37 / 56
37
しおりを挟むオリンドがカリストの命令を忠実に遂行してくれたおかげで、無事ルクレツィアは帰路につくことができた。
侯爵邸へ向かう道すがら、窓の外を眺めていたルクレツィアはあることを考えていた。
「もう、いっそのことオリンド卿に結婚してもらおうかしら……」
ルクレツィアは結構本気だった。
王家の三兄弟、誰と結婚したとしても結局は一生つき合っていかなければならない。
そんなこと気にならないくらい幸せになれる気は、今のところ……うん、しない。
シルヴィオとの婚約解消は少なからずルクレツィアの今後に影を落とす。しかも王家の三兄弟を揉めさせた女を娶りたい男なんているはずがない。誰だって権力者から睨まれることは避けたいから。
だがオリンドならどうだろう。
きっと彼は世間の噂など気にしない。自分の目で見たものを信用するタイプだ。
髪型はともかくとして顔は別に悪くない。しかも案外どころかかなり頼れるいい人だった。確か貴族の出で、気楽な次男か三男だったはず。
恋愛関係にはなれないだろうが、友人にはなれるのではないだろうか。
その点丁度いいことに、現在オリンドはカリストに報われない恋をしている。カリストのそばにいる限り、その想いが報われることも、だからといって消えてなくなることもないだろう。
それをルクレツィアが友人として、彼のそばで生涯励ましながら暮らしていけばいいのでは?
偽装夫婦……いや、真の友だち夫婦だ!
「なんていい考えなの!?よし!それがいいわ。もしも誰も選ぶことができなかった場合、そうしましょう!」
思いがけず今後の方針が決まってしまったルクレツィアは声を上げ、ガッツポーズをしてしまった。
*
「御前試合観覧のご案内……参加者は近衛騎士団、アンジェロ殿下にカリスト殿下……シルヴィオ様も!?」
カリストとのお茶会から帰ってきて数日後。
またしても王宮から使者がやってきた。
今回届いたのは三兄弟からのプレゼントでもお茶の誘いでもなく、手紙だった。
一週間後に王宮で開催される武術の試合を見に来るようにと記されていた。しかも殿下方からではなく、国王陛下の名前で。
「なるほど。これで息子たちを競わせて、さっさとこの騒ぎを終わらせようって魂胆ね」
ルクレツィアの母は届いた手紙を手に取り、一通り目を通したあと、少し呆れたようにそれをテーブルの上へ置いた。
「……相討ちになってしまえばいいんだよあのいけすかねえ長男も無駄にキラキラしてる世の中舐めてる末っ子も……ワカメは弱そうだから論外だろうけどな」
相変わらず父はうつむいて口からなにかよろしくないものを垂れ流している。
「……でもそんな、剣技を見たくらいで伴侶を決められるわけないじゃないの……陛下もまだ、私が愚かで夢見がちな少女のままだと思っているのかしらね」
確かにそう。これまでのルクレツィアなら“わぁ、お強いのですね!好き!”とか言って飛びついただろう。
しかし今はそんなこと思ったりはしない。せいぜい少し見直すくらいが関の山だ。
面倒で行きたくない。けれど、純粋に見てみたい気も少しする。
だってルクレツィアは本当の男らしさというものを知らないに等しい。角砂糖に蜂蜜ぶっかけたような甘い甘い言葉はこれまで山ほど聞いてきたが、自分のために真剣に戦う男の人の姿なんて見たことがない。
「ふふっ。ときめいちゃうわよ、きっと。それに……もしかしたらその日は無事に帰れないかもしれないわね」
「どうして?御前試合が終わったらなにかあるの?」
「それは……あなたのために真剣に戦ったあとだもの。勝者にはご褒美をあげなくちゃ可哀想じゃない。それに、戦いの後って荒ぶる気持ちを抑えられないものだしね」
そう話す母はなんだか楽しそうだ。
「ご褒美って……例えば?」
「うふふ……たいていは相手の望むものだけれど……まあ、キスくらいはあげなきゃかしらね?」
「キ、キス!?」
“キス”という衝撃的な言葉に血相を変えた父は急いで文机に向かい、白い紙が黒く染まるほどびっしりと返事を書いていた。
封筒の中になにかゴソゴソと仕込んでいたのは気のせいだと思いたい。
75
あなたにおすすめの小説
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
※他サイト様にも載せています。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる