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20 ユリアンの過去⑦
しおりを挟む「なぜですか!?」
クレーマンの真意を理解できないユリアンは、二人の間を隔てるテーブルに乱暴に手をついて、身を乗り出すように食ってかかった。
ツェツィーリエを誰よりも危険に晒しているのはギードたち組織の人間ではない。本来なら彼女を守るべき立場であるヴァルターなのに。
「ギードが殺されたことで奴らは一旦鳴りを潜めるだろう。だがヴァルターは必ずまた薬物を手に入れるために奴らと接触する。だからそれまで待つんだ」
「そんなことできません!彼女を囮のように使うなんて……それで万が一なにかあったら……!」
「考えてみろ。ツェツィーリエ嬢は薬物の常用者とみられるヴァルターの婚約者だぞ?彼女だって薬物に手を染めていないとは限らない」
「なんだって……?」
「だから、ツェツィーリエ嬢も我らにとっては容疑者であると言っているんだ」
「ふざけるな!」
ついに我慢の限界がきたユリアンは、テーブルを乗り越えクレーマンに掴み掛かった。しかし二人の体格差と力の差は歴然で、ユリアンの身体はあっけなく宙を舞い、勢いよく壁に叩きつけられた。
「っ……!!」
これまでの人生で経験のない痛みに顔が歪む。だが今は自分の身体より、ツェツィーリエが疑われているという事実の方が大事だった。
「ギードを誰が殺したのか、お前は知ってるな?」
決して気取られまいと思っていたユリアンだったが、唐突に言われ動揺してしまった。クレーマンはきっとすべてわかっている。ユリアンのツェツィーリエへの執着も、そのためにギードを殺したことも。彼はユリアンを告発する気だろうか。
公爵家の嫡男を捕らえたとあればそれは大手柄だろう。ベルクヴァイン公爵家をよく思わない貴族もユリアンの断罪を後押しするはず。
正式な裁きも受けさせずに市民を殺したのだ。国王でも庇いきれないだろう。
だが、もしここでユリアンが捕らえられてしまったら、ツェツィーリエの人生はどうなる?
きっと彼女はなにも知らない。ただ婚約者を健気に慕っているだけなんだ。それなのにヴァルターの婚約者というだけで、あらぬ嫌疑をかけられ投獄されるかもしれない。
これではなんのために自分の手を汚してまでギードを殺したのか。結果ツェツィーリエが疑われる方向へと追い込んでしまっただけじゃないか。自分の考えの浅さに恥ずかしくなる。
しかしユリアンに対しクレーマンが放った一言は予想していたどれとも違った。
「強くなれ」
「強く?俺一人強くなったところでなにが変わる」
「変わるさ。俺の居場所を取って代われるくらい強くなればな」
それは、騎士団のすべてを掌握するだけの力を得れば、ツェツィーリエを救う道を切り開くことができるということか。それならユリアンの答えはもう決まっている。
「いつかあんたを越えて見せる」
それからユリアンの地獄のような日々が始まったのだ。
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