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しおりを挟む「もうすぐ忘年会あるんだって」
どちらからともなく手を繋いでアパートまでの道を歩いていたら、佐藤が言った。
「あーそうだ。もうそんな時期だ。仕事納めだなぁ」
「あっという間だねぇ。加藤くん年末は実家に帰るの?」
「うーん年末年始は新幹線混むからどうしようか迷ってるんだよね。佐藤くんは?」
「俺も考え中かな」
「こっち来て初めてのお正月なんだし、親御さん待ってるんじゃない?」
自分はそうだったな、と思いながら言うと佐藤は珍しく一瞬暗い顔をした。家族とうまくいっていないのだろうかと加藤は話を変える。
「ね、今度うちで鍋しない?」
「いいね! 何鍋にしようか」
アパートに着くと暖かい手が離れた。冷えていく感覚に加藤は無性に寂しくなった。
「明日何するか決めようね」
佐藤は笑顔で手を振った。
「ねぇ悠季くん、今年のクリスマスはどうするの?」
社内で休憩中、橘先輩が声を掛けた。
「あ、そういえばクリスマスか…」
「例の人と一緒に過ごすの?」
「特に何も言ってないですね…。なんか年末年始の話先にしてました」
加藤の言葉に橘先輩が笑った。
「早く長期休みきてほしいもんね」
頷いて加藤も笑う。思い返すと去年は橘先輩と一緒にご飯を食べていた。
「今年は別々だねぇ。ちょっと寂しいな」
頬杖をついて橘先輩が加藤を見る。
「すみません…。でも一緒に過ごすかはわからないですよ」
「嘘だよ。悠季が幸せならそれでいいよ」
にこりと笑って先輩はコーヒー買いに行ってくると席を外した。クリスマスといえば、プレゼントを買った方がいいのかと思ったが、二人で決めればいいかと加藤も飲み物を買おうと橘先輩を追った。
「あのさ、クリスマスってどうする?」
ホームで電車を待っている間、加藤は切り出した。目を丸くして佐藤は加藤を見つめる。
「俺なんか変なこと言った…?」
「違うよ! クリスマス一緒に過ごしてくれるんだって思って…」
佐藤はとても嬉しそうだ。お試しで付き合おうと言ったときは強引だったのに、彼は度々こういう風に遠慮がちになる。彼の線引きは一体どこなのだろうと加藤はいつも不思議に思っている。
「お試しとはいえ付き合ってるんだし、イベントは一緒なのかなって思ったんだけど」
「ありがとう! 今年のイブは土曜日だし、人も多そうだからさ、昨日言ってた鍋その日にしようか」
「そうだなぁ。その方がいいかも」
カップルで溢れる中、男二人でお洒落なレストランというのも気がひけるなと加藤は了承した。
「ケーキでも買おっか」
「いいね! 俺あのモールに入ってるケーキ食べてみたいんだ」
彼のにこにこした顔に加藤は提案してよかったと思った。
「何鍋がいいかなぁ。どうせならクリスマスっぽいのがいいかな?」
「クリスマスっぽい鍋って何?」
二人で笑いながら電車に乗り込むと、帰宅ラッシュと少しずれているはずだがやけに混雑していた。加藤はドアを背に、佐藤と向かい合って立つ。
「なんか今日すごい人だね」
加藤の耳元に顔を寄せ、こそりと彼が耳打ちした。いつになく近い距離に加藤は心臓が跳ね上がった。そうだねと答える。耳が熱い。停車信号で電車が止まった拍子に佐藤がよろめき、加藤の顔の横に手をついた。
「ごめん、大丈夫?」
心配そうに佐藤が見つめる。どきどきしすぎて彼の端正な顔が眩しくて直視できない。
「だ、大丈夫…」
そう絞り出すのが精一杯で、胸の音が彼に聞こえてしまうのではないかと加藤は心配した。
「ライブかなんかあったのかな」
漸く電車を降りて冷たい空気を吸い込む。あれ以上あのままだと心臓が破裂したかもしれないと佐藤を見上げた。視線に気付くとにこ、と笑う。笑顔だけでこいつは人を殺せるんじゃないかと加藤は思った。
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