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997年目

05 謁見 ※チヒロ

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 ※※※ チヒロ ※※※



良くもまあ、これだけの人数が集まったものだわ、と感心した。

あれからすぐ戻ってきた第3王子殿下に「二時間後に陛下に謁見」だと言われ、怒涛の準備をされて連れて来られたのはここ。

広さも、天井の高さも体育館か、と思う大広間だった。

なんて言ったっけ?《空の間》?《空の広間》?

レリーフが巡らされ、金で装飾された空色の天井。
天井から床までのびた、太くて長い柱にはこれまたレリーフと金の装飾。
壁には大きな絵画。床には厚みのある絨毯。

……いくらするの。高そう。さすが王宮。

あまりに非日常な光景。
信じられないことに私は今、その中心にいる。

少し離れた横には第3王子殿下。――彼は成り行き上、私の世話係なんだろう。
なんというか、その………ごめんなさい。

王宮の森でパニックになって、彼にしがみついた私のせいだよね。多分。
うう。今、思い返しても恥ずかしい。でも許して欲しい。
いきなり大勢に囲まれ、大歓声を浴びたら誰でもそうなるでしょう。

でも落ち着いてるなあ。
まだ15歳だって聞いたけど。王子様ともなるとさすがだわ。

そして横の壁際には今、びっしり偉そうな……いえ、位の高そうな人たちがいる。
察するに貴族?中年の男性が多い。多分、森にいた人達だな。
私に向かって大歓声をあげた人達。よく――いえ、全く見てなかったけど。

ああ、だからこんなに早く謁見、となったんだ。
偉い人達を待たせるわけにいかなかったのね。納得。

二時間以内に私の、謁見用のドレスを作れって言われて泣いてたお針子さん達、本当に可哀想だったなあ。

この人達の為か。

なんとか助けてあげられて良かった。

それにしても……見られてる!凄く見られてる!穴があくわ!
うわ。絶対、目を合わせないようにしよう。前だけ見ていよう。
……でも声は聞こえる。こちらを見て何かこそこそ話してる。なんなの。

ああ、数百年ぶりに現れた『空の子』だっけ。

そりゃ珍しいよね。わかるよ。わかるけどさ。でもそんなに見ないで。
こちらを見てにやにやしながら話さないで。無遠慮にも程があるでしょう!
うう。私は動物園の珍獣か。もう、いや。勘弁して……。

……うん。これは早く退散しよう!

きっと期待されてる。
そりゃそうだ。歴代の『空の子』の先輩たちはみんな絵本になる程の、いわば《英雄》だったんだから。

でも私は違う。
それはちゃんと言わなくちゃね。すぐにバレるから嘘はだめ。

だけど《役立たず》だからと即・追い出されるのも絶対だめ。

なんせ私、ここの常識どころか自分のことも何も知らないし、身体は10歳くらいだもの。

《役立たずですが、暫く面倒見て下さい》

この本音を……

―――さて、なんて言ったものか


悩んでいるうちに声があがって、大広間の奥に国王様が悠然と姿を見せた。

豪華な金の飾りをあしらった濃紺の服を着た国王様は50代半ばくらいだ。

両脇には王子様たちかな。国王様と顔も雰囲気も似た30歳くらいの男性が二人。
第1王子殿下と第2王子殿下なのだろう。
片方の王子殿下の横にはドレス姿の女性――多分、王子妃様が従う。

用意されていた豪華な椅子に国王様たちが座ればさあ、謁見の始まりだ。

前に国王様御一家。
周りには偉そうな人達(たぶん貴族)。
少し離れた横に第3王子殿下。

真ん中にポツンと置かれた私は、なんだか罪人みたいだ。

裁く王様に、
裁判を見に集まった野次馬。
第3王子殿下は役人ってところか………

―――って、いやいやいや!
何考えてるの。暗い想像はやめよう!明るく明るく!

怯んだら負けだ。
勝って衣食住と自由を手に入れなきゃ。

「我が国へようこそ、『空の子』殿」

おっと、いけない。

慌てて国王様へ、さっきエリサから教えてもらったばかりのお辞儀をする。

国王様の御顔を見るのは不敬だろうし足元を見ていよう。
と、思っていたら「顔を上げられよ」と言われた。上げて良いのか。

言われた通りに顔を上げたら国王様とバッチリ目があってしまった。
気まずくて笑った。やってしまった。でも癖なのだ。仕方ない。

怒られるかと思ったが、意外にも国王様が少し笑い返してくれてホッとする。
笑顔に笑顔を返してくれるなんて良い人そう。焦茶色の髪にも親近感を覚えた。

昔、誰かに言われた言葉を思い出す。

――「大勢の人の前で話す時は《ひとりだけ》を見ていなさい」――

怯まないためのおまじない。
誰に言われたんだっけ?まあそれはいいとして。

すぐさま今回の《ひとり》を国王様に決める。
うん。強面だけどきっと優しい人だ、と勝手に決めつけ安心してしまった。

しかしお言葉を聞いた途端に頭が冷える。

「我が国の為にその知識を――」

まずい。

すぐさま発言を許してもらう。期待されても困るのだ。早く言わなきゃ!

「私はこの国のお役に立つような特別な知識を持ってはおりません」

うん。

上手に説明できたと思う。


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