
いやそれ思いっきり文句がある人間の台詞ですよね。不満がないなら途中で“ぐぅっ!!”とか言わないでしょうよ。
──でも、悪い人ではないわ
主と同じできっと愛が重いだけなのだ。
「ルクレツィア!!」
聞き覚えのありすぎる声が回廊に響き、ルクレツィアは咄嗟に自身の身体を両腕で抱いた。
オリンドはルクレツィアを背に隠し、剣の柄に手をあてた。
前方からやってきたのはシルヴィオだった。
その後ろにはリエトの姿も見える。
「ルクレツィア!兄上になにかされなかったかい?私の部屋へ行こう。君とは話さなければならないことがたくさんある」
シルヴィオはルクレツィアの前に立つオリンドを睨みつけた。
「そこをどけオリンド!私を誰だと思っている」
「誰かは当然存じ上げておりますが、私はカリスト殿下よりたとえなにがあってもルクレツィア嬢を馬車までお送りするよう言われております。ですからどきません」
なんて頼もしい!間近で見ると後頭部のカットが本当におかしいけれど、頼もしすぎるよオリンド卿!
ルクレツィアはわけのわからない歓喜に身体が震えた。
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